モノクロとブルー

【退魔の剣の主と二人】


 ―――タバンタ辺境、リトの村リーバル広場。

「――――――」

 ゼルダ姫と共にリトの村にやってきた退魔の剣の主であるリンクは、リトの英傑となったリーバルに挑発の言葉をぶつけられた。リンクが反応に悩んでいるとその後リーバルがさっさとメドーの下に飛んでいってしまったので、リンクはそれをぼんやりと眺める他なかった。

「すまないな、弟が無礼なことして」
「…………!」

 突然の声にリンクが振り返れば、広場の入り口に苦笑しているリトの族長クラフィカが立っていた。彼は少し前にゼルダ姫と話をしていた筈だが……。

「ゼルダ様は……」
「元族長とリトの古い文献をお調べ中だ。気が散るといけないから俺はここに退散したってとこさ」
「……そうでしたか」

 クラフィカはそのままリンクのそばまで来て、先程のリンクと同じようにメドーに飛んでいったリーバルの姿を眺める。その姿は既にタバンタ小麦の粒のように小さかったが、クラフィカにはしっかり視認できたようだった。

「リーバルのやつ、またあの技の精度を上げたな。全く、大した弟だよ」
「すごい技だと、私も思います」
「――――」

 リンクのぽつりとこぼしたリーバルへの小さな賛辞に、クラフィカは好感を覚える。己を挑発してきた相手のことを誉めることができるのだ。流石退魔の剣に選ばれるだけあるとクラフィカは納得した。

「………………」
「――――――」

 しばらく沈黙が二人の間に横たわる。だがそれは気まずいものとは違う沈黙だった。
 心地よい風の音と風車のカラカラという音だけが、静かにリーバル広場に響いていた。

「――俺達、兄弟なのにあんまり似てないだろう?」
「…………」

 クラフィカがさりげなくそう言うと、リンクは微かに驚いたような顔をして微かに頷く。それが、どう答えても失礼になるのではと悩んだ上での行動のようにクラフィカには写った。とても思慮深いが、年相応ではない行動にひどく違和感を感じたのも確かだった。

「両親が早くに死んでから俺が育ててきたようなものなんだが、素直じゃない性格になってな」
「………………」

 英傑叙任式の後の晩餐会でクラフィカがいかに自分の弟がすごいのかゾーラの英傑であるミファーに語っている横でリーバルが静かに青筋を立てていたのを見ていたリンクは、なんとなくその理由が分かった気がしたが言葉にはしなかった。

「あいつもさ、まだまだ子どもなんだ。厄災討伐の任をあんたに取られて、当たり散らしてるのさ」
「……そういうのは、慣れてますので」

 クラフィカの言葉にリンクは諦めを含んだ声音でそう返した。その表情は退魔の剣を抜いてから今まで、色んな者に同じような感情をぶつけられてきたから出来るものだった。

「いやいや、慣れちゃダメだぜこういうのは。言いっぱなし言われっぱなしはお互いに良くないんだ」
「それは、そうですが……」

 理屈は分かるが、実際問題としてどうすれば良いのか分かりかねるようにリンクは言葉を濁す。
 そんなリンクに対して、クラフィカは少々荒っぽいアドバイスを授けるのだった。

「あいつはまた挑発してくるかもしれないが、俺が許すからあんたの実力でガツンとやってくれていいからな? それでちょっとはあいつも考えを改めるだろうからさ」

 雨降って地固まるって言うだろ?この辺じゃあまり雨は降らないがなと、クラフィカが言うと、リンクは何を思ったのかふっと微かに笑みを浮かべた。そうして微笑みを残したままクラフィカの目を真っ直ぐ見て口を開く。

「――なるべく、善処します」
「ありがとうな、退魔の剣の主殿」

 それを見たクラフィカはこの青年も今まで色々と苦労したんだなと悟り、同情の眼差しを浮かべた。

「もしまた弟のことで困ったら俺を頼ってくれ。あ、でもくれぐれもリーバルには内緒だからな?」
「……分かりました」

 クラフィカから差し出された手をリンクがおずおずと握る。リンクもこの世話焼きな兄がいるなら弟のリーバルともどうにかなるのかもしれないと、希望を持ったようだった。


 ◇ ◇


 それから数ヶ月後、ハイラル城で再びリンクを挑発したリーバルがリンクの返り討ちにあったという噂がリトの村まで流れてきた。
 返り討ちにあったリーバルがどんなに荒れるか村の皆は心配していたが、本人は意外とケロリとしていた。
 それどころか今度は僕が勝つんだと更に鍛錬をするようになり、それを見たクラフィカが心の中でリンクによくやったと労いの言葉をかけていた。
5/6ページ
スキ