吸血鬼パロなリバミファ

【事情を聞く】


「――良かった……目が覚めたんだね、リーバルさん」

 昏倒から目覚めた僕の目に最初に飛び込んできたのはお姫様の泣き腫らした顔だった。

「ぼく、は……」

 ゆっくり起き上がって辺りを見回す。
 起き上がった場所は血を吸われた城の廊下の床ではなく、ミファーの部屋のベッドの上だった。
 ……気を失った僕を彼女がここまで運んでくれたようだ。

「本当に、良かった……」

 ミファーは心底ホッとしたように涙ぐんだ目で僕を見つめていた。

「もし貴方が目覚めなかったらって……。そう考えたらすごく怖くて、涙が止まらなくて…っ…」

 血が足りずぼんやりした頭で己の嘴や頬を撫ぜると、雨に打たれたように湿っていた。
 どうも……僕が目覚めるまでの間、このお姫様はずっと泣いていたようだった。

「……」

 ミファーの泣き顔に何故だか異様に胸が締め付けられる。
 無性に涙を拭ってあげたくなって、その頬に思わず手が伸びた。
 だが……。

「……!」
「だ、大丈夫……?!」

 途中で視界がぐにゃりとねじ曲がり、危うくミファーに倒れ込みそうになった。

「だめだよ、まだ動いちゃ。これを飲んで」
「あ、あぁ……」

 ミファーに肩を支えられながらまた上半身を起こして、マックス薬を何度かに分けてゆっくりと呷る。
 薬の成分が血が足りなくなった体の隅々に染み渡る。
 ぼやけた視界が鮮明になり、頭のふらつきも次第に消えていった。

「落ち着いてきた?」
「ああ、なんとか」
「良かった……」

 ようやく持ち直した僕の様子に、ミファーも安堵したようにほぅと息を吐いていた。

「――あのね、貴方に伝えなくちゃいけない話があるの」

 意識がはっきりし始めた僕に、ミファーは沈痛な面持ちで口を開いた。

 実はゾーラの王族は吸血種であること。
 生きるのに吸血する必要はないが、誰かを愛すると激しい吸血衝動にかられること。
 あいつリンクへの恋情による吸血衝動に耐え切れず倒れてしまい、たまたまその場に居合わせた僕の血を吸ってしまったこと。
 そして、吸血された者はゾーラのように長命になる代わりに吸った者のしもべに近い状態になってしまうこと。

「ごめんなさい…っ…私のせいで貴方を…っ……」

 ミファーの目からまた沢山の涙がこぼれ始める。

「…っ……」

 その姿に"この人を悲しませてはならない"という先程より強い衝動が胸の内からせり上がり、危うく呑まれかけた。

「――僕は……平気だよ、ミファー」
「……リーバルさん」
「前より体がすごく軽いし、夜なのに視界も昼みたいにとびっきり良好だ。これならドイブラン遺跡の中だって自由に飛び回れそうだよ」
「……っ……」

 自分でも驚く程明るい声に、ミファーは何かを悟ったように顔を俯かせる。

「その、なんとなく"君に逆らっちゃいけない"ってのは感じてるけどさ。別に、僕に変な事命令するつもりなんてないんだろ?」
「う、うん……」
「なら何も問題ないじゃないか。だからもう、泣くのは止しなって」

 おどけて言って、涙で濡れた頬を拭ってやった。

「…っ…ごめん、なさい……」

 未だに謝罪の言葉を繰り返して震えるお姫様の口元には僕の血が付いたままだった。
 吸血した際にこぼれてしまったのだろうか。薄い月明かりに照らされたソレは、妖しく愛しく艶めいて清らかに僕の目にうつった。

 なにか……全く違う価値観を知らぬ間に刷り込まれたような、いびつな感覚を覚えた。

「ほら、口元も汚したままじゃないか」
「……ん…」

 もう以前の自分にはきっと戻れはしないんだろうと、微かな寂しさを感じながらミファーの顎に手を添えてその朱を拭ってやった。

「あの、私の――ゾーラの王族のことは……」
「皆には内緒……なんだろ? 大丈夫、僕はこれでも口は固いから」

 ようやく落ち着きを取り戻し始めたミファーの手を取り、まるで騎士のようにごくごく自然に王女の手の甲に己の嘴を触れさせていた。

僕の血で染まった唇震えてて
君はきよらなピラニア・ナッテリー

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