英傑と小鳥

【リトの英傑とベニイロスズメ】


 ――僕がまだ戦士見習いだった頃、怪我した雌のベニイロスズメを助けた事があったんだ。

 翼を怪我したみたいで上手く飛べずに地面にうずくまっててね。助けて助けてってピィピィしつこく訴えてくるから仕方なく拾って帰ったんだ。
 薬草すり潰した塗り薬傷口に塗ったり餌をあげたり……そりゃ甲斐甲斐しく世話してあげたよ。

 ――意外?
 ふん、村の連中からも珍しいって茶化されたりしたよ。
 でもやっぱりさ、助けると決めたからには完璧に介抱してあげないとだめだろ?
 ……僕も柄にも無く張り切っちゃってたんだ。

 ――ただその鳥……とんでもなく気難しくてねぇ。
 餌をやる時以外、ずーっと空ばかり見てて僕の事なんか全く眼中に無いんだ。
 ちょっとでも触ろうとすると激しくつついてくるしさ。

 ――命の恩人なのにだよ? 酷いだろ?
 あの時はまだ僕も幼かったから地味に傷ついたね。
 傷が癒え始めてくると、籠の中で暴れ回って夜中まで鳴くからこっちも寝不足になるし散々だったよ。

 ――何週間か経って傷が完治してようやく外に逃がした時も酷かったな。
 祠の前の広場ですっかり元気になったそいつを籠から出そうとしたら、一羽の雄のベニイロスズメが飛んできていきなり僕の頭をつついてきたんだ。
 慌てて籠を開けたらそいつら僕の目の前でイチャつき始めてんの。
 怪我した小鳥の番だったんだよ、そのベニイロスズメ。
 その雄の小鳥からしてみれば、僕は愛する妻を誘拐した悪いやつだった訳だ。

 『こりゃすまないことをした。奪う気なんて毛頭ないから早く巣にお帰り!』って言ってやったら、雄の方が僕を一睨みして捨て台詞みたいにピィッ!と鳴いて二羽ともさっさとどっかに飛んで行っちゃったよ。
 ……怪我を治してあげた雌の方は僕に一瞥もせずにね。

 ――別に見返りなんて求めてもいなかったけど、アレは流石にちょっとショックだったよ……。
 気まぐれで助けたベニイロスズメにさえ振り回されるんだから、きっと僕は色恋ゴトとは相性が悪いんだろうって強く思ったね。

 ――以来、その手の話は少し苦手なんだよ。


 ◇ ◇


「……つまり何を言いたかったかというと…」
「つまり……?」
「今後そういった話を僕に相談してこないでくれってコトさ」

 自分の昔話をひとしきり語り終えたリーバルは、最後にそんなコトを言って話を締めくくった。

「も、もしかして、私が貴方にリンクのお話するの、迷惑……だった?」
「もしかしてもなくそうだよ」

 うんざりしたようにため息をついて、リトの英傑は肩をすくませる。

「あ、あの……ごめんなさい。私ったら自分の事ばかりで気づかなくて」
「良いって、分かってくれたんならそれで」

 呆れ声で言って、リトの英傑は立ち上がる。

「その手の相談はウルボザにでもするといい。君が望む答えが返ってくるとは限らないけど」
「別に相談に乗ってほしかった訳じゃないんだよ。ただ、話を聞いてもらいたくて……」
「だから、それが困るって言ってるんだけど」

 誤解を解こうと理由を言うが、ばっさりと切り捨てられてしまった。

「そう、だよね……。ごめんね。こんな話、英傑の中じゃ貴方位しか出来なくて……。つい、甘えちゃってた」
「……」
「リーバル……?」
「まぁ、どうしてもお喋りしたいんなら少しなら今後もつきあってやってもいいけど?」

 頭の後ろをガシガシと掻きながら、リトの英傑は今言っていた話と正反対な事を言い出した。

「えっ、でも……」

 リーバルはこちらを向き直って心底面倒くさそうな顔で私を見る。

「……勘違いしないでくれよ。あくまでも少しだけだからね」
「あ、ありがとう……!」
「やれやれ……君はあの時のベニイロスズメみたいだ」
「……? なにか言った?」
「なんでもない。じゃあね、これからはあまり僕を煩わせないでくれよ」

 リーバルはそう言うと、風を起こして空に飛び上がって行った。
 そのままタバンタに帰るようだ。

 リトの英傑の青い翼が夕日の光を受けて紫に輝く。
 いつかリーバルが自分の翼が夕日にとても映えるから夕暮れ時に飛ぶのが一番好きなんだって自慢げに言ってたっけ……。

「ふふっ、自慢したくなるのも分かる気がする」

 隣で未だ立ち上る彼のつむじ風に吹かれながら、しばらくその綺麗な紫色の翼が見えなくなるまでずっと眺めていた。

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