リトの英傑短編まとめ
【冬を耐えるもの】
―――ハイラル城、ゼルダ姫の研究室
「ヘブラの苺ってさ、寒ければ寒い程……実る果実も甘くなるんだよね」
朝一番に籠一杯の今年初摘みの苺を届けてくれたリトの英傑が、唐突にこの果物の甘さの秘密について語り始める。
「急に、どうしたんですか?」
話の意図が分からず首を傾げる私に、リーバルは少し言いづらそうに話を続ける。
「今、姫を取り巻く環境――正直へブラの冬より厳しく僕には映る」
「………………」
この英傑も、城で私がなんと呼ばれているか知ってしまったのだろう。
『無才の姫』、『王家の出来損ない』――。
城のあちこちで密やかにそう呼ばれていたのを初めて知った時の事を思い出して、自然……胸が苦しくなって俯いてしまう。
目の前の苺に伸ばしていた手を籠から離し、彼の言葉を待った。
「――だからきっと、その分目覚める力もとびきり上等なものになるんじゃない?」
「えっ?」
意外な言葉に顔を上げる。
そこにはいつになく真面目な顔をしたリトの英傑が私を真っ直ぐ見つめていた。
「……見返してやりなよ、君のこと馬鹿にしてる奴らをさ」
「し、しかし……」
「なんだよ、この僕に繰り手になって欲しいと頼む為に、わざわざ辺境までやって来た豪胆な王家の姫が今更弱音を吐くのかい?」
「それは……」
言葉の端々に私への強い信頼が見え隠れする。
だがそれは不思議とプレッシャーを感じるような重さはなく、逆に私に勇気を与えてくれる軽やかさがあった。
「――そういう縮こまった表情、僕ら英傑の長である君には似合わない」
リーバルは断言するように言って踵を返す。
「ま、苺の木だって寒過ぎれば立ち枯れる。たまには甘い物でも食べて早めに休みなよ」
言いたい事だけ言って、リトの英傑はさっさと研究室から出て行ってしまった。
「ま、待ってください……!」
慌てて追いかけて外に出てみたけれど、扉を開けた私を待っていたのは彼が生み出した上昇気流の残滓だけだった。
いつもは無表情で何を考えているか掴みきれない退魔の剣の騎士も、珍しく面食らったような顔をして朝の空を見上げていた。
さっきのは、彼なりに私を励まそうとしてくれたのだろうか……。
どこか不器用なリトの英傑の激励に、胸が暖かくなる心地がして頬が緩んだ。
「――ありがとう、リーバル。でも……」
扉が開いたままの研究室を振り返り、リーバルが置いていった大きめの籠を苦笑しながら見遣る。
「こんなに沢山の大きな苺、流石に私一人では食べきれませんよ……?」
中には赤赤として丸くて大きな苺が、朝の柔らかな陽光を浴びてまるで宝石のように輝いていた。
―――ハイラル城、ゼルダ姫の研究室
「ヘブラの苺ってさ、寒ければ寒い程……実る果実も甘くなるんだよね」
朝一番に籠一杯の今年初摘みの苺を届けてくれたリトの英傑が、唐突にこの果物の甘さの秘密について語り始める。
「急に、どうしたんですか?」
話の意図が分からず首を傾げる私に、リーバルは少し言いづらそうに話を続ける。
「今、姫を取り巻く環境――正直へブラの冬より厳しく僕には映る」
「………………」
この英傑も、城で私がなんと呼ばれているか知ってしまったのだろう。
『無才の姫』、『王家の出来損ない』――。
城のあちこちで密やかにそう呼ばれていたのを初めて知った時の事を思い出して、自然……胸が苦しくなって俯いてしまう。
目の前の苺に伸ばしていた手を籠から離し、彼の言葉を待った。
「――だからきっと、その分目覚める力もとびきり上等なものになるんじゃない?」
「えっ?」
意外な言葉に顔を上げる。
そこにはいつになく真面目な顔をしたリトの英傑が私を真っ直ぐ見つめていた。
「……見返してやりなよ、君のこと馬鹿にしてる奴らをさ」
「し、しかし……」
「なんだよ、この僕に繰り手になって欲しいと頼む為に、わざわざ辺境までやって来た豪胆な王家の姫が今更弱音を吐くのかい?」
「それは……」
言葉の端々に私への強い信頼が見え隠れする。
だがそれは不思議とプレッシャーを感じるような重さはなく、逆に私に勇気を与えてくれる軽やかさがあった。
「――そういう縮こまった表情、僕ら英傑の長である君には似合わない」
リーバルは断言するように言って踵を返す。
「ま、苺の木だって寒過ぎれば立ち枯れる。たまには甘い物でも食べて早めに休みなよ」
言いたい事だけ言って、リトの英傑はさっさと研究室から出て行ってしまった。
「ま、待ってください……!」
慌てて追いかけて外に出てみたけれど、扉を開けた私を待っていたのは彼が生み出した上昇気流の残滓だけだった。
いつもは無表情で何を考えているか掴みきれない退魔の剣の騎士も、珍しく面食らったような顔をして朝の空を見上げていた。
さっきのは、彼なりに私を励まそうとしてくれたのだろうか……。
どこか不器用なリトの英傑の激励に、胸が暖かくなる心地がして頬が緩んだ。
「――ありがとう、リーバル。でも……」
扉が開いたままの研究室を振り返り、リーバルが置いていった大きめの籠を苦笑しながら見遣る。
「こんなに沢山の大きな苺、流石に私一人では食べきれませんよ……?」
中には赤赤として丸くて大きな苺が、朝の柔らかな陽光を浴びてまるで宝石のように輝いていた。