リバミファ二次小説

【僕とドングリとお姫様と】


 ―――ハイラル城、英傑の間。

「ねぇ、リーバルさん。今、お話してもいいかな?」
「別に構わないけど……今日はどんな話をするんだい?」
「――あのね、リンクの話なんだけど……」
「…………」
(――また、あいつの話か)

 英傑同士の会合が始まる待ち時間の雑談に、またミファーがあいつの話を始める。
 お姫様の話は、特にあいつのこととなると余計に長くなる。

「――まだあの子が小さかった頃……」

 おもむろにポーチに入れていたおやつ用のドングリをいくつか取り出し、英傑の間に設えられた豪奢なテーブルに転がす。それを時々口に放り込みながらミファーの話を聞くことにした。

「ゾーラの里の宿に彼が彼のお父様と泊まった時……」

 頬杖をついて、彼女の言葉に耳を傾ける。
 この間は確か昔あいつがゾーラ族の子供たちに泳ぎを教えた話をして、それより前はあいつの繰り出す回転斬りの美しさとやらを熱く語ってたっけ。
 ミファーは僕に会う度、退魔の剣の主の話を聞かせてくる。
 大方、あいつの事を理解してもらえれば仲良く出来る筈だと信じての言動なのだろう。

(心底くだらない……)

 僕としてはあいつが剣以外にどんな武器が得意なのかとか、どんな魔物を何匹倒してきたのかとか、そんな話を知りたいのだが……。
 このお姫様から聞けたのは子どもの頃から大人にも負け知らずだってことと如何にあいつの回転斬りがすごい技かって話くらいだった。

「――それで……あの子ったら、ガンバリガニに頬をハサミで挟まれちゃって」

 ただ、ミファーから聞かされるあいつの昔話はどれも理解の範疇を超えるものばかりで退屈せず、聞かないという選択はなかった。
 実は苦手なものの一つでも知れれば御の字と思ってるなんて知ったら、このお姫様は怒るかもしれないが。

 でも、だからと言ってずっとあの剣士の話を延々聞かされるのも愉快であるわけでもない。
 あいつの話をしている時のミファーの幸せそうな顔を見てると、よく分からないイライラが溢れ出して胸の辺りが酷くムカムカしてしまうのだ。

「はぁ……」
「――ねぇ、ちゃんと話聞いてる?」

 何となくため息を吐いて何個目かのドングリを口に放り込もうとした時、ミファーが不安そうに僕に視線を投げてきた。

「……聞いてるって」

 ドングリを食べる手を止め、お姫様に向き直る。

「まだ小さかったあいつが里の宿で寝てる時、入り込んで来たガンバリガニに頬をハサミで摘まれて飛び起きたんだっけ?」
「そうそう、それでリンクったら珍しくずっと涙目になってて。私が膝枕して宥めてたらそのまま寝ちゃって……」

 ミファーはそこまで言って、また大事な宝物を眺めるように優しく目を細めて微笑む。

「あの時のリンク、可愛かったな……」
「……」

 その顔に説明不可なむしゃくしゃが上昇気流のようにせり上がってくる。

「……フン」

 ガタンと音を立てて椅子から立ち上がり、すぐ後ろの窓に振り返った。

「リーバルさん……?」

 不思議そうに僕を見るミファーを後目に、手に持ったままだったドングリを思いっきり窓の外に投げつけた。
 ビュッと腕が勢い良く振れる音がする。
 存外に力がこもっていたらしい。
 投げたドングリは城壁をあっという間に通り越して城門の方に消えていく。
 数秒後、カン……とそちらの方角から微かに高めの金属音がした。
 どうも、投げたドングリが城門にぶつかったようだ。

「――――」

 二人きりの英傑の間がシンと静まり返る。
 僕の不可解な行動に背後のミファーも絶句してるようだった。

(――なに、やってんだか)

 こんな……子どもみたいな八つ当たりして僕は何がしたかったのか。
 大人気無いにも程がある。

 投げてしまったドングリは他のより実が大きくて大事に取っておいた一粒だったので余計に後悔の念が強まる。
 むしゃくしゃを発散するどころか余計に増やしてしまっては世話はない。

 ――やはり、このお姫様と一緒にいると僕の調子はあいつといる時以上に狂っていく。
 だから少し苦手なのだ。僕はこのお姫様が……。

「……す、すごい」

 ふいに背後から小さな拍手の音が聞こえてきた。
 振り返るとミファーが僕を驚いた顔で見て拍手していた。

「今の、どうやったの?」

 心なしか、お姫様の目が輝いてるように見える。
 ただドングリを投げただけなのに、ちょっと意味がよくわからない。

「い、いや、どうって言われても」
「私の里では貯水湖で小石を投げて遊ぶことがあるんだけど……」

 お姫様は興奮しているようで早口で一気にまくし立てた後、ひと呼吸おいてまた口を開く。

「リンクでも、あそこまでの距離はきっと届かないよ」
「へぇ……?」

 その言葉に僕がどんな気持ちになったかもつゆ知らず、お姫様は嬉しそうに話を続ける。

「貴方が里に遊びに来てくれたら、皆きっと喜んでくれると思う」
(なるほど、そうきたか……)

 いつもならこんなコト言われても突っぱねるが、ここまで褒められたら考えないこともない。

「……ま、いつか来てあげてもいいよ」
「本当に?! いつか、必ずだよ?」
「ああ、勿論さ」

 ミファーは本当にうれしそうに微笑む。このお姫様はただただ真に純粋なのだとそれで改めて思い知った。

「――眩しいな」
「? どうしたの?」
「いや、何でもない。独り言。ほら、そろそろ会合の時間だ。お喋りはまた今度ね」
「うん。私の話、聞いてくれてありがとう」

 そこでちょうど姫達が英傑の間にやってきて、僕らの会話はお開きとなった。

(――――? あれ……?)

 その時、『彼女との話が終わって残念だ』という気持ちが心の中にふっと湧き上がる。まるで穏やかな泉のように柔らかな、不思議な感覚……。一体……これは……?

(……だめだ。よく分からないけど、これは僕的に良くない類のものだ)

 急に沸き起こった不思議な感覚を否定するようにゆっくり首を振り、僕は僕の為に用意された席に着席した。


唇を開けばあいつのことばかり
豪速ドングリ投げつけた空
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