モノクロとブルー

【ある日の二人、いつもの二人】


 ―――タバンタ辺境、リトの村。

「ちょっと! バカ兄貴!」

 穏やかなリトの村の昼下がりにある人物の怒鳴り声が響き渡る。だが村のリト族は驚くこともせず、また始まったと肩をすくめていた。
 怒鳴り声の主は青い羽毛のリト族でやや小柄で、まだ大人になりきれていない年齢のようだ。その顔は憤怒に満ちあふれていて、一体何があったのか興味をそそられた。

「ん、リーバルどうした?」

 バカ兄貴と呼ばれてのんびりと振り返ったのは白と黒の羽毛を持つクラフィカという青年だった。頭には巻き毛があり、独特の雰囲気を醸し出している。『兄貴』という言葉が確かならリーバルと呼ばれた青いリト族とクラフィカは兄弟ということになるが、あまり似ていないように感じられた。

「また勝手に僕の弓持って魔物の討伐に行っただろ?! やめてくれないかな、そういうことするの!」

 どうも、クラフィカがリーバルの弓を勝手に借りて魔物討伐に行ったらしい。言い方からしてよくあることのようだ。
 ちなみにリーバルの使っている弓はオオワシの弓と呼ばれていて、とても重いが攻撃力の高い弓だった。最近のリト族の間ではこの兄弟しか扱えない弓として有名である。

「だってお前、この前ライネル倒した時に怪我してただろ? 今回はボコブリンの集団だったし、わざわざお前が出るまでもないさ」

 リーバルの怒りに、クラフィカも理由を並べて反論する。クラフィカはクラフィカなりにリーバルを気遣ってそんなことをしたようだが、リーバルは納得いかないようで再び嘴を開く。

「だ、だからって族長候補が討伐に行く必要ないじゃないかっ」
「族長見習いも肩が凝ってな。たまに暴れてストレス発散したくなるのさ」
「……全く、本当に族長になる気あるのか分からなくなるよ」

 クラフィカのマイペースな言い分に、リーバルは怒りより呆れが勝ったのかようやく怒りのトーンが下がる。怒りをぶつけても意味がないと思ったらしい。溜め息を吐いて今度は冷静な口調で話を続けた。

「とにかく、オオワシの弓が必要なら一言僕に声をかけてよね」
「分かった、気を付ける」
「前も同じこと言ってただろ、今度こそちゃんとしてよ」
「はは、手厳しいねぇ」
「…………」
「? リーバル?」

 急に黙った弟にクラフィカは訝しげにその顔を覗き込む。すると、リーバルの嘴から意外な言葉が紡がれた。

「……あ、兄貴だって忙しいんだから、無理はしないでよ?」
「……おっ、俺のこと心配してくれてるのか?! 兄ちゃんすごく嬉しいよ!」

 小声で呟かれた言葉にクラフィカが大声かつ大袈裟に反応するので、それを周囲に知られたくないリーバルは大いに慌てた。

「べっ、別にそんなんじゃ……!」
「でも、俺はお前の兄ちゃんなんだからいつでも頼っていいんだぜ?」
「〜〜〜っ!! だから! そういうのが! お節介だって言ってるんだ!」

 先程ようやくトーンダウンしたリーバルの声が再び怒鳴り声に変わる。対するクラフィカはそれをどこか微笑ましそうに眺めていた。
 そして密かに聞き耳を立てていた周囲のリト族は、ようやく彼らの兄弟喧嘩が終わったと各々の仕事に戻っていく。クラフィカとリーバルの兄弟喧嘩はリト族の間で数少ない娯楽になっているようだった。
 それを知ってか知らずか、リーバルは怒りながら村の広場から飛行訓練場に飛んで行ってしまった。残されたクラフィカはその飛んでいく様をしばらく眩しそうに見つめていた。
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