モノクロとブルー
【ある大技】
―――タバンタ辺境、リトの村。
「ねぇ、今いい?」
族長見習いとして書類仕事をこなしていたクラフィカの所に、珍しく弟であるリーバルがやってきた。その声音はひどく深刻そうで、何か深い悩み事でもあるような雰囲気だった。
「ん? 別に構わないが……」
「…………」
そんなリーバルにクラフィカも書類仕事を中断して話を聞こうとリーバルに向き直る。だがリーバルはなぜか中々嘴を開かない。何か……本当に話していいのか迷っているような様子である。それを悟ったクラフィカはリーバルが再び嘴を開くまで辛抱強く待つ。すると、しばらくしてようやくリーバルが言葉を発した。それは不可解で奇妙な質問だった。
「――単刀直入に聞く。風を上方向に向けて起こすことって可能?」
「……理論上一応可能だと思うが」
「じゃあもう一つ質問、その風に乗って空高く飛ぶことは可能?」
「それも一応理論上可能だと思うが、急にどうしたんだ?」
「…………」
不可解な質問にクラフィカが答えつつもリーバルにその理由を訊ねるが、リーバルはまた黙ってしまった。だがその目は何か大きなことをやり遂げようとする覚悟と自信に溢れていることをクラフィカは悟り、ニヤリと笑う。
「何か、企んでるな?」
「…………風の力で、素早く垂直上昇できる技を考えてる」
「そうか、うまくいくといいな」
「……質問、答えてくれてありがとう」
それだけ言って、リーバルは部屋を去って行った。
「――垂直上昇、か」
一人になった部屋で、クラフィカは木で組まれた天井を見上げて呟く。リーバルが話した技はおそらくリト族でも前代未聞の大技になるだろう。同時に、その技が完成すれば彼の戦闘能力を大幅に向上することになるとクラフィカは確信する。そうなればリーバルは確実にリト族は元よりハイラルでも一位二位を争う戦士になるだろう。それが嬉しくてクラフィカの顔はいつもより柔らかな表情をしていた。
「さて、俺も弟に負けないように頑張るとするか」
クラフィカは誰に言うともなしにそう呟いて、書類仕事を再開したのだった。
◇ ◇
―――二ヶ月後。タバンタ辺境、飛行訓練場。
しんしんと雪の降る飛行訓練場の入口に、一人のリト族の影が現れる。その影は次期リト族の族長と目されているクラフィカだ。彼は大きな荷物を持ってゆっくりとした歩調で積もった雪を踏みしめていく。どうも、訓練場の小屋を目指しているようだった。
こんな寒い日にこんな所までやってきたにも関わらず、クラフィカの表情は晴れやかだ。何か楽しいことがここで起こっているかのような、そんな表情だった。
「ようリーバル、調子はどう……っ!?」
クラフィカが大量のタバンタ焼きが入った袋を持って飛行訓練場の小屋に梯子を登って入ろうとすると、急に矢が飛んできて彼の自慢の巻き毛をふわりと揺らす。おそるおそるクラフィカが小屋の中を見ると、不機嫌そうに弓を構えるリーバルが立っていた。
「何の用? 今忙しいから後にして欲しいんだけど」
「何って、お前の新技開発の応援に……」
「だから! それが迷惑だって何度も言ってるだろバカ兄貴!」
リーバルがクラフィカに不可解な質問をした日以降、リーバルは連日飛行訓練場に泊まり込んで新技の開発に取り組んでいた。
「迷惑って……お前がまともに食事も取らないから、俺がこうしてここに来てるんじゃないか」
「食事くらい何食か抜いても死にはしないだろ。それを口実にして兄貴にここに居座られる方がよっぽど困るんだよっ」
食事もまともに取らない生活をしているリーバルを見かね、クラフィカが食料を持ってくるついでに様子を見に来るようになった。だが新技の開発に集中したいリーバルにとってクラフィカの存在はかなりプレッシャーだったようで、クラフィカが飛行訓練場にやってくるとすぐに追い返すようになったのである。
「……兄貴だって族長の引き継ぎで忙しいんだから、僕だけに構う必要ないでしょ」
「族長になるならなおさら、リト族の一人でもあるお前が無理してないか様子を見るのも重要なことさ」
「はいはい、そうかい。でも大きなお世話だからタバンタ焼きだけ置いて村に帰ってくれない? 新技開発の邪魔されちゃ困るからね」
クラフィカの次期族長としての言い分もリーバルには右から左に受け流されてしまった。どうしても一人で新技開発を続けたいリーバルは、クラフィカをここから退けたいようだった。
「……そこまで言われちゃ仕方がない。食料はここに置いておくから、ちゃんと食べるんだぜ?」
「ふん、分かってるって」
シッシッとクラフィカを翼で追い返す仕草をしながら、リーバルの足は小屋の桟橋の方に向かおうとしていた。それを見て何を思ったのか、クラフィカがまた嘴を開く。
「あー、最後に一つだけいいか?」
「……なにさ」
「上昇気流に乗った時、もっと気流の中心に位置取りした方が良い。そうすればきっと気流に弾き飛ばされることもなくなるだろうさ」
「…………!」
どうもクラフィカは以前ここに来た際にリーバルの新技開発の様子を盗み見ていたようだ。
そこから何が悪かったのか彼なりに分析したのだろう。その助言はリーバルにとってかなり有用なものだと思われるが、プライドの高い彼がそれを受け入れるかは未知数だった。
「………………アドバイスどうも」
下手をすればまた矢が飛んできそうだったが、意外にもリーバルはクラフィカの助言を受け入れる。新技開発の邪魔はしてほしくはないが、第三者の助言は欲しかったようだ。
「ふっ、幸運を祈る」
そう言って、クラフィカは飛行訓練場を後にする。あれだけ降っていた雪はいつの間にか止み、青空が広がっていた。それを吉兆だと判断したクラフィカはリーバルの新技開発がうまくいくことを確信したのだった。
◇ ◇
―――数ヶ月後。タバンタ辺境、リトの村広場入口。
「よっ、クラフィカ! 正式に族長就任おめでとう!」
「ようやくだなクラフィカ。引き継ぎの儀式用の衣装、よく似合ってるぞ」
「ありがとう、二人とも。なんだかまだ現実感なくてな。フワフワした気分さ」
クラフィカと特に仲の良いリト族が彼にお祝いの言葉を贈る。それを受け取るクラフィカも満更ではない表情をしていた。
その日のリトの村はとても慌ただしかった。
長らく族長候補だったクラフィカがようやく正式に族長となる日が来たのである。
「それにしてもリーバルのやつ、まだ来ないな」
「全く、仮にも兄の晴れ舞台だと言うのに」
引き継ぎの儀式を目前に控えて村中のリト族が村の広場に集まる中、一人だけまだ姿を現さないリト族がいた。クラフィカの弟であるリーバルだ。彼は新技開発の為に飛行訓練場に籠りきっている。もしかして今日というハレの日にも村に戻らないつもりなのかもしれない。
「まぁまぁ、あいつも今大変な時期だし仕方ないさ」
「そう言ってお前がずっと甘やかしてたのがいけないんじゃないか?」
「それには俺も同意する。お前は弟に甘すぎる。今からでも少し突き放してやった方がいい。あいつもお前のありがたみが分かる筈だ」
「大丈夫だよ。弟だって馬鹿じゃない。ただちょっと素直じゃないだけなんだ」
「……それを甘やかしてるって言うんだけどなぁ」
「やれやれ、兄弟揃ってこれではつける薬が見つからんな」
「おいおい、そこまで言わなくても……」
「全く、兄貴は分かるとしても僕までそう言われるのは心外だね!」
呆れ顔の二人にクラフィカが苦笑していると、急に知った声が彼らの耳に届く。
「! り、リーバル?!」
「いつの間に……?!」
広場の中央を見れば、そこには飛行訓練場に籠もっていた筈のリーバルの姿があった。だが彼の登場が唐突過ぎて、クラフィカ達は困惑を隠せずにいた。
彼ら三人は広場の入り口で話していたのでリーバルが歩いてやってきたのであればすぐ気付いた筈だし、飛行訓練場から直接広場に飛んできたのであればそれを視認できた筈なのだ。現に突然現れたリーバルに他のリト族も驚いているようだった。
「お前……ここまでどうやって来たんだ?」
「ふふん、そのタネ明かしはこれからさ。と、その前に」
「?」
「兄貴、その……族長就任おめでとう。せいぜい無理しない程度に頑張ってよ」
「……お、おう」
「ちょっと、この僕が祝辞を述べてるんだから少しは嬉しそうにしてよ。ま、別にいいけど」
目は合わさずにだが自分に自発的に祝辞を述べるリーバルがひどく珍しくて、クラフィカはギクシャクした態度でそれに応じる。リーバルはその態度が少しばかり気になったようだが、それよりやりたいことがあったのか深く追及することはなかった。
「――これは僕からの前祝いだ。ありがたく受け取ってくれよ」
そう言ってリーバルは広場の端で片膝をついてしゃがむ。何をするつもりだろうと他のリト族が困惑気味にリーバルに注目し始めると、彼の周囲にするすると風が集まり始める。それが少し離れた所にいたクラフィカの衣装をバタバタと揺らす程激しくなった時、リーバルは一回だけ大きく羽ばたいて空高く舞い上がった。空中に飛び出したリーバルがすぐさま弓を構えて上空に花火用のバクダン矢を撃ち出せば、昼ながら派手な花火がリトの村上空を彩っていた。
「す、すげぇっ!」
「まさかこれほどとは……!」
村のリト族達の嘴から驚きの声が漏れ、やがてそれはリーバルを讃える歓声へと変わる。奇しくも族長引き継ぎの儀式の前座となったリーバルの新技披露は大成功と相成った。
「――――――」
そんな中、クラフィカは一人感慨深くリーバルが美しく空を飛ぶ様をじっと見つめていた。
(――新技、ようやく完成したんだな)
想像していた以上のものをリーバルが作り上げたことがとても誇らしく、クラフィカは皆に気付かれないように目を潤ませる。
その後、族長引き継ぎの儀式はいつも以上に盛り上がり、リーバルのこともあってクラフィカは皆に大いに祝福されたのだった。
クラフィカが族長になったこの日は、その後百年以上経ってもリトの村ではリーバルの新技完成の日として語られるようになった。
―――タバンタ辺境、リトの村。
「ねぇ、今いい?」
族長見習いとして書類仕事をこなしていたクラフィカの所に、珍しく弟であるリーバルがやってきた。その声音はひどく深刻そうで、何か深い悩み事でもあるような雰囲気だった。
「ん? 別に構わないが……」
「…………」
そんなリーバルにクラフィカも書類仕事を中断して話を聞こうとリーバルに向き直る。だがリーバルはなぜか中々嘴を開かない。何か……本当に話していいのか迷っているような様子である。それを悟ったクラフィカはリーバルが再び嘴を開くまで辛抱強く待つ。すると、しばらくしてようやくリーバルが言葉を発した。それは不可解で奇妙な質問だった。
「――単刀直入に聞く。風を上方向に向けて起こすことって可能?」
「……理論上一応可能だと思うが」
「じゃあもう一つ質問、その風に乗って空高く飛ぶことは可能?」
「それも一応理論上可能だと思うが、急にどうしたんだ?」
「…………」
不可解な質問にクラフィカが答えつつもリーバルにその理由を訊ねるが、リーバルはまた黙ってしまった。だがその目は何か大きなことをやり遂げようとする覚悟と自信に溢れていることをクラフィカは悟り、ニヤリと笑う。
「何か、企んでるな?」
「…………風の力で、素早く垂直上昇できる技を考えてる」
「そうか、うまくいくといいな」
「……質問、答えてくれてありがとう」
それだけ言って、リーバルは部屋を去って行った。
「――垂直上昇、か」
一人になった部屋で、クラフィカは木で組まれた天井を見上げて呟く。リーバルが話した技はおそらくリト族でも前代未聞の大技になるだろう。同時に、その技が完成すれば彼の戦闘能力を大幅に向上することになるとクラフィカは確信する。そうなればリーバルは確実にリト族は元よりハイラルでも一位二位を争う戦士になるだろう。それが嬉しくてクラフィカの顔はいつもより柔らかな表情をしていた。
「さて、俺も弟に負けないように頑張るとするか」
クラフィカは誰に言うともなしにそう呟いて、書類仕事を再開したのだった。
◇ ◇
―――二ヶ月後。タバンタ辺境、飛行訓練場。
しんしんと雪の降る飛行訓練場の入口に、一人のリト族の影が現れる。その影は次期リト族の族長と目されているクラフィカだ。彼は大きな荷物を持ってゆっくりとした歩調で積もった雪を踏みしめていく。どうも、訓練場の小屋を目指しているようだった。
こんな寒い日にこんな所までやってきたにも関わらず、クラフィカの表情は晴れやかだ。何か楽しいことがここで起こっているかのような、そんな表情だった。
「ようリーバル、調子はどう……っ!?」
クラフィカが大量のタバンタ焼きが入った袋を持って飛行訓練場の小屋に梯子を登って入ろうとすると、急に矢が飛んできて彼の自慢の巻き毛をふわりと揺らす。おそるおそるクラフィカが小屋の中を見ると、不機嫌そうに弓を構えるリーバルが立っていた。
「何の用? 今忙しいから後にして欲しいんだけど」
「何って、お前の新技開発の応援に……」
「だから! それが迷惑だって何度も言ってるだろバカ兄貴!」
リーバルがクラフィカに不可解な質問をした日以降、リーバルは連日飛行訓練場に泊まり込んで新技の開発に取り組んでいた。
「迷惑って……お前がまともに食事も取らないから、俺がこうしてここに来てるんじゃないか」
「食事くらい何食か抜いても死にはしないだろ。それを口実にして兄貴にここに居座られる方がよっぽど困るんだよっ」
食事もまともに取らない生活をしているリーバルを見かね、クラフィカが食料を持ってくるついでに様子を見に来るようになった。だが新技の開発に集中したいリーバルにとってクラフィカの存在はかなりプレッシャーだったようで、クラフィカが飛行訓練場にやってくるとすぐに追い返すようになったのである。
「……兄貴だって族長の引き継ぎで忙しいんだから、僕だけに構う必要ないでしょ」
「族長になるならなおさら、リト族の一人でもあるお前が無理してないか様子を見るのも重要なことさ」
「はいはい、そうかい。でも大きなお世話だからタバンタ焼きだけ置いて村に帰ってくれない? 新技開発の邪魔されちゃ困るからね」
クラフィカの次期族長としての言い分もリーバルには右から左に受け流されてしまった。どうしても一人で新技開発を続けたいリーバルは、クラフィカをここから退けたいようだった。
「……そこまで言われちゃ仕方がない。食料はここに置いておくから、ちゃんと食べるんだぜ?」
「ふん、分かってるって」
シッシッとクラフィカを翼で追い返す仕草をしながら、リーバルの足は小屋の桟橋の方に向かおうとしていた。それを見て何を思ったのか、クラフィカがまた嘴を開く。
「あー、最後に一つだけいいか?」
「……なにさ」
「上昇気流に乗った時、もっと気流の中心に位置取りした方が良い。そうすればきっと気流に弾き飛ばされることもなくなるだろうさ」
「…………!」
どうもクラフィカは以前ここに来た際にリーバルの新技開発の様子を盗み見ていたようだ。
そこから何が悪かったのか彼なりに分析したのだろう。その助言はリーバルにとってかなり有用なものだと思われるが、プライドの高い彼がそれを受け入れるかは未知数だった。
「………………アドバイスどうも」
下手をすればまた矢が飛んできそうだったが、意外にもリーバルはクラフィカの助言を受け入れる。新技開発の邪魔はしてほしくはないが、第三者の助言は欲しかったようだ。
「ふっ、幸運を祈る」
そう言って、クラフィカは飛行訓練場を後にする。あれだけ降っていた雪はいつの間にか止み、青空が広がっていた。それを吉兆だと判断したクラフィカはリーバルの新技開発がうまくいくことを確信したのだった。
◇ ◇
―――数ヶ月後。タバンタ辺境、リトの村広場入口。
「よっ、クラフィカ! 正式に族長就任おめでとう!」
「ようやくだなクラフィカ。引き継ぎの儀式用の衣装、よく似合ってるぞ」
「ありがとう、二人とも。なんだかまだ現実感なくてな。フワフワした気分さ」
クラフィカと特に仲の良いリト族が彼にお祝いの言葉を贈る。それを受け取るクラフィカも満更ではない表情をしていた。
その日のリトの村はとても慌ただしかった。
長らく族長候補だったクラフィカがようやく正式に族長となる日が来たのである。
「それにしてもリーバルのやつ、まだ来ないな」
「全く、仮にも兄の晴れ舞台だと言うのに」
引き継ぎの儀式を目前に控えて村中のリト族が村の広場に集まる中、一人だけまだ姿を現さないリト族がいた。クラフィカの弟であるリーバルだ。彼は新技開発の為に飛行訓練場に籠りきっている。もしかして今日というハレの日にも村に戻らないつもりなのかもしれない。
「まぁまぁ、あいつも今大変な時期だし仕方ないさ」
「そう言ってお前がずっと甘やかしてたのがいけないんじゃないか?」
「それには俺も同意する。お前は弟に甘すぎる。今からでも少し突き放してやった方がいい。あいつもお前のありがたみが分かる筈だ」
「大丈夫だよ。弟だって馬鹿じゃない。ただちょっと素直じゃないだけなんだ」
「……それを甘やかしてるって言うんだけどなぁ」
「やれやれ、兄弟揃ってこれではつける薬が見つからんな」
「おいおい、そこまで言わなくても……」
「全く、兄貴は分かるとしても僕までそう言われるのは心外だね!」
呆れ顔の二人にクラフィカが苦笑していると、急に知った声が彼らの耳に届く。
「! り、リーバル?!」
「いつの間に……?!」
広場の中央を見れば、そこには飛行訓練場に籠もっていた筈のリーバルの姿があった。だが彼の登場が唐突過ぎて、クラフィカ達は困惑を隠せずにいた。
彼ら三人は広場の入り口で話していたのでリーバルが歩いてやってきたのであればすぐ気付いた筈だし、飛行訓練場から直接広場に飛んできたのであればそれを視認できた筈なのだ。現に突然現れたリーバルに他のリト族も驚いているようだった。
「お前……ここまでどうやって来たんだ?」
「ふふん、そのタネ明かしはこれからさ。と、その前に」
「?」
「兄貴、その……族長就任おめでとう。せいぜい無理しない程度に頑張ってよ」
「……お、おう」
「ちょっと、この僕が祝辞を述べてるんだから少しは嬉しそうにしてよ。ま、別にいいけど」
目は合わさずにだが自分に自発的に祝辞を述べるリーバルがひどく珍しくて、クラフィカはギクシャクした態度でそれに応じる。リーバルはその態度が少しばかり気になったようだが、それよりやりたいことがあったのか深く追及することはなかった。
「――これは僕からの前祝いだ。ありがたく受け取ってくれよ」
そう言ってリーバルは広場の端で片膝をついてしゃがむ。何をするつもりだろうと他のリト族が困惑気味にリーバルに注目し始めると、彼の周囲にするすると風が集まり始める。それが少し離れた所にいたクラフィカの衣装をバタバタと揺らす程激しくなった時、リーバルは一回だけ大きく羽ばたいて空高く舞い上がった。空中に飛び出したリーバルがすぐさま弓を構えて上空に花火用のバクダン矢を撃ち出せば、昼ながら派手な花火がリトの村上空を彩っていた。
「す、すげぇっ!」
「まさかこれほどとは……!」
村のリト族達の嘴から驚きの声が漏れ、やがてそれはリーバルを讃える歓声へと変わる。奇しくも族長引き継ぎの儀式の前座となったリーバルの新技披露は大成功と相成った。
「――――――」
そんな中、クラフィカは一人感慨深くリーバルが美しく空を飛ぶ様をじっと見つめていた。
(――新技、ようやく完成したんだな)
想像していた以上のものをリーバルが作り上げたことがとても誇らしく、クラフィカは皆に気付かれないように目を潤ませる。
その後、族長引き継ぎの儀式はいつも以上に盛り上がり、リーバルのこともあってクラフィカは皆に大いに祝福されたのだった。
クラフィカが族長になったこの日は、その後百年以上経ってもリトの村ではリーバルの新技完成の日として語られるようになった。