リトの英傑短編まとめ

【群青と雷獣】


 タバンタ大雪原に三匹もの白髪ライネルが突如出現したと聞き、曇天の中一人中央ハイラルからヘブラへ急ぐ。
 昼近くにタバンタ村から連絡を受けた時、たまたま城で居合わせたあの姫や他の英傑にあいつに任せた方が良いだなんてフザけた事を言われて気分は激烈に最悪だった。

 特に姫には僕のあの大技とあれだけの弓の冴えを見せていたのに関わらず、だ。

「フン……」

 ――自然、羽ばたきも乱暴になる。

 イーガ団襲撃の後、あれだけ険悪だったあいつと仲良くなったあの姫に僕は少しだけ失望を感じていた。
 お姫様という存在は結局の処、側で自分を護ってくれる騎士サマを好きになってしまう定めから逃れられない運命にあるようだ。
 それはあのゾーラの英傑にしても言えるコト。

(いつかそれが大きなトラブルにでもなればいいんだ)

 人の気持ちも分からない鉄面皮には似合いの末路だと、想像するだけでスッとする。

 ――背中には相棒である最強の剛弓。
 あいつが持つ古臭い退魔の剣に引けを取らないリト族誉れの弓。
 純粋な攻撃力で言えばあの剣よりもずっと強い筈のこの弓も、退魔の力がないと言う理由だけで城では格下の扱いだ。

 五人の英傑と……表面上そう喧伝しこそすれ、僕ら神獣の繰り手は中央の連中からしてみれば退魔の剣を持つ騎士のオマケ程度の扱いなのだろう。

 あの姫にさえ、封印の力が目覚めぬ為に陰で「無才の姫」なんて好き勝手言う始末……。

「あの姫もミファーも、とにかく皆……お人好しが過ぎる」

 自分の故郷はともかく、ハイラルにすまう生けとし生けるもの全てを護りたいというあの姫の想いを、未だに僕は理解しかねていた。


 ◇ ◇


 漸くタバンタ雪原に到着した頃には久々に晴れた白銀の平原はその色を既に朱に染め始めていた。

 ……日が沈んでしまっては面倒だ。
 三匹まとめて倒してしまおう。

 以前なら僕でも少々難儀する所だが、今の僕にはリーバルの猛りリーバルトルネードがある。

 ――恐れるものは何もない。


 ◇ ◇


 お互い少し離れた場所にいる白髪ライネルを威嚇射撃で全員おびき出し、地面に降りて待ち構える。

 本来ならば空から奇襲をしかけるのが常道だが……城での一件もあって、僕は敢えて地上で奴らと対峙することにした。

「この僕がわざわざハンデ付で君達を相手してあげるんだ。遠慮せずに早くかかってきなよ」

 僕の挑発に三匹の白い雷獣は凶暴そうな貌に怒りをまとわせて各々咆哮し、突進してくる。

「全く、いつものことながら芸がない……。他になんかやれることないのかい?」

 お決まりの攻撃パターンに辟易して肩をすくませれば、雷獣達はそれも挑発だと受け取ったのか突進速度を一気に速めてくる。
 それでも彼らの動きは僕には遅すぎて大きな欠伸が出そうだった。

「ま、もしも万が一……」

 ライネル達の恐ろしい顔が眼前に迫った刹那、翼に風を纏わせて一瞬で上空高く飛び上がった。

「「「っ?!?」」」

 驚き竦んでマヌケ面を晒した奴らにバクダン矢を番えたオオワシの弓で素早く狙いをつける。

「君達がこの僕の矢を一発でも避けられたなら、少しばかり褒めてやってもいいけどね……!」

 ようやく僕を視界に捉えて慌てて弓を構えるライネル達全員の眉間にバクダン矢をお見舞いしてやった。

 雪山の魔物の討伐もライネル退治も、ここいらじゃリトの戦士の仕事の一つだ。
 オルディン渓谷であいつが倒したという大量の魔物を一人で討伐するなんて、僕だってとっくの昔に経験済なのだ。

 だというのに、魔物を討伐して称賛されるのはいつもあの退魔の剣の主の方。

 僕はあいつらに会う前からずっと、この美しいヘブラの地を守る為にずっと戦ってきたっていうのに……。

(――それをあいつらときたら……本当に、何も分かっちゃいない……っ!)

 立ち上がる爆炎の中を怯む事なく突っ込む。
 片膝を付いた雷獣の一匹に蹴りをいれながら着地し、その背中に背負われた分厚い片手剣を奪って即刻投げつけた。

 雷獣の鋼のような体躯に当たった彼らの剛剣はガラスのようにあっさりと割れるが、持ち主にそれなりの大きなダメージを与える。

「これでトドメだ……!」

 翼に風を一瞬でまとわせ、大きく強く羽ばたく。
 周囲に散らばる剣の破片を上昇気流で巻き上げながら再びヘブラの寒空に舞い上がり、最初の一匹にトドメのバクダン矢を三発撃ち込んだ。

 ―――空も飛べやしないハイリア人の騎士なんかに、僕は絶対に負けられないのだ。

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