ゼノブレ二次小説

【大地を蹴って、跳んで】


「はっ! よっと、えぇぃ……!」

 ――翔ぶ、跳ぶ、飛ぶ……!

 原初の荒野、イーストゲートを出てすぐの所で草を食んでいるオウィスの群れを一息に飛び越した。

 この身体B.B.は跳んだり走ったりが兎に角心地好い。
 ブレイドになった直後はとにかくNLA内を走り回って下層に足を滑らせて濡れネズミになり、エルマさんに程々にねと注意された位には楽しくて仕方がないのだ。

 リンからは『地球では陸上選手とかやってたんじゃないですか?』なんて言われたっけ。
 なんだかピンと来なかったけど、多分その時から走るのが好きだったんだろうって予感はしてる。

 ――予感は……違うか。
 記憶を失ってしまった為だろうか、言葉の使い方って難しい。


 ◇ ◇ ◇


「――っと、もう着いちゃった」

 色々考えてる内に今日の目的地、ジャンパス湖西岸に辿り着く。

 ――現時刻12:36。
 原初の荒野の今の天気は快晴だ。

 お昼を過ぎたばかりだからか、岸辺にはルトル達が寝転がったり呑気に欠伸していた。
 湖南東の岸辺に目をやればいつも通りミレザウロが擬頭を垂れて穏やかに水を飲んでおり、その少し離れた所でヒッポの群れが楽しそうに水浴びしている。
 まさに昼下がりの穏やかな湖そのものである。


「さぁて、あいつは……っと」

 ルトルの可愛らしい寝顔を横目にお目当ての原生生物を探す。

 今日の目的は三日前に手に入れたロングソードの試し斬りだ。
 もっと近場で済ませたかったのだが、そこら辺の原生生物ではすぐに消し飛んでしまう為、やむなくここまでやってきたのである。

「あっちで水飲んでるのかな……」

 お目当ての原生生物はこの辺をうろついてる筈なのだが、いない。
 タイミングが悪かったのだろうか。

「来るまで待つか……。……あれ?」

 岸辺に腰を下ろしかけた時、頭上が突如暗くなった。
 同時にズズン……と強い揺れが足元を襲い、危うく転びかける。

「っとと……!」

 よろけながら前方を仰げば、ジャンパス湖の主…悠久のルシェルが地鳴りのような雄叫びをあげていた。

「もうっ、危ないじゃない」

 ルシェルはドールの何十倍もある白き巨躯を揺らし真っ直ぐ私の所へ向かってきた。

 ――己の縄張りを侵されて怒っているようだ。
 『たった一人でここをうろつくとは小癪な』なんて、言ってるようにも聞こえなくもない。

「……でも、待つ手間が省けて良かったわ!」

 そしてこのオーバードこそが今回の試し斬りの相手に選んだ原生生物であった。

「さぁ、行くよ!」

 迅速に新調したロングソード――ダイヤスベルト極を構える。
 攻撃力はそこそこなのだが、とあるスキルと組み合わせる事で法外なダメージ量を叩き出すとの噂を聞いて苦労して手に入れた業物だ。

「ギア発動……!」

 夜光の森の大樹のような巨大な足に踏み潰されないように一太刀浴びせ、OCGを発動する。
 回転数が一気に上がる機械じかけの体に、心の方も同じくらいバチバチと燃え上がっていく。

「ギュォォオオンーーーー!!!」

 轟雷のような怒りに満ちた嘶きがジャンパス湖に響き渡る。
 湖の主の恐ろしいそれに近くで昼寝をしていたルトルは元より、少し離れた所で陽気に踊っていたサルタート達も慌てて逃げ出していくのを背中で察した。

 ――先程より強い圧を感じる。
 ピリピリからビリビリへ。
 悠久の名を冠するオーバードは私を確かな敵と認識したようだ。
 その巨体を更に激しく揺らし、背中の器官より放った豪速の火球で狙い撃ちにしてくる。

「甘い……!」

 ゴーストウォーカーの幻影でそれを凌ぎ、ゼロゼロでギアカウントを稼いでいく。
 愛用のデュエルガンを高速で回す指も今日はすこぶる調子が良い。
 これなら日暮れ前までには仕留められそうだ。

「……ふふっ」

 知らず、胸がウズウズして笑いが込み上げてくる。

「てぇえぇい……!」

 無性に飛び跳ねたくなって、軍務長官直伝の技で大きく宙を舞った。
 それだけでもう、おもちゃにじゃれついて離さない猫のように楽しくてゲラゲラ笑い出したくなる。

 ――そう、私は跳んだり走ったりが大好きなのだが……それと同じ位バカみたいに強い敵と戦うのも大、大、大好きなのである。


 ◇ ◇ ◇


「ギアマックス到達……! まだまだ行くよ!」

 アグレッシブモードで格闘力を高めた後、剣先に意識を集中する。
 ――全ては持ち得る己の最高火力を眼前の白き悠久に叩き込む為の前準備……。

 スベルトのやや細身の刃が太陽の光を弾いた刹那―――。

「桜花、乱舞……ッ!!!!」

 溜めた力を解き放ち、一心に剣を振るうと、エーテルで出来た薄紅色の花びらがつむじ風のように巻き上がる。

 一閃一閃が恐ろしい威力の斬撃の嵐が静まった時、白き悠久は巨躯を大きく仰け反らせて湖面にその身を激しく叩きつけて事切れていた。

「――あれ……もう終わっちゃった……?」

 かの原生生物が最期に遺したスコールのような水しぶきを浴びながら武器をしまう。

「よし、終わり!」

 試し斬りに付き合ってくれたルシェルに敬礼を。

「付き合ってくれてありがと。また遊んでね」

 この惑星の原生生物は、不思議なことに一度倒しても少し経てばいつの間にかひょっこり復活するのだ。
 だからこそ可能な豪快な試し斬りなのである。


 ◇ ◇ ◇


「案外あっさりといけちゃった。後でタツに自慢しよっと」

 戦利品漁りも終わり、日も暮れ始めたジャンパス湖に背中を向けデバイスで時間をチェックする。

「やば……今日は20:00にご飯の約束だった……!」

 現在の時刻は17:08……。
 ここからならなんとかギリギリで間に合うだろう。

「急いで帰らなきゃ……ね」

 つま先をトントンと鳴らす。
 どこか声は弾み、足取りも軽やかだ。

「ダイナーまでもうひとっ走りしますかっ!」

 言い切って、駆け出す。
 茜色の雲を掴む勢いで大地を蹴った。

 ――楽しい時間はまだまだ当分終わらなさそうだ。
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