リーバルと泥の人魚
【一方的な戦い】
―――オルディン地方ミズーダ湖、ルッタ内部
「えっ、どうして……?」
白いガーディアンの力を借りてルッタ後部にあるメイン制御端末室に直接乗り込むと、ミファーは豆鉄砲を喰らったナミバトのような顔で僕に振り返った。
ミファーの驚きは最もだろう。自分と同じように未知の化け物に襲われていただろう他の繰り手が助けに来たのだから。
「■■■……」
そしてその驚きはルッタのメイン制御端末前に陣取った化け物――水のカースガノンからも感じ取れた。
「すまないね、あいつじゃなくて」
「そ、そんなこと……!」
本音を忍ばせて軽口を叩けば、やはり図星だったのかミファーの声が若干上ずる。
相変わらず何を考えてるのか分かりやすい。
「ほら、それより今は目の前の化け物だよ」
「う、うん……」
慌てるミファーをたしなめ、水のカースガノンと相対する。
「……ここからは僕一人でやる。ミファー達は休んでてもらっていいから」
「で、でも……!」
「大丈夫、心配いらない」
不安げなミファーにそれだけ言って、今まで戦い通しだった彼らを庇うように前に出た。
「やぁ、数日ぶりだね。元気だったかい?」
「…■…」
友に話しかけるような気軽さで挨拶をすれば、目の前の化け物は分かりやすく動揺する。
「中身が君 だって事は分かってる」
「……!」
惑う一つ目を真っ直ぐ見て言えば、その動揺が風に吹かれた水面のように更に広がっていくのが見て取れた。
「ここで諦めて帰ってくれるならそれに越したことは…」
「■■■■■■!」
「危ない……!」
突如迫ってきた氷塊を紙一重で避けて、凍った水面に降り立つ。
「やる気は充分ってやつ? なら、相手にとって不足はないね!」
バクダン矢を番え、いつでも放てるように即座に引き絞る。
いつものミファーそっくりの姿ではないから、こちらも全力で戦えそうだ。
「さぁ、勝負だ……!」
◇ ◇
――以降は一方的な戦いだった。
悪夢を繰り返し見させられたおかげか、はたまた僕に翼があるおかげか、水のカースガノンが繰り出す全ての攻撃に対して落ち着いて対処することができた。
地面を氷結させる技も空中にいれば安全だし、他の攻撃も避けるのは容易かった。
一度負けかけたからではあるが、元の状態の彼女の方が強く感じた。
「……ッ…」
ひどく一方的な戦いに、脳裏に焼き付いた悪夢が重なって頬の傷がまた激しく痛む。
化け物になぶられ倒れた悪夢はきっとこの化け物の……いや泥人魚自身の悪夢なのだろう
そうして一番なりたくない自身の仇そのものになってしまった彼女を、今度は僕が一方的に攻撃しているのだ。
なんたる皮肉。
望んだ形ではないにしろ、ようやく己の神獣を取り返せるという段になって悪夢の自分と同じように倒されるのだから。
――彼女は怒っているだろうか。
わざわざ忠告までした相手に、こんな形で再び顔を合わせる羽目になってしまったことを。
「これで終わりだ……!」
爆弾矢の嵐でもってトドメを刺された化け物は、悲痛な断末魔を残してその場から消えた。
「………」
頬に弱々しい痛みがはしる。
かの化け物が完全に消え去らずまだ近くに居ることを告げていた。
「探しにいかないと……」
メドーはどちらも救ってほしいと言っていた。
その願いを叶えたかったし、僕自身あの泥の人魚をそのままにしておく選択肢はなかった。
慟哭をたたえた痩躯痛ましく
揺れる赤毛は散り薔薇のごとし
―――オルディン地方ミズーダ湖、ルッタ内部
「えっ、どうして……?」
白いガーディアンの力を借りてルッタ後部にあるメイン制御端末室に直接乗り込むと、ミファーは豆鉄砲を喰らったナミバトのような顔で僕に振り返った。
ミファーの驚きは最もだろう。自分と同じように未知の化け物に襲われていただろう他の繰り手が助けに来たのだから。
「■■■……」
そしてその驚きはルッタのメイン制御端末前に陣取った化け物――水のカースガノンからも感じ取れた。
「すまないね、あいつじゃなくて」
「そ、そんなこと……!」
本音を忍ばせて軽口を叩けば、やはり図星だったのかミファーの声が若干上ずる。
相変わらず何を考えてるのか分かりやすい。
「ほら、それより今は目の前の化け物だよ」
「う、うん……」
慌てるミファーをたしなめ、水のカースガノンと相対する。
「……ここからは僕一人でやる。ミファー達は休んでてもらっていいから」
「で、でも……!」
「大丈夫、心配いらない」
不安げなミファーにそれだけ言って、今まで戦い通しだった彼らを庇うように前に出た。
「やぁ、数日ぶりだね。元気だったかい?」
「…■…」
友に話しかけるような気軽さで挨拶をすれば、目の前の化け物は分かりやすく動揺する。
「中身が
「……!」
惑う一つ目を真っ直ぐ見て言えば、その動揺が風に吹かれた水面のように更に広がっていくのが見て取れた。
「ここで諦めて帰ってくれるならそれに越したことは…」
「■■■■■■!」
「危ない……!」
突如迫ってきた氷塊を紙一重で避けて、凍った水面に降り立つ。
「やる気は充分ってやつ? なら、相手にとって不足はないね!」
バクダン矢を番え、いつでも放てるように即座に引き絞る。
いつものミファーそっくりの姿ではないから、こちらも全力で戦えそうだ。
「さぁ、勝負だ……!」
◇ ◇
――以降は一方的な戦いだった。
悪夢を繰り返し見させられたおかげか、はたまた僕に翼があるおかげか、水のカースガノンが繰り出す全ての攻撃に対して落ち着いて対処することができた。
地面を氷結させる技も空中にいれば安全だし、他の攻撃も避けるのは容易かった。
一度負けかけたからではあるが、元の状態の彼女の方が強く感じた。
「……ッ…」
ひどく一方的な戦いに、脳裏に焼き付いた悪夢が重なって頬の傷がまた激しく痛む。
化け物になぶられ倒れた悪夢はきっとこの化け物の……いや泥人魚自身の悪夢なのだろう
そうして一番なりたくない自身の仇そのものになってしまった彼女を、今度は僕が一方的に攻撃しているのだ。
なんたる皮肉。
望んだ形ではないにしろ、ようやく己の神獣を取り返せるという段になって悪夢の自分と同じように倒されるのだから。
――彼女は怒っているだろうか。
わざわざ忠告までした相手に、こんな形で再び顔を合わせる羽目になってしまったことを。
「これで終わりだ……!」
爆弾矢の嵐でもってトドメを刺された化け物は、悲痛な断末魔を残してその場から消えた。
「………」
頬に弱々しい痛みがはしる。
かの化け物が完全に消え去らずまだ近くに居ることを告げていた。
「探しにいかないと……」
メドーはどちらも救ってほしいと言っていた。
その願いを叶えたかったし、僕自身あの泥の人魚をそのままにしておく選択肢はなかった。
慟哭をたたえた痩躯痛ましく
揺れる赤毛は散り薔薇のごとし