吸血鬼パロなリバミファ

【血を分け与える】


 ―――ハイラル城、坑道内

「……一応、奥を見に行ってみたけど、人っ子一人いなかったよ」
「……そう」

 深夜の城の坑道、二人は湿った岩壁に体を預けて座り込む。坑道の入口からはお堀の水面に写り込んだ赤い月が顔をのぞかせていた。

「ごめんね……。こんなコトにまで付き合わせちゃって」
「いいよ、気にしなくて。まさか城での会合の前日に急に赤い月が出るなんて分かるワケないさ」

 ――赤い月の光は吸血種に激しい血の渇きをもたらすらしい。
 今でさえ重度の吸血衝動に襲われているミファーが万が一にもお城の人間を襲うような事態になってはならないと、赤い月が明けるまでここに二人で身を潜めることになったのだ。

「ガンバリハチミツの飴あるけど、いる?」
「……いい。余計血が欲しくなりそうだから」

 ミファーがリーバルの血を吸って暫く経っても、彼女の吸血衝動は弱まる処か強まる一方だった。

「さっさとあいつの血を吸ってしまえばいいのに。いつまで耐える気なのかい?」

 この渇きは想い人の血を吸ってしまえばすぐに解消できるものなのだが、それをミファーは頑なに拒否し続けている。

「あの人の心を無理やり奪いたくないから」

 血を吸うという行為は相手の意志関係なくその者を自分のしもべにしてしまうのと同義である。
 リンクの心を蔑ろにするようなことをゾーラの英傑はしたくはないのだ。

「その為に君がこんなにも苦しい思いをしてるってのに? お人好しも大概にしなよ」
「…よ…余計な、お世話…っ…」

 睨むミファーの目は弱々しくも確かな怒りを帯びる。その様子にリーバルはやれやれと肩を竦めてため息を吐いていた。


◇ ◇


 赤い満月が天頂に近付くと、月にかかる叢雲も激しく揺らめき始める。

「く…っ…うぅっ……はぁ、はぁ…っ……!」

 それに呼応するようにゾーラの王女も強烈な吸血衝動に襲われ、酷く荒い息を吐き出し始める。

「……ほら、おいでミファー」

 血の渇きに苛まれて震える華奢な肩を青い翼がおもむろに抱き寄せた。

「また血が足りなくなってきてるんだろ?」

 リーバルは狩猟用の短刀を取り出し、己の小指に切り傷を付ける。
 小さいながらも鋭利な切っ先はリト族の羽毛もその下の肌さえ容易く断ち切り、彼の青い指先からじわりと血を滲ませた。
 坑道内にリトの戦士の血の匂いが僅かに漂う。

「…ぁ……」

 その香りにミファーの体がザワリと揺れ、琥珀の瞳は金色に淡く輝き始める。

「……まっかな、ち……」

 砂漠でオアシスを見つけた遭難者のように目の前の血の滴る小指に縋り付いていた。

「……っ、でも……」
「いいから」

 ミファーは躊躇うようにリーバルを見つめるが、やがてゆっくり口を開いて流れ落ちる彼の血をおそるおそる舐め始める。

「…ん…っ……ぁ、ふ……っ…」

 リトの戦士の太い小指を両手でそっと持って、ゾーラの王女は赤い舌をゆるゆると動かす。
 だが羽毛が邪魔して思うように血を舐められず、ミファーは己の口元や手を次第に汚していく。
 リーバルはミファーの苦戦する様子を暫く静かに見つめていたが、やがて溜息を吐いて彼女の耳元に嘴を擦り寄せた。

「それじゃいつまで経っても渇きは癒えないよ」
「っ!?」

 熱で浮かされたような声でリーバルは囁き、彼女の口に己の小指を押し込んだ。

「っ……むぐ…っ…ふ、んン……ぅ…」

 突然の事に驚き最初こそ苦しげな声を出していたミファーだったが、徐々にうっとりと目を細めてリトの戦士の血をこくりこくりと嚥下していく。

「牙は……立てないで……。そう、それでいい」

 リーバルは指先を吸われるくすぐったさに耐えるように声を掠れさせ、抱き寄せた方の手でミファーの頭を優しく撫でていた。


花を食むように噛み付く吾の小指
君は蜜吸う紅いてふてふ

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