リバミファ二次小説
【眠れる王女の為のハミング】
「人が怪我した時は口酸っぱくお小言言う張本人が熱出すなんてさ。ホント、世話ないよね」
急な発熱に倒れた私をお城の自室まで運んで介抱してくれたリトの英傑は呆れたように嫌味を言ってくる。
「……ん……」
「まだかなり熱い……完全に風邪だね」
リーバルの白い指先がおでこに触れる。冷水にでも触ったのか、いつもは温かい彼の指はひんやり心地良かった。
「クスッ、君の顔…ポカポカマスみたいに真っ赤だ」
「むぅ……」
からかってくるリトの戦士を思わず睨むが、今度はぶふっと盛大に吹き出されてしまった。
ちょっと腹が立つけど、介抱された手前黙るしかなかった。
「…ぷふ、くふふっ……。もう、睨めっこは君には勝てないんだから勘弁してよ」
笑いを堪えながら、リーバルはよく冷えた濡タオルを私のおでこにポスンと乗せる。
さっきの彼の指先よりも冷たい感触に思わずほぅ、と熱っぽい吐息が自分の口からこぼれていた。
「とりあえず、あの姫がゾーラ用の解熱剤を持ってくるまではここにいるから」
僕じゃご不満かもしれないけど……と、どこか自嘲気味に呟いてリーバルはベッド横に置かれた椅子に座る。
「ほら、いつまで起きてる気? 病人はさっさと寝ときなって」
彼の大きな指が私の肩を布団ごしにゆっくり柔らかくトントンとたたく。その緩やかなリズムに次第に目蓋 が重くなっていく。
「――少しは自分の身も気遣いなよ。治癒の力が使える君が倒れたら、僕らだって戦いづらくなるんだからさ」
優しい声は子守唄のように耳朶 に響き、私を更に眠りに誘う。
リーバルもこんな声音で喋れるんだと意外に思いながら、私はとうとう眠りに落ちた。
◇ ◇
「…ミ、ファ…ミ、ファ……」
(……?)
誰かが……私の名を呼んだ気がして、沈んでいた意識がゆっくりと浮上していく。
(……ここ、は…)
微睡んだままうっすら目蓋を開けると、豪奢な緋色の天蓋がぼんやり目に映る。
――ハイラル城内の私の為にとに宛てがわれた部屋のようだ。
「……ふぅ…」
口から息を小さく吐き出すと、吐いた息は酷く熱っぽかった。
体は茹だるように熱いのに、寒気がして思わず身震いする。
それに加え、頭には少しぬるくなった濡れタオルが乗せられていた。
(そういえば、私……)
急に熱が出て倒れてしまったんだったっけ。
確か……誰かにここまで運んでもらったような覚えがある。
(あれは、誰だったっけ……?)
ふわふわした心地のまま記憶を辿ろうとした時……。
「…~……♪」
優しいハミングが聴こえてきた。
(この、声……)
目だけ声のした方に向けると、ベッドサイドに置かれた夜光石製のランプの淡い光に照らされた翡翠の飾りが静かに揺れていた。
「…ミ…ファ、ミ…ファ……」
(…リーバル……)
そうだった。
英傑同士の会合中、急に倒れた私をこのリトの戦士がここまで運び、寝かし付けてくれたのだ。
私が寝付いた後も、宣言通りここにいてくれていたようだった。
(それにしても……)
どうして私の為に作られた詩のメロディを口ずさんでいるのかは……よく分からない。
リーバルなら自分の詩を口ずさみそうなものなのに。
この人の考えてるコトは、やっぱり私にはよく分からない。
(……でも)
「…ミ…ファ、ミ……♪」
再び目を閉じて、リーバルの鼻唄に聴き入る。
(すごく……キレイ……)
いつか『僕は歌も得意でね、春先には親離れした若い雄鳥に囀り方をレクチャーしてあげてるんだよ』と自慢げに言っていたのを思い出す。
自慢する割りにどんなに頼んでも今まで一度も歌声を披露してくれなかったから、まさかここまでとは思わなかった。
(勿体ぶらずに、もっとたくさん歌ってくれてもいいのに……)
柔らかなハミングはどこか子守唄めいて――それでいて神父様がゾーラの始祖に捧げる聖句を唱えるような厳かさを漂わせる。
低めの声は寒気で震える体にじんわり染み込み、囁くような声量は熱で鈍痛がする頭を優しく撫でるように小さく部屋に響いていた。
◇ ◇
ミファーはその後もリーバルの鼻唄に聴き入っていたが、しばらくして彼は急に歌うのを止めてしまった。
「はぁ…。全く、どいつもこいつも……」
大きな溜息を吐き、今までの優しい声音は一気に不機嫌なものに変わる。
同じ嘴から発せられたとは思えない程の変わりようだった。
「――君にまで、盗み聞きされるとはね」
「!」
ミファーは一瞬ギクリとしたが、リーバルはこちらを振り向かず部屋の扉の方に目を向けていた。
……どうも、彼女と同じように彼の戦士の鼻唄を聴いていた者がいたようだ。
「さっさと部屋に入ってきたらどう? それとも、退魔の剣の主ともあろう君に何かやましいことでもあるのかい?」
扉の前で盗み聞きしていた人物はその言葉でようやく観念したのか、部屋のドアノブがゆっくり回された。
「盗み聞きする気はなかったんだが、その……すまない」
部屋に入ってきたのはリーバルの予想通り、退魔の剣の主であるリンクだった。
手には青い液体の入った細身の瓶が大事そうに握られ、瓶にはゾーラのマークが描かれたラベルが貼られている。
風邪に倒れたミファーの為に調合された薬のようだ。
「どうせ、あの姫に薬を持って行くよう言われたんだろ?」
「……。姫様に『私が行くより、貴方が行った方がミファーも喜ぶでしょうから』と」
気まずそうに頷くリンクにリーバルはどこか刺々しく舌打ちする。
「チッ……それなら普通に入ってくればいいものを。気配まで消して何したいんだか」
リトの戦士は呆れ顔で椅子から立ち上がり、リンクがいる扉の方へ歩いていく。
「サイドテーブルに飲み水が入った水差しとコップ、あと濡れタオル用の水を汲んだ桶を置いてる。そろそろ頭に乗せてるタオルが温くなってきてるだろうから、そっちも替えてあげといてよ」
看病するのに必要な要件だけ一方的にリンクに伝え、リーバルは部屋のドアノブに手をかける。
「えっ、ちょっと、リーバル……?」
それをリンクは少しだけ慌てたように呼び止めた。
まるでリーバルがすぐに帰るとは思ってなかったような……そんな顔だ。
「今度は一体何だよ」
返事をするのも面倒そうなリトの戦士にリンクはおそるおそる口を開く。
「もう、帰るのか?」
「…………」
暫しの沈黙の後、リトの戦士は皮肉げに口元を歪ませた。
「――ハッ、何を言い出すかと思えば。君がここに来たんなら僕の役目は終わりだ。せいぜい、風邪で弱った幼馴染みに優しくしてやればいい」
「けど……」
日頃無口なリンクには珍しく口ごもる。
それはミファーが倒れた時、誰よりも狼狽していたのが目の前のリトの戦士だったからに他ならない。
「…………」
そんなに心配ならまだここにいれば良いのに……と、姫付きの騎士は至極真っ当な結論を空色の瞳に張り付かせていた。
「フン……君は何も分かっちゃいないね」
退魔の剣の主の言わんとしている事を察したのか、リーバルはどこか自嘲気味に鼻を鳴らす。
「眠り姫のお目覚めにご対面出来るのは王子サマか騎士サマだって、昔から相場が決まってるだろ」
僕じゃミスキャストだよと、リーバルは振り向かずにリンクに言ってゾーラの王女の部屋を後にした。
「人が怪我した時は口酸っぱくお小言言う張本人が熱出すなんてさ。ホント、世話ないよね」
急な発熱に倒れた私をお城の自室まで運んで介抱してくれたリトの英傑は呆れたように嫌味を言ってくる。
「……ん……」
「まだかなり熱い……完全に風邪だね」
リーバルの白い指先がおでこに触れる。冷水にでも触ったのか、いつもは温かい彼の指はひんやり心地良かった。
「クスッ、君の顔…ポカポカマスみたいに真っ赤だ」
「むぅ……」
からかってくるリトの戦士を思わず睨むが、今度はぶふっと盛大に吹き出されてしまった。
ちょっと腹が立つけど、介抱された手前黙るしかなかった。
「…ぷふ、くふふっ……。もう、睨めっこは君には勝てないんだから勘弁してよ」
笑いを堪えながら、リーバルはよく冷えた濡タオルを私のおでこにポスンと乗せる。
さっきの彼の指先よりも冷たい感触に思わずほぅ、と熱っぽい吐息が自分の口からこぼれていた。
「とりあえず、あの姫がゾーラ用の解熱剤を持ってくるまではここにいるから」
僕じゃご不満かもしれないけど……と、どこか自嘲気味に呟いてリーバルはベッド横に置かれた椅子に座る。
「ほら、いつまで起きてる気? 病人はさっさと寝ときなって」
彼の大きな指が私の肩を布団ごしにゆっくり柔らかくトントンとたたく。その緩やかなリズムに次第に
「――少しは自分の身も気遣いなよ。治癒の力が使える君が倒れたら、僕らだって戦いづらくなるんだからさ」
優しい声は子守唄のように
リーバルもこんな声音で喋れるんだと意外に思いながら、私はとうとう眠りに落ちた。
◇ ◇
「…ミ、ファ…ミ、ファ……」
(……?)
誰かが……私の名を呼んだ気がして、沈んでいた意識がゆっくりと浮上していく。
(……ここ、は…)
微睡んだままうっすら目蓋を開けると、豪奢な緋色の天蓋がぼんやり目に映る。
――ハイラル城内の私の為にとに宛てがわれた部屋のようだ。
「……ふぅ…」
口から息を小さく吐き出すと、吐いた息は酷く熱っぽかった。
体は茹だるように熱いのに、寒気がして思わず身震いする。
それに加え、頭には少しぬるくなった濡れタオルが乗せられていた。
(そういえば、私……)
急に熱が出て倒れてしまったんだったっけ。
確か……誰かにここまで運んでもらったような覚えがある。
(あれは、誰だったっけ……?)
ふわふわした心地のまま記憶を辿ろうとした時……。
「…~……♪」
優しいハミングが聴こえてきた。
(この、声……)
目だけ声のした方に向けると、ベッドサイドに置かれた夜光石製のランプの淡い光に照らされた翡翠の飾りが静かに揺れていた。
「…ミ…ファ、ミ…ファ……」
(…リーバル……)
そうだった。
英傑同士の会合中、急に倒れた私をこのリトの戦士がここまで運び、寝かし付けてくれたのだ。
私が寝付いた後も、宣言通りここにいてくれていたようだった。
(それにしても……)
どうして私の為に作られた詩のメロディを口ずさんでいるのかは……よく分からない。
リーバルなら自分の詩を口ずさみそうなものなのに。
この人の考えてるコトは、やっぱり私にはよく分からない。
(……でも)
「…ミ…ファ、ミ……♪」
再び目を閉じて、リーバルの鼻唄に聴き入る。
(すごく……キレイ……)
いつか『僕は歌も得意でね、春先には親離れした若い雄鳥に囀り方をレクチャーしてあげてるんだよ』と自慢げに言っていたのを思い出す。
自慢する割りにどんなに頼んでも今まで一度も歌声を披露してくれなかったから、まさかここまでとは思わなかった。
(勿体ぶらずに、もっとたくさん歌ってくれてもいいのに……)
柔らかなハミングはどこか子守唄めいて――それでいて神父様がゾーラの始祖に捧げる聖句を唱えるような厳かさを漂わせる。
低めの声は寒気で震える体にじんわり染み込み、囁くような声量は熱で鈍痛がする頭を優しく撫でるように小さく部屋に響いていた。
◇ ◇
ミファーはその後もリーバルの鼻唄に聴き入っていたが、しばらくして彼は急に歌うのを止めてしまった。
「はぁ…。全く、どいつもこいつも……」
大きな溜息を吐き、今までの優しい声音は一気に不機嫌なものに変わる。
同じ嘴から発せられたとは思えない程の変わりようだった。
「――君にまで、盗み聞きされるとはね」
「!」
ミファーは一瞬ギクリとしたが、リーバルはこちらを振り向かず部屋の扉の方に目を向けていた。
……どうも、彼女と同じように彼の戦士の鼻唄を聴いていた者がいたようだ。
「さっさと部屋に入ってきたらどう? それとも、退魔の剣の主ともあろう君に何かやましいことでもあるのかい?」
扉の前で盗み聞きしていた人物はその言葉でようやく観念したのか、部屋のドアノブがゆっくり回された。
「盗み聞きする気はなかったんだが、その……すまない」
部屋に入ってきたのはリーバルの予想通り、退魔の剣の主であるリンクだった。
手には青い液体の入った細身の瓶が大事そうに握られ、瓶にはゾーラのマークが描かれたラベルが貼られている。
風邪に倒れたミファーの為に調合された薬のようだ。
「どうせ、あの姫に薬を持って行くよう言われたんだろ?」
「……。姫様に『私が行くより、貴方が行った方がミファーも喜ぶでしょうから』と」
気まずそうに頷くリンクにリーバルはどこか刺々しく舌打ちする。
「チッ……それなら普通に入ってくればいいものを。気配まで消して何したいんだか」
リトの戦士は呆れ顔で椅子から立ち上がり、リンクがいる扉の方へ歩いていく。
「サイドテーブルに飲み水が入った水差しとコップ、あと濡れタオル用の水を汲んだ桶を置いてる。そろそろ頭に乗せてるタオルが温くなってきてるだろうから、そっちも替えてあげといてよ」
看病するのに必要な要件だけ一方的にリンクに伝え、リーバルは部屋のドアノブに手をかける。
「えっ、ちょっと、リーバル……?」
それをリンクは少しだけ慌てたように呼び止めた。
まるでリーバルがすぐに帰るとは思ってなかったような……そんな顔だ。
「今度は一体何だよ」
返事をするのも面倒そうなリトの戦士にリンクはおそるおそる口を開く。
「もう、帰るのか?」
「…………」
暫しの沈黙の後、リトの戦士は皮肉げに口元を歪ませた。
「――ハッ、何を言い出すかと思えば。君がここに来たんなら僕の役目は終わりだ。せいぜい、風邪で弱った幼馴染みに優しくしてやればいい」
「けど……」
日頃無口なリンクには珍しく口ごもる。
それはミファーが倒れた時、誰よりも狼狽していたのが目の前のリトの戦士だったからに他ならない。
「…………」
そんなに心配ならまだここにいれば良いのに……と、姫付きの騎士は至極真っ当な結論を空色の瞳に張り付かせていた。
「フン……君は何も分かっちゃいないね」
退魔の剣の主の言わんとしている事を察したのか、リーバルはどこか自嘲気味に鼻を鳴らす。
「眠り姫のお目覚めにご対面出来るのは王子サマか騎士サマだって、昔から相場が決まってるだろ」
僕じゃミスキャストだよと、リーバルは振り向かずにリンクに言ってゾーラの王女の部屋を後にした。