吸血鬼パロなリバミファ

【口癖が似てくる】


 ―――ハイラル城、英傑の間。


「ふふっ、それって愚の骨頂だね」

 ミファーがリーバルみたいな言葉をこぼしたのは、英傑同士の会合後に開かれたお茶会の最中だった。

「「……」」
「…ゲホッ、ゲホ、ゴホ……!」

 御ひぃ様とリンクはナミバトが米をぶつけられたような顔で目を見合わせ、私の隣に座っていたリーバルは飲んでいたハーブティーを盛大に咳き込んでいた。

「えっと私、何か変なコト言っちゃったかな……」

 本人は無意識だったようで、ミファーは私らの顔を不安げに見回す。

「あ、そうではないのですよミファー。貴女が『愚の骨頂』という言葉を使うとは思わなくて、驚いてしまったんです」
「えっ、嘘……」

 御ひぃ様の答えにリンクも驚いた目もそのままにこくこく頷いている。普段表情の見えない彼女の幼馴染があれだけ驚くのだ。余程意外なのだろう。

「ミファー、そんな小難しい言葉使ってると今にリーバルみたいに面倒くさいやつになっちまうよ」
「う、うん……」

 そこで素直に頷いてしまうのがミファーのある意味豪胆なところだと思う。

「げほっ、げほ……! ウルボザあんたっ、僕が面倒くさいってどういうコトだよっ……! それにミファーも普通に肯定しないでくれよっ…ゴホッ……!」

 激しく咳き込みながら、リーバルは几帳面にも私とミファーにそれぞれツッコミを入れてくる。

「ほら、咳き込みながら喋るんじゃないよ」

 仕方なく、未だに咳き込むリーバルの背を軽く叩いてやった。

 相変わらず、このリトの英傑は細かい。
 それだけ周りをよく見てるということには違いないのだろうが、もっとおおらかにどっしり構えていればヴァーイにももっとモテるようになるだろうに……。
 素材はいいのにつくづく勿体ない。

「そうやっていちいち小さなことまで一々ツッコミ入れてくるのが面倒くさいんだって」
「…っ…もう、助け舟出すならもっと早く出してよね」
「全く、そういうところだよ。なぁミファー」
「………」

 話を振るが、ミファーはなぜか深刻そうな顔をして俯いていた。

「ミファー?」
「……」

 再度呼びかけるがこちらへの返事はない。
 代わりにごく小さな声で『飲み過ぎちゃってるのかな…』とよく分からないことを呟いていた。
 酒の話……ではなさそうだが、なにか人に言えない事情でもあるのだろうか。

「ほら、おめぇがガーガー言い立てるからミファーが落ち込んじまったじゃねぇか」
「いやいや、ただの指摘でなんでそうなるのさ」
「――えっ?」

 黙り込んでしまったミファーをダルケルも心配したのか、リーバルを叱り始める。

「あっ……ち、違うのダルケルさん。少し考え事してただけで……」
「本当かぁ? こんな時は遠慮せずにしっかり吐き出しちまった方がお互いのタメだぜ?」
「遠慮なんて……えっと、本当になんでもないの」
「そ、そうか? ならいいんだがよォ」
「うん。心配ありがとう、ダルケルさん」

 ダルケルをいなすようにミファーは柔らかい笑みを浮かべていた。

「リーバルさん、その……ごめんね。私のせいで貴方を困らせちゃって……」

 ミファーは酷く申し訳なさそうにリーバルに謝る。
 そこまで深刻な話でもないのに、ちょっと生真面目が過ぎる気もする。

「………別に、使いたければ使えばいい。僕が考え出した言葉でもなし、気にすることなんてないさ」
(へぇ……)

 意外なことにリーバルは先程までの態度から一変して、ミファーに嫌味の一つも言わず逆にフォローまで入れていた。
 ヴォーイの受け答えとしては及第点だが…。
 普段意地っ張りのヴァードの口からそれを聞けるとは思わず、つい頬が緩んだ。

「リーバルさん……」

 その時、英傑の間の真上にある鐘楼の鐘が厳かに今日の日暮れを告げる。

「あっ! もう帰らなきゃ」
「今日はお共のゾーラ族……いないんだろ? ダルブル橋辺りまでで良いなら送ってくよ」

 これまた珍しく、リーバルは自らミファーの送迎を提案する。

「え、でも」
「いいから。最近イーガの連中が旅人に化けて人を襲ってるって話、聞いてないの?」
「それは、聞いてるけど……」
「けど、なにさ」
「私だって槍を扱えるし、帰りは川を泳いで戻るつもりだから一人でも平気だって」

 ミファーは困ったように部屋の脇に立て掛けていた優美な愛槍をチラと見やる。

「……川を遡上中に電気の矢で狙い撃たれても無事でいられる自信があるなら、僕も無理強いはしないけど」
「……むっ」

 ミファーはリーバルの嫌味にカチンとしたようでキッと睨む。
 だがその数秒後、顔をハッとさせてまたどこか気まずげに俯いていた。

「や、やっぱり……お願いしようかな」
「了解。ほら、そうと決まれば早く発つよ」
「うん……ありがとう」

 リーバルもそうだが、ミファーのあいつへの態度も以前と変わってしまったように思う。
 今のは英傑同士の会話と言うより、主を諌める従者と従者の諌言に遠慮なくムッとする主のソレだった。


 ◇ ◇


「えっと、じゃあ姫様、皆……お先にお暇するね」

 ミファーは背中に光鱗の槍を背負い、私らに丁寧に別れの挨拶を口にする。
 その背後、謁見の間へ続く階段の方ではリーバルが態とらしくカツカツと鉤爪を打ち鳴らしていた。
 もう少し静かに待ってられないのかと言いたくもなったが、ミファーの帰りが遅くなるのも拙いので黙っておくことにした。

「リーバルもミファーも道中気をつけてくださいね」
「はい!」
「リーバル、ミファーが舌噛むような飛び方したら承知しないからね」
「分かってるって。僕を誰だと思ってんのさ」

 リーバルに忠告すればお決まりの台詞と共に階段を降りて行った。


 ◇ ◇


「なぁ……」

 本丸の出入口からラネール地方に飛び立つ二人を見送った後、ダルケルが神妙な顔で口を開いた。

「最近のリーバル、ミファーにだけ妙に優しくねぇか?」
「……確かにな」
「言われてみれば……」
「いつもなら今日みてぇな時は嫌味の一つや二つは当たり前だっただろ? それが全く無かったんで驚いたぜ」
「……そういえば」
「なんでぇ相棒、おめぇもいっちょ前に嫉妬かぁ? ははっ、"セイシュン"ってやつだな!」
「いや、そんなんじゃなくて……」
「じゃあ一体どうしたんだい?」
「最近、城下町の王室御用達の花屋に青い羽色のリト族がたまに来るらしいって」
「ほぉ……」
「それが大体今日みたいな英傑同士の会合の日の前日ばかりらしくて、兵士の間でリーバルじゃないかってちょっとした噂になってる」
「興味深い話だね」

 本当に興味深い話だ。普段無口なリンクが会話に口を挟むのも分かる気がした。

「そういえば……私も似たような話を侍女が噂しているのを最近耳にしました」
「御ひぃ様もかい?」

 御ひぃ様が言うには、なんでもリーバルが赤い薔薇の花束を隠すように持ってこそこそと歩いていくのを見かけたとか……。

「赤い薔薇……」
「――まさか、付き合ってる…とか……?」
「えっ」

 ダルケルの言葉にリンクが若干動揺したような声を上げる。退魔の剣の主も二人の変化がとても気になるようだ。だが……。

「いやいや、それは流石に有り得ないだろうさ」

 ミファーはリーバルみたいなタイプは苦手な部類に入るだろう。
 どちらかと言えばリンクみたいなタイプの方が波長は合いそうだ。

「何か事情があるのかもしれない。二人とも何かあったんならちゃんと私らには言うだろうし、今はまだ様子見しておこう」
「そうですね……何か悩みもあるかもしれませんし」
「何かあった時は俺らでフォローしてやろうぜ!」
「……。ダルケルのフォローはいらないかもしれない」
「お、おいおい、そりゃないぜ相棒!」

 リンクの言葉に皆で笑っている間に、リーバルとミファーの姿は夕陽に溶けて見えなくなっていた。


口癖が似てきた二人謎めいて
最近あの子に優しいあいつ

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