リーバルと泥の人魚

【対決】


 ―――ハイラル丘陵、ローム山上空

「まさか……本当に復活が早まるなんてね」

 燃えるような夕暮れの中、突如として城から大量の赤黒い邪気が噴出し地面から伸びてきた大きな五つの柱から赤いガーディアンが次々と排出されていく。
 あの泥の人魚の忠告は本当だったらしい。

「姫達を助けに行った方がよさそうだけど……。……ッ…!」

 呟いて直後、頬がまた急にギリギリと痛みだす。
 次の瞬間、砲撃のようなものが翼を掠めていった。

「誰だ……!」

 飛んできた光弾数発を間一髪で避け、上空を振り返る。
 そこには赤い髪をなびかせる化け物が激しい風を伴って浮かんでいた。
 仮面を被ったような大きな顔と赤髪、両腕の巨大な砲台が目につく。
 悪夢の中でミファーを刺し殺した化け物とどこか似ていた。

「! あいつは……!」

 あいつは……いつぞやの泥の僕だ。
 迷いの森やゴングル山に現れたリトの英傑そっくりの泥の魔物。
 他の連中は騙せても汚泥の呪いを受けた僕には分かる。
 姿を変えようと、纏った風の匂いや感触は変わらない。
 今のあの姿はきっと容れ物に違いない。
 あの中に確実に奴がいること、このメドーを奪いにきたことを本能的に悟った。

「僕のメドーを奪いにきたとは良い度胸だね……! …痛…っ…!」

 言いながら弓を構えようとして、頬にまた激痛が奔る。

「■■…? ■■■…■■■■■■■■■!」

 空を再度見上げれば化け物が激昂したかのように金切り声をあげていた。
 まるで取り返しに来たと言わんばかりである。

『君ってさ、まさかとは思うけどルッタを繰ったことでもあるのかい?』
『…………あるといったら?』

 昨日の泥の人魚とのやり取りを思い出す。
 どうやってかは不明だが、この泥の戦士もまたあの魔物と同じく神獣を繰った経験があるのかもしれない。
 現にこの化け物がここに来てからメドーは繰り手を正しく認識出来ず、あろうことか誤作動を起こして初期状態に戻りつつあった。
 とても混乱していることが僕にもなんとなく分かる程だった。

「ふん、いいさ。どちらがメドーに相応しいかここで決めてやる」

 厄災が復活した今メドーを取られるわけにはいかないし、まして泥の人魚と賭けをしている。この化け物には絶対に負けるわけにはいかなかった。

「さぁ、どこからでもかかってきなよ……!」

 再び愛弓を強く握り、矢を番える。 
 ――負けられない戦いが今始まったのだった。


 負けられぬ泥の化け物偽の僕
 凶風に吠えた紅い黄昏

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