リバミファ二次小説

ミファー視点→リーバル視点
だんまり成功パターン


【蝶みたいな指】


「――蝶みたいだ」

 いつか怪我を治癒してあげた時、リトの英傑は私の手を見ながらふいにそんな言葉をもらしていた。

「蝶がどうしたの?」
「……なんでもない」

 意味を問うみたけど、はぐらかされてしまう。

「ねぇ」
「………………」

 ――まただんまり。
 この人は……本当に何を考えてるのか分からない。


 ◇ ◇


「蝶がどうしたの?」

 急なミファーの問いに僕は密かに動揺していた。
  彼女の手が赤くてふわふわしていてポカポカアゲハみたいだと思っていたら、声にまで出てしまっていたようだ。

 ――こんなコト生まれてこの方、今まで一度だってなかったはずなのに。

「……なんでもない」

 そのまま黙秘を決め込む。

「ねぇ」
「………………」

 鈴を転がすような甘い声が若干僕を咎めるような音を発したが、沈黙を押し通した。

 このお姫様といると、なぜだか調子が狂って仕方がないのだ。


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別パターン。ミファー視点のみ
だんまりを決め込めなかった場合


【蝶みたいな指、あるいは翼】


「――蝶みたいだ」

 城の医務室で怪我を治癒していた時、リーバルは私の手を見ながらふいにそんな言葉をもらした。

「蝶がどうしたの?」

 意味を分かりかねて問うてみる。

「……なんでもない」

 彼は少し驚いたようにこちらをチラと見た後、それだけ言ってすぐ私から目を逸らしてしまった。

 ――結局、何を思って蝶云々言い出したのかは謎のまま。

(また、だんまり……)

 やや気まずくなった空気の中、心の中で小さく溜息をついた。

 この人は、たまに私に対して何か呟いてはこんな風に黙り込むコトがある。

 以前もお城での集まりの直前にリンクと話をしていたら『カエンバトか、それかポカポカマスだね』と呟いていたことがあった。
 その時も今日のようにどうしたのかと訊ねてみたが沈黙で返されて、リンクと顔を見合わせたのが昨日のことのようだ。

(他の皆と話す時はすごく流暢なのに)

 苦手意識を持たれてるのだろうか。
 私はリーバルのように早口では話せないし、彼はどっちかと言えばせっかちな性格のようだからイライラしてしまうのかもしれない。
 厄災討伐の為に集まった英傑同士なのに、なんだかそれがちょっぴり悲しい。
 思えばリーバルは怪我をしても頑なに私を頼ろうとしない。
 今日だって逃げられそうになったのを懸命に引き止めて、なんとかここに連れてきたのだ。


「……赤くて、ふわふわしてたんだ」

 色々考えを巡らせていると、だんまりを決め込んでいた筈の山吹の嘴が唐突に声を発した。

「えっ……?」

 思わずリーバルの方を見上げる。
 見上げた顔はこちらを見ようとはせず、その視線はただまっすぐと部屋の天井に向けられていた。

「だから、君の手。ポカポカアゲハみたいに赤いなって」

 ただそう思っただけなのだと、リーバルはぶっきらぼうに呟く。

「……口に出してる気、全然なかったから」

 そう言ってリトの英傑はバツが悪そうに首の後ろを掻いていた。
 ちょっと、珍しいものを見た気がする。

「君といると、なぜだか気が緩んでしまうみたいでさ」

 一見嫌味のようでそうでもないぼんやりした声音。
 どこか微笑ましく感じて頬が緩んだ。

「――ふふっ」
「? 急にどうしたんだい?」

 ずっと医務室の青白い天井に向けられていた瞳が、ようやくこちらに向けられる。
 いつもの自信たっぷりな感じじゃなくて、なんでもない……自然な優しい顔。
 そんな表情をリーバルに向けられていることに、なんとなくくすぐったい気持ちになった。

「うぅん、大したことじゃないの。ただ――」
「ただ……?」
「気が緩む位には貴方に信頼されてるみたいで、うれしいなって」
「………………」

 今度は面食らった顔をして、リーバルはヤレヤレと大仰に肩をすくめる。
 その反応は流石にちょっと失礼なんじゃないかとも思ったけど、口には出さなかった。

「君の考えてるコト、僕にはちょっと理解しかねるよ」

 軽く溜息を吐いて、彼は椅子からすっくと立ち上がる。
 怪我の治癒はもう終わったから帰るつもりなのだろう。

「――ありがとう、これ」
「ええ、どういたしまして。また怪我した時はちゃんと私を頼ってね」
「……考えとく」

 完治した翼をヒラヒラとさせながら、リーバルは足早に医務室を出て行った。

「――――」

 その指の動きがどこかヒンヤリアゲハみたいに優雅で……。

(――貴方の翼も、蝶みたいだね)

 心の中でそう呟いた。
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