リンクと料理
【ハートミルクスープとゲルドの街】
「サヴァーク!」
いつものように裏声で挨拶をしながら門を通る。ここは男性禁制のゲルドの街。女装していなければすぐに追い出されてしまう女性の園。
ナボリスを鎮めてからもよく遊びに来るが、ここの街の賑わいは相変わらずだ。
女性だけでも逞しく暮らしているこの街のパワーはすごいものがある。
一通り街の中を巡れば、己のお腹がぐぅっと鳴った。時間も丁度夕刻である。俺は街の調理場へと向かった。
◇ ◇
「今日は何を作ろうかなぁ」
調理場でポーチの中身を確かめる。
ポーチには砂漠で採れたフルーツとミルク、そしてマックスラディッシュと大きなマックスラディッシュ。今までの記憶を総動員させてこれらの食材で作れそうな料理を考える。
「あれ……?」
食材をまじまじと見つめていると、ある事に気が付く。
「マックスラディッシュってハート型してるんだな」
そういえばゲルドの料理教室で、とある料理を作るにはミルクと砂漠で採れるフルーツの他にハート型の野菜が二つ必要だと聞いていたが……。
「ハートミルクスープか……」
その料理の名前をなんとなく口に出してみる。
「作ってみるかな」
もし失敗しても微妙な料理になるだけだ。
何事も経験だ。そう自分に言い聞かせて調理を開始した。
◇ ◇
「〜♪」
煮立ったミルクにすりおろしたマックスラディッシュを投入し、しばらく煮込む。その後ハート型にカットして別の鍋で茹でておいた大マックスラディッシュをカットしたフルーツと共に盛り付けた。
「我ながら、いい出来だ」
一口食べれば、フルーツの甘さが口に広がる。個人的にちょっと甘すぎる気もしなくはないが、これもゲルド独特の味なのだと納得した。
「良い香りがしたと思ってたら、あなたがハートミルクスープを作ってたのね」
「わ、ワーシャ先生?!」
突然声をかけられて振り向けば、この街で恋愛教室と料理教室を開催しているワーシャ先生だった。
「お久しぶりです、ワーシャ先生」
「お久しぶり。あのヒントから正解を導き出すなんて、あなたもやるわね」
「えっ、あれって忘れてたんじゃないんですか?」
「答えを全部教えちゃったら、面白くないでしょう? 自分で考えるのも料理の楽しみの一つよ」
「それは……そうかもしれないけど」
イマイチ納得出来なかったが、ワーシャ先生が寂しそうに笑うものだから何も言えなかった。
「それにしても懐かしいわ。私も作ったことがあるの。もう随分昔の話だけどね」
「先生にも……?」
「ええ。このスープ、一緒に食べると仲が良くなるってジンクスがあってね」
「なるほど」
「ある人と一緒に食べようって約束して、結局その日以降彼は現れなかった」
「そんな……」
「律儀に『もう会えない』って手紙を残してたのがあの人らしかったけど」
そう言って、ワーシャ先生は懐かしそうに笑う。その笑みにはやはり寂しさがこもっているように感じた。
「あなたにもこの料理を一緒に食べたいと思える人はいる?」
「えーっと……」
言われてからハッとする。いるには、いる。ただその人が何か物を食べるという認識すらなくて、そういえば生きているかさえ怪しいことに今になって気が付く。
「うーん……いるにはいるんですが……」
「もう、そこまで悩まなくて良いのよ。ごめんなさい、困らせてしまって」
「い、いえ……」
「でもね、一つ覚えておいて。会いたい人には会える時にちゃんと会っておかないと後悔するって」
「会える時にちゃんと……」
「先輩ヴァーイからの忠告よ」
「……忠告」
きっと今までもゲルドの若いヴァーイにそんな忠告をしてきたのだろう。自分は男だが、ワーシャ先生の言葉は胸によく響いた。
「ありがとうございます、ワーシャ先生」
「どういたしまして。その人に早く会えるといいわね」
「はい」
笑顔で返事をすればワーシャ先生は料理教室をやってる家に戻って行った。
「さて……」
少し冷めたハートミルクスープを啜りながら、シーカーストーンを開く。
鎮めた神獣は三体。残すはデスマウンテンの炎の神獣ルーダニアだ。それが終われば厄災と戦う布陣が整う。それはゼルダ姫を救う手段が整ったという意味でもある。
「俺に倒せるのかな……」
ナボリスに巣食っていた雷のカースガノンは強敵だった。今でも夢に出てくる程には怖い思いをした。ルーダニアに巣食っているだろうカースガノンも強そうな気がしてぶっちゃ嫌になってくる。
「いや、弱気になるのはよそう」
始まりの台地で王様と交わした約束を思い出し、奮起する。
こうしてはいられない。スープの残りをかきこんで食器を片付け、シーカーストーンでデスマウンテン近くにワープした。
ゲルドの調理場には青い光の残滓だけが残されていた。
「サヴァーク!」
いつものように裏声で挨拶をしながら門を通る。ここは男性禁制のゲルドの街。女装していなければすぐに追い出されてしまう女性の園。
ナボリスを鎮めてからもよく遊びに来るが、ここの街の賑わいは相変わらずだ。
女性だけでも逞しく暮らしているこの街のパワーはすごいものがある。
一通り街の中を巡れば、己のお腹がぐぅっと鳴った。時間も丁度夕刻である。俺は街の調理場へと向かった。
◇ ◇
「今日は何を作ろうかなぁ」
調理場でポーチの中身を確かめる。
ポーチには砂漠で採れたフルーツとミルク、そしてマックスラディッシュと大きなマックスラディッシュ。今までの記憶を総動員させてこれらの食材で作れそうな料理を考える。
「あれ……?」
食材をまじまじと見つめていると、ある事に気が付く。
「マックスラディッシュってハート型してるんだな」
そういえばゲルドの料理教室で、とある料理を作るにはミルクと砂漠で採れるフルーツの他にハート型の野菜が二つ必要だと聞いていたが……。
「ハートミルクスープか……」
その料理の名前をなんとなく口に出してみる。
「作ってみるかな」
もし失敗しても微妙な料理になるだけだ。
何事も経験だ。そう自分に言い聞かせて調理を開始した。
◇ ◇
「〜♪」
煮立ったミルクにすりおろしたマックスラディッシュを投入し、しばらく煮込む。その後ハート型にカットして別の鍋で茹でておいた大マックスラディッシュをカットしたフルーツと共に盛り付けた。
「我ながら、いい出来だ」
一口食べれば、フルーツの甘さが口に広がる。個人的にちょっと甘すぎる気もしなくはないが、これもゲルド独特の味なのだと納得した。
「良い香りがしたと思ってたら、あなたがハートミルクスープを作ってたのね」
「わ、ワーシャ先生?!」
突然声をかけられて振り向けば、この街で恋愛教室と料理教室を開催しているワーシャ先生だった。
「お久しぶりです、ワーシャ先生」
「お久しぶり。あのヒントから正解を導き出すなんて、あなたもやるわね」
「えっ、あれって忘れてたんじゃないんですか?」
「答えを全部教えちゃったら、面白くないでしょう? 自分で考えるのも料理の楽しみの一つよ」
「それは……そうかもしれないけど」
イマイチ納得出来なかったが、ワーシャ先生が寂しそうに笑うものだから何も言えなかった。
「それにしても懐かしいわ。私も作ったことがあるの。もう随分昔の話だけどね」
「先生にも……?」
「ええ。このスープ、一緒に食べると仲が良くなるってジンクスがあってね」
「なるほど」
「ある人と一緒に食べようって約束して、結局その日以降彼は現れなかった」
「そんな……」
「律儀に『もう会えない』って手紙を残してたのがあの人らしかったけど」
そう言って、ワーシャ先生は懐かしそうに笑う。その笑みにはやはり寂しさがこもっているように感じた。
「あなたにもこの料理を一緒に食べたいと思える人はいる?」
「えーっと……」
言われてからハッとする。いるには、いる。ただその人が何か物を食べるという認識すらなくて、そういえば生きているかさえ怪しいことに今になって気が付く。
「うーん……いるにはいるんですが……」
「もう、そこまで悩まなくて良いのよ。ごめんなさい、困らせてしまって」
「い、いえ……」
「でもね、一つ覚えておいて。会いたい人には会える時にちゃんと会っておかないと後悔するって」
「会える時にちゃんと……」
「先輩ヴァーイからの忠告よ」
「……忠告」
きっと今までもゲルドの若いヴァーイにそんな忠告をしてきたのだろう。自分は男だが、ワーシャ先生の言葉は胸によく響いた。
「ありがとうございます、ワーシャ先生」
「どういたしまして。その人に早く会えるといいわね」
「はい」
笑顔で返事をすればワーシャ先生は料理教室をやってる家に戻って行った。
「さて……」
少し冷めたハートミルクスープを啜りながら、シーカーストーンを開く。
鎮めた神獣は三体。残すはデスマウンテンの炎の神獣ルーダニアだ。それが終われば厄災と戦う布陣が整う。それはゼルダ姫を救う手段が整ったという意味でもある。
「俺に倒せるのかな……」
ナボリスに巣食っていた雷のカースガノンは強敵だった。今でも夢に出てくる程には怖い思いをした。ルーダニアに巣食っているだろうカースガノンも強そうな気がしてぶっちゃ嫌になってくる。
「いや、弱気になるのはよそう」
始まりの台地で王様と交わした約束を思い出し、奮起する。
こうしてはいられない。スープの残りをかきこんで食器を片付け、シーカーストーンでデスマウンテン近くにワープした。
ゲルドの調理場には青い光の残滓だけが残されていた。