リトの英傑短編まとめ
【リーバルの日によせて】
今日の飛行訓練場はリトの子ども達が沢山遊びに来ていてとても賑やかだ。
いつもの――静かでぴんと張り詰めた空気も良いものだが、たまにならこういうのも悪くないかもしれない。
弓の修練もそこそこに彼らが持ってきた色紙 を一枚もらい、ツバメの形に折って桟橋から飛ばしてやったらとても喜んでくれた。
折り方を教えてあげると皆我先にと作り始め、色紙がなくなるのはあっという間だった。
――赤、青、緑、黄……。
訓練場の上昇気流に乗って色とりどりの紙のツバメが次々と舞い上がっていく。
一つ一つは小さいがそれがいくつも宙に浮かぶと中々に壮観だった。
子ども達もこの光景に大満足のようで、桟橋から前のめりになって自分が折ったツバメに各々がんばれがんばれと声援を送る。
穏やかに晴れた昼下がりの訓練場の空は紙のツバメ達に彩られ、雛鳥達の無邪気な歓声にしばらくずっと包まれていた。
一人――やんちゃそうな少年が紙のツバメ達と一緒に飛ぼうと桟橋から飛び立とうとしたけど、それは流石に首根っこ捕まえて止めさせた。
ここの風はとんでもなくじゃじゃ馬だから、最近やっとここまで飛んで来れるようになった雛鳥達にはまだまだ危険なのだ。
危険性を丁寧に説明してきつ目に注意すると、その少年はしばらくしょんぼりした顔で項垂れていた。
だがやがて決意したように僕を見上げて、『ボクも早く大きくなってリーバルさまみたいなりっぱな"せんし"になる!』と高らかに宣言して皆の輪の中に戻っていった。
――――――。
なんとなく、背中がムズ痒くなる。
頬をかきながら、よちよち走りの無邪気な背中を見送った。
寒空に飛ばした紙のつばくらめ
雛鳥達の声は無邪気に
◇ ◇
夕飯時になり、子ども達は一足先に村へと帰っていった。
訓練場が元の静けさを取り戻す。
ちょっとだけ寂しく感じてしまうのはきっと気のせいだ。
確かにあの賑やかさも悪くはないが、やはりこの静寂が僕にはふさわしいのだと心の中で言い聞かせる。
――実に、らしくない。
かぶりを振って茜に染まった桟橋の先を見上げる。
そこには未だ吹き上がる風に振り落とされないように懸命に紙の翼を広げるツバメ達の姿があった。
ひぃ、ふぅ、み……。
数えてみるが一つも下に落ちた様子はない。
皆そろって手先が器用で飲み込みも早いようだ。
なんとなく、誇らしい気持ちになる。
あの中から件 のやんちゃそうな子はもちろん、他にも戦士を志す子が出てくる筈だ。
ゆくゆくは僕が彼らに弓や飛ぶ術を教えることになるのだろう。
――雛鳥達の今後が楽しみだ。
彼らの未来を想いながら、紙のツバメ達の飛ぶ様を見つめる。
茜が薄暮に――薄暮が群青になるまで、目に焼き付けるように、ずっと……。
雛鳥の去った桟橋影落ちて
紙燕 未だ茜空舞う
◇ ◇
帰り際、雪がちらつき始めたので子ども達が飛ばした紙のツバメは全て回収した。
自分が一生懸命折って飛ばしたツバメが雪にまみれて墜落した姿なんぞ見たくはないだろうから。
集めた色とりどりの紙ツバメを袋に詰めながら、はてどうやって彼らに返してあげようかと考え込む。
両親経由で返してあげれば良いだろうか……。
いやいやそれでは普通過ぎて芸がない。
寝ている間にこっそり枕元に置いてあげた方が粋ではないだろうか。
何か一言手紙でも付ければもっと喜んでくれそうだ。
………………。
そこまで考えてふと我に返る。
普通に返すのが一番スマートに決まってる。
どうしてこんな面倒そうなやり方をやろうと考えるのか……。
またしばらく考えこんで、思わず苦笑が漏れた。
今日の出来事が自分が思っていた以上に楽しかったらしい。
史上最年少で戦士になって以降、こんな風に遊んだのは久しぶりだったのだ。
それを苦だと思ったことは一度もないが、子ども達のお陰で張り詰めた糸がほぐれたのも確かだった。
弓の弦だってずっと張り詰めていたらいつか切れてしまう。
それは僕らにとっても同じこと。
そんなアタリマエを雛鳥達に教えられるとは。
自然と頬が緩んだ。
僕もまだまだだな……なんて言葉がこぼれる。
袋に入った紙の鳥達を改めて眺めれば、昼間の雛鳥達の笑顔が浮かんできた。
あの無邪気な笑顔達を護る為に強くなるというのも悪くないかもしれない。
背負うものが少し増えたところで、僕にとってそれが負担になる筈もないのだから。
新たな決意を胸に雪がちらつく訓練場を飛び立った。
紙のツバメ達が詰まった袋をしっかり握り、子ども達の喜ぶ様を思い浮かべて……。
折り紙の燕をそっと捕まえる
雪に凍えて墜ちゆく前に
今日の飛行訓練場はリトの子ども達が沢山遊びに来ていてとても賑やかだ。
いつもの――静かでぴんと張り詰めた空気も良いものだが、たまにならこういうのも悪くないかもしれない。
弓の修練もそこそこに彼らが持ってきた
折り方を教えてあげると皆我先にと作り始め、色紙がなくなるのはあっという間だった。
――赤、青、緑、黄……。
訓練場の上昇気流に乗って色とりどりの紙のツバメが次々と舞い上がっていく。
一つ一つは小さいがそれがいくつも宙に浮かぶと中々に壮観だった。
子ども達もこの光景に大満足のようで、桟橋から前のめりになって自分が折ったツバメに各々がんばれがんばれと声援を送る。
穏やかに晴れた昼下がりの訓練場の空は紙のツバメ達に彩られ、雛鳥達の無邪気な歓声にしばらくずっと包まれていた。
一人――やんちゃそうな少年が紙のツバメ達と一緒に飛ぼうと桟橋から飛び立とうとしたけど、それは流石に首根っこ捕まえて止めさせた。
ここの風はとんでもなくじゃじゃ馬だから、最近やっとここまで飛んで来れるようになった雛鳥達にはまだまだ危険なのだ。
危険性を丁寧に説明してきつ目に注意すると、その少年はしばらくしょんぼりした顔で項垂れていた。
だがやがて決意したように僕を見上げて、『ボクも早く大きくなってリーバルさまみたいなりっぱな"せんし"になる!』と高らかに宣言して皆の輪の中に戻っていった。
――――――。
なんとなく、背中がムズ痒くなる。
頬をかきながら、よちよち走りの無邪気な背中を見送った。
寒空に飛ばした紙のつばくらめ
雛鳥達の声は無邪気に
◇ ◇
夕飯時になり、子ども達は一足先に村へと帰っていった。
訓練場が元の静けさを取り戻す。
ちょっとだけ寂しく感じてしまうのはきっと気のせいだ。
確かにあの賑やかさも悪くはないが、やはりこの静寂が僕にはふさわしいのだと心の中で言い聞かせる。
――実に、らしくない。
かぶりを振って茜に染まった桟橋の先を見上げる。
そこには未だ吹き上がる風に振り落とされないように懸命に紙の翼を広げるツバメ達の姿があった。
ひぃ、ふぅ、み……。
数えてみるが一つも下に落ちた様子はない。
皆そろって手先が器用で飲み込みも早いようだ。
なんとなく、誇らしい気持ちになる。
あの中から
ゆくゆくは僕が彼らに弓や飛ぶ術を教えることになるのだろう。
――雛鳥達の今後が楽しみだ。
彼らの未来を想いながら、紙のツバメ達の飛ぶ様を見つめる。
茜が薄暮に――薄暮が群青になるまで、目に焼き付けるように、ずっと……。
雛鳥の去った桟橋影落ちて
◇ ◇
帰り際、雪がちらつき始めたので子ども達が飛ばした紙のツバメは全て回収した。
自分が一生懸命折って飛ばしたツバメが雪にまみれて墜落した姿なんぞ見たくはないだろうから。
集めた色とりどりの紙ツバメを袋に詰めながら、はてどうやって彼らに返してあげようかと考え込む。
両親経由で返してあげれば良いだろうか……。
いやいやそれでは普通過ぎて芸がない。
寝ている間にこっそり枕元に置いてあげた方が粋ではないだろうか。
何か一言手紙でも付ければもっと喜んでくれそうだ。
………………。
そこまで考えてふと我に返る。
普通に返すのが一番スマートに決まってる。
どうしてこんな面倒そうなやり方をやろうと考えるのか……。
またしばらく考えこんで、思わず苦笑が漏れた。
今日の出来事が自分が思っていた以上に楽しかったらしい。
史上最年少で戦士になって以降、こんな風に遊んだのは久しぶりだったのだ。
それを苦だと思ったことは一度もないが、子ども達のお陰で張り詰めた糸がほぐれたのも確かだった。
弓の弦だってずっと張り詰めていたらいつか切れてしまう。
それは僕らにとっても同じこと。
そんなアタリマエを雛鳥達に教えられるとは。
自然と頬が緩んだ。
僕もまだまだだな……なんて言葉がこぼれる。
袋に入った紙の鳥達を改めて眺めれば、昼間の雛鳥達の笑顔が浮かんできた。
あの無邪気な笑顔達を護る為に強くなるというのも悪くないかもしれない。
背負うものが少し増えたところで、僕にとってそれが負担になる筈もないのだから。
新たな決意を胸に雪がちらつく訓練場を飛び立った。
紙のツバメ達が詰まった袋をしっかり握り、子ども達の喜ぶ様を思い浮かべて……。
折り紙の燕をそっと捕まえる
雪に凍えて墜ちゆく前に