ブレワイ&厄黙二次小説

【英傑と猫】


●リーバルの場合

「ちょっと……! 僕の尾羽を猫じゃらしにしないでくれる?!」

 リーバルの焦った声に振り向いて見れば、大きくて灰色の猫に彼の尾羽がおもちゃ代わりにされていた。
 猫が忙しなく動く尾羽に飛びかかろうとする度にリーバルが猫を避けるので、まるで彼らがダンスを踊っているようにも見えた。
 微笑ましくて、思わず笑みを浮かべる。
 するとリーバルから抗議の言葉が飛んできた。

「ちょっと姫、笑ってないで僕を助けてよ」

 見られていないと思ったのに、流石視野が広い。
 私はすみませんとリーバルに一言謝って、今なお彼の尾羽に飛びつこうとする猫をそっと抱き上げる。
 抱き上げた猫からはお日様のあたたかい匂いがして、私はついそのふわふわの毛に顔をうずめていた。
 猫……お城では飼えないだろうかなんて、馬鹿なことを考えながら。



●ミファーの場合

「この子、実は泳ぐのが得意なんだよ」

 気品のある長毛の白猫を一撫でして、ミファーがそんなことを言い出した。
 ミファーには珍しくとても自慢気である。
 しかし妙な話だ。猫といえば濡れるのが嫌いだと相場が決まっている筈なのに。

「もう、リンクったら信じてないね」

 そう言って、ミファーは抱き上げた猫と一緒に近くの湖の中に入っていく。猫が暴れるのではないかと思わず俺は身構えた。
 だが―――。

「ほら、気持ちよさそうに泳いでるでしょう?」

 そこには水面に顔を出し優雅に泳ぐ猫の姿があった。猫が泳ぐところなんて初めて見た。

「ふふっ、貴方の驚く顔……久しぶりに見た」

 呆然とその光景を見ていたら、ミファーは懐かしそうに笑う。俺の驚く顔ってそんなに珍しいか?という疑問が浮かんだが、ミファーの笑みがどこか眩しくて言葉にするのはやめにした。
 しばらく、湖を優雅に泳ぐミファーと猫をぼうっと見ていた。
 こんな穏やかな日がずっと続けばいいのにと思いながら。



●ダルケルの場合

「やっぱ猫って奴ァは可愛いな!」

 特徴的な模様を持った大きな猫を己の頭に乗せて、ダルケルは上機嫌だ。

「こいつは肝が座っててな、魔物相手にも一歩も引かねェんだ」

 頭の上に乗せている猫を自慢するダルケルは、リンクのことを話す時と同じような表情を浮かべていた。少しだけうらやましい。
 それにしても、ダルケルは猫は大丈夫なのに犬はダメなのは何故だろう?

「おいおい姫さん、今猫は良いのになんで犬はダメなのかって思っただろ」

 ダルケルはたまにこちらの思ったことを正確に当ててくることがある。なぜ分かるのだろう。

「姫さんは分かりやすいからなァ」

 そう言って、ダルケルはニカリと笑う。思ったことが顔に出ていたのが少し恥ずかしかった。

「……猫は集団で獲物を取り囲むなんて姑息な真似はしねェ。あいつらは徒党を組むからいけねぇんだ」

 それは各々の動物が持つ生きる為の純粋な習性だと思うのだが、ダルケルにはそうは見えないらしい。
 ――犬も、可愛いと思うんだけどな。

「姫さん、気持ちは分かるが犬のこと考えるのはもう止めようぜ」

 また考えていることを当てられてしまったようだ。
 私ってそんなに分かりやすいのかしら……。
 若干落ち込んでいると、ダルケルの頭の上の猫がウニャリと可愛らしく鳴いていた。
 気にするなと言っているようにも聞こえたので、猫の可愛さに免じてそうすることにした。



●ウルボザの場合

「この猫……眼の色がさ、御ひぃ様と同じなんだ」

 膝に乗せた翠色の眼をした猫をそっと撫でながら、ウルボザはどこか嬉しそうにそんなことを言った。

「翠の眼は魔物の眼……そんなことがまことしやかに囁かれていた頃は、翠の眼をした人間が差別されたり殺されることもあったんだ」

 そしてそれは猫でも例外ではなかったようだ。

「この迷信は今なお根深くてさ、陛下も御ひぃ様もかなり難儀していたようだよ」

 眼の色が普通と違うだけで人は同じ人間に対してそんなにも残酷になれるのか。
 自分にも似たような経験があることを思い出して思わず俯いた。

「特別であると、時に人から理解してもらえない時もある。それでも前へ進もうとする御ひぃ様を、私は出来る限り守っていきたいんだ」

 それはこの子も同じだけどねと付け加えて、ウルボザは猫の喉を優しく撫でる。
 撫でられた猫は気持ちよさそうに眼を閉じて、ゴロゴロと喉を鳴らしていた。

「リンク、あんただけじゃもしかして今の御ひぃ様を支えられないと思うことがあるかもしれない。でもそんな時は私らを頼りな。きっと力になってやるから」

 そう言って、ウルボザは真っ直ぐ俺の眼を見る。
 その眼はウルボザの膝に乗った猫の眼のように綺麗だった。
 その眼の色に護るべき主の眼が重なる。
 俺はウルボザの言葉に対して出来うる限り強く頷いた。
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