食べたくなる病

【食べたくなる病】


「どうしたんだいミファー、僕をじっと見たりなんかして」

 最近、リーバルさんの私を見る眼が時折怖く感じることがある。

「ご、ごめんなさい。何でもないの」
「本当に? なんだか怪しいね」

 何がと言われても、自分でもよく分からない。
 むしろ最近のリーバルさんは私にこの上なく親切で逆に申し訳ない位だ。

「ほ、本当だって。嘘じゃ……ないよ」

 なのに、こんな失礼なコトを彼に感じてしまう自分が嫌でたまらなかった。

「相変わらず、君は嘘が下手だね」
「きゃっ……!」

 急にリーバルさんの手が伸びてきて、近くの壁にやんわりと縫い留められる。

「ほら、言いたいことがあるならはっきり言ってよ」

 そうして彼の大きな翼の檻に閉じ込めれた。

「りっ、リーバル…さん……」
「これなら言いにくいコトも多少は言いやすいだろ?」

 風を封じ込めたような綺麗な瞳を細めて、リーバルさんは私を見つめる。
 ゾーラ族と似た形の瞳孔がみるみる縦に細くなるのが分かって、背中がゾクリとした。

「うぅ…っ……」

 前にも近いことをされた覚えがある。
 だから多分、今回もリーバルさんは私をからかってるつもりなのだろう。

「か、からかわないでって……」
「からかっちゃいないさ」

 かかる吐息がやけに熱っぽいし、語気にもどこか余裕がない。
 何か……悪い病気にでもかかってしまったのだろうか。

「君が思っている事を僕に素直に言わないから、こうしてるだけで」

 人に言えない事情があるにしても、今の彼に見つめられると冷たいものが体を這い上がってくるのを気のせいとするのは無理があった。

 強いて例えるなら、オオカミが小動物を狙う時のような――生きる為の糧を欲する本能が剥き出しになる刹那と同じものを感じていた。

「さ、最近…貴方に見られると、その…た、食べられて…しまいそうで…っ…」

 俯いて、おそるおそる思っていた事を白状する。顔が近い事へのドキドキというより、それに勝る彼への恐怖からの行動だった。

「――君は、そういうの鋭いよね」
「えっ……?」

 呟かれた言葉はとても小さくて、思わず顔を上げる。

「ねぇ……」
「……っ!」

 リーバルさんの大きな指先が、鷹がネズミを狩るように私の顔側面を覆うヒレに触れた。

「もしここ最近、ずっとずっと君を食べたくて苦しくてたまらなかったなんて言ったら……」
「ぁ……」

 ひどく乾いた声音。
 視線が交わった目はタスケテと訴えているようだった。

「やっぱり僕のコト……嫌いになっちゃうかな」

 そうしてパクリと、リーバルさんの大きな嘴に片方のヒレを柔らかく食まれていた。


 もし叶うならばその指その足を
 食んでみたいよ椿みたいな君

1/3ページ
スキ