ゼノブレ二次小説

【無情の渓谷付近より夜光球を臨む】


白樹の大陸 無情の渓谷南部 AM08:45 曇り

 辺り一面の白砂は全ての悲しみを覆い隠す為に敷き詰められているようである。

 一体この地で何人のブレイドが命を落としてきただろう。何体の動かなくなった躯体を見てきただろう。
 それを嘆くより先に敵を斃さねば己が死ぬ……此処は常にそんな場所なのだ。

 初めて訪れた時は丁度夜だった。
 あの時は何かの間違いで天国に来てしまったのではないかと疑いすらしたものだ。

 だがこの白い砂が支配する大陸を走り回り調べ尽くした後は、この地はどちらかと言えば地獄に近く……。
 その地獄においても最も恐ろしい地とされる氷獄に似たナニカなのだと悟るしかなかった。

 此処は生者にも死者にも等しく静寂を与える穢れなき純白の揺籃。
 星屑が深々と降り積もったような砂の下には、数多の生き物の骨や残骸が宝物のように静かに眠っているのである。

 それが分かっていて何故か……私は事ある毎にこの死地に足を運んでは早朝の巨大夜光球を見に来てしまうのだ。

 ――きっとこの……白樹の静やかな曇り空が私の心を掴んで離さないのだろう。


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【竜骨岬上空より虹を眺める】


黒鋼の大陸 竜骨岬上空 AM10:24 虹

 どこそこからグツグツとマグマが激しく煮えたぎる音がする。
 その独特のリズムに合わせるように、熱と溶岩が支配するこの大陸の生物達は力強く躍動していた。

 白樹の大陸が氷獄であるなら、ここは炎獄。
 生き物も何もかもを焼き尽くし溶かし尽くす地獄の大釜。
 そんな灼熱の大釜のただ中を平然と闊歩する巨大な彼らはさながら獄卒の類だった。

 初めてこの地を訪れた時は炎の雨が降っていた。
 今にも焼け落ちそうな程真っ赤な空に恐れおののき、白樹の大陸まで一目散に退散したのも今ではよい笑い話だ。

 そういえば、黒鋼の大陸には炎雨の時のみ姿を表す黄金色の龍に似た生物アンギィスがいるのだが、現地に住むノポン人の間では大昔から『あの熱い雨粒はアツアツでビリビリな龍神様が流した涙であるも』と伝えられているらしい。

 なるほどこの大陸の灼熱地獄のような様相に神が憂いて慈雨を降らせているというのは中々粋な発想だ。
 慈雨自体は地獄の獄卒にのみ恵みをもたらすものであることも確かではあったが……。

 本来厄介でしかない炎雨にも良い所がある。
 あの橙色の雨が上がる時、黒鋼の大陸の空はどこまでも青く澄み渡って美しい虹がかかるのだ。

 ――私がこの手記を書いてる今が、まさにその時だ。

 虹は他のいくつかの大陸でも見れるものだが、私はここ……黒鋼の大陸で見れる虹を特に好んでいる。

 地上の溶岩がどんなに激しく煮えたぎっていたとしても、そのマグマにどれだけのブレイドやドールだった残骸が跡形無く消えたとしても…見上げた空は浄土の如き青を映し出すのだ。
 それをどこか懐かしく感じるのは、きっと今は無き故郷地球で語り継がれたあの世の情景そのものだからなのだろう。
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