ギスギスしたリバミファ

【君の名前を呼ぶと】


「ねぇ、貴方はどうして私を"お姫様"なんて他人行儀に呼ぶの?」

 英傑同士の会合が終わった直後、ゾーラのお姫様は突然そんなことを僕に訊いてきた。

「理由を知ってどうするのさ。くだらないコトで態々呼び留めないでくれる?」

 迷惑だと言わんばかりに刺々しく返すがミファーは引かず、更に面倒なコトを要求してくる。

「あのね――呼び方もそうなんだけど、もう少し私達やリンクと仲良く出来ないかなって」
「………………」

 どうも、僕が村であいつを挑発したのを誰かに聞いたらしい。

 情報の発信源はおそらくウルボザなんだろうが……相変わらず、あのゲルドの族長もお節介が過ぎる。
 近い内に余計なことはしないように、しっかり釘を刺しておかなければ。

「急に仲良くなるのが難しいなら、私も協力するよ。リンクだってきっと、貴方ともっとお話出来たらちゃんと分かってくれると思う」

 このお姫様にしても、退魔の剣の主想い人が関わると途端にすぐコレだ。

 あいつと…あいつに沢山の挑発の言葉を投げつけた僕が仲良く出来る未来を未だ疑いなく信じている姿は健気ではあるが、純粋が過ぎるのではないだろうか。
 このお姫様の考えることは僕にはあまり理解出来ない。

(――それにあいつもあいつだ)

 ミファーがあいつの為にと色々動いてくれているというのに、相も変わらずそれに勘付く様子もない。

 あいつが少しでもミファーの優しさを悟ってちょっとでも振り返ってやれば、彼らの甘酸っぱいもじれったいも通り越したよく分からないソレに僕がここまで感情を揺さぶられずに済んだはずなのに……。

「…………チッ」

 よく分からない怒りがこみ上げてきて思わず舌打ちすると、ミファーは身を竦ませて怯えるように僕を見つめていた。

「フン」

 悲しげに揺れる黃水晶色の瞳とチクリと痛む己の胸を無理矢理無視して、本丸二階のバルコニーへと向かう。

「あっ、待って……!」

 追いかけてきたお姫様に振り向かず、突き放す言葉を必死でかき集めて投げつけた。

「――生憎と、僕は王家の姫に請われただけで、君達と仲良しごっこする為に英傑になった訳じゃないから」

 そうしてミファーがまた何か言い出す前に、上昇気流で空へと逃げ出した。

 君の名前を声に出せば出す程、君と会話を交わせば交わす程――いつかこの身勝手な想いが溢れて自分が自分でいられなくなりそうで怖いんだ――なんて、たとえ死んだって教えてやるものか。

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