闇落ちリンクの話
【エピローグ】
―――厄災再封印から一年後。中央ハイラル、森林公園。
タダスズメやアオナミスズメが木々の間で楽しそうに囀るうららかな昼前、ハイラル城近くの森林公園の片隅に一人の人影が現れた。
木漏れ日が静かにこぼれるその場所には名前も書かれていない小さなお墓がポツリと置いてあり、どうやらその人影は墓参りに来たようだった。
「やぁ、また遊びに来てあげたよ」
小さなお墓の前にやってきた人影はリト族一の戦士であり、英傑の一人であるリーバルだった。
墓石にはシーカー族がよく使う小刀が突き刺さっており、この墓の主がシーカー族であることが伺えた。
「これ、インパから。丁度今、カカリコ村は梅の花が見頃なんだって」
そう言って、リーバルはインパから預かってきたであろう梅の花がいくつか咲いている小枝を墓に供える。
「プルアとロベリーは今スペシャルな花を作ってるらしくて、しばらくは来れないってさ」
花が完成したら真っ先に供えに行くから待ってなさいよ!と意気込んでいたプルアの姿を思い出して、リーバルはクスリと笑みをこぼしていた。
「――僕の方は、まぁ元気にやってるよ」
少しだけ目元を緩めさせて、リーバルは穏やかな声音で近況を墓前に報告する。
「ま、君としてはあの姫の近況が気になるかもしれないけど、それは本人から直接聞くといい」
今度は若干いたずらっぽく笑みを浮かべて、リーバルはそんな言葉を付け加えていた。
「それにしても……」
少し俯いて、リーバルは軽く溜め息を吐く。
その溜め息は墓の主の死を偲ぶ想いで満ちていた。
「……君のあの美しい音色が恋しいよ」
うららかな空を見上げながら、リーバルは寂しげにポツリと呟く。それに墓の主に代わって返事をするかのように小鳥達がどこか厳かに囀っていた。
◇ ◇
「おっ、やっぱり先に来てやがったか。おーーい、リーバル!」
「おっ、ようやく来たね」
リーバルが墓前に来てしばらくして、彼を呼ぶ大きな声が聞こえてきた。
「ダルケル、ここには詩人さんが眠ってるんだから大きな声はご法度だよ」
「わ、悪ぃ悪ぃ……」
「ふふっ、ダルケルさんったら」
いつもの癖で大声を出すダルケルにウルボザが注意すれば、ミファーがそれを見て微笑んでいた。
「抜けがけとは感心しませんね、リーバル」
その後ろからやってきたゼルダがリーバルに珍しく苦言を呈す。
「私だって彼と沢山話がしたいんですよ」
ゼルダが少しだけ口を尖らせれば、リーバルも少しだけ申し訳なさそうな顔をしていた。
「すまない姫、インパからなるべく早く梅の花を供えて欲しいって頼まれたものでさ」
「確かに、梅は今が花の盛りですものね。インパも彼に故郷の今を伝えたかったのでしょう」
仕方ないですねとゼルダがクスリと微笑めば、リーバルもまた穏やかに微笑んでいた。
「あら、私としたことがお喋りし過ぎてしまいましたね」
そう言ってゼルダは持ってきた姫しずかの花束を梅の花の横にそっと供え、跪いて祈りを捧げる。
「貴方は私の大切な友人であり、命の恩人です。どうか、安らかに……」
「――――」
四英傑もそれに倣い、厄災再復活の際にゼルダを庇って命を落とした元宮廷詩人に黙祷を捧げる。
一時、静かな時が訪れる。喧騒もない森林公園の片隅には小鳥達の囀りと川のせせらぎだけが響いていた。
「――あれからもう一年経ったなんてなんだか信じられないよ」
黙祷を終えた後、ウルボザが一年前のことを懐かしむ。
「私も同じ気持ちです。生き返った後はずっと忙しかったので……」
生き返ったゼルダは厄災を再封印した後が大変だった。死んだ筈の姫が生き返ったのだ。混乱する大臣や貴族達への説明も難儀したが、なにより民への説明にハイラル王も英傑達も相当苦労した。
最終的には大臣や貴族達も民もゼルダが生き返ったことを受け入れて祝福してくれたが、その道のりは簡単なものではなかったのだ。
「今こうやって私が穏やかに暮らせるのも、皆に熱心に説明してくれたお父様や貴方達のおかげです」
「へへっ、良いってことよ」
「ダルケルは殆ど役に立たなかったけどね」
「お、おいおいそりゃないぜ!」
得意気になるダルケルにリーバルが水を差す。
どうも生き返ったゼルダのことを皆に説明する際、ダルケルはあまり役に立たなかったようだ。
「こらこら、リーバルもそのことでダルケルを虐めるんじゃないよ。そっとしておいておやり」
「そうだよ、リーバル。ダルケルさんだってあれでも一生懸命だったんだからそんなこと言っちゃだめだよ」
「あれでも……うぅっ、悪意ない一言がここまで心にくるとは思わなかったぜ……」
「? ダルケルさん?」
「ミファーはある意味、僕より毒舌なのかも……」
知らぬ間にダルケルに言葉でトドメを刺したミファーにウルボザとゼルダはクスリと微笑み、リーバルはやれやれと肩を竦めていた。
「そういえば……」
話が一息ついたところで、ダルケルが改まった顔で口を開く。
「相棒のやつ、元気にしてっかな」
「ダルケルさん……。そうだね、きっと元気にしてる筈だよ」
リンクは今、一人で他国に旅に出ている。
ゼルダに赦されたとは言え、リンクと戦って傷つけられた兵士達や騎士達が大量にいる現状ではほとぼりが冷めるまで国外に出ることが最も妥当であるとハイラル王とゼルダが判断した為でもあった。
◇ ◇
―――一年前。
「国外への旅……ですか」
「はい」
厄災の再封印後、カカリコ村に身柄を預けられていたリンクのもとに訪れたゼルダは彼に静かにそう告げた。
「ゼルダ様の決定であれば俺は何でも従いますが……」
どこか不思議そうに呟くリンクにゼルダはゆっくりと首を横に振る。
「リンク、自身を解き放つのです。そして世界を渡るのです。その時初めて、貴方は真に自由を手にするでしょう」
「真の自由……」
「確かに、貴方がハイラルからいなくなることは私にとってもひどく寂しいことです。ですが、それ以上に貴方が騎士としての自分に縛られて心から自由になれないことが私は我慢ならないのです」
「………………」
「今まで貴方には頼りきりでしたから、これから私は自分の足で立って歩くべきなのです」
「強く……なられましたね、ゼルダ様」
「それも貴方のおかげです」
誇らしげに、ゼルダは力強く微笑んでいた。
「だからもし、ハイラルが恋しくなったらその時は戻ってきてください。ハイラルの王女として貴方を歓迎します」
「……分かりました」
――結果として王国を二度救った勇者は『ゼルダ様を頼む』と皆に強く念を押してハイラルを旅立ったのだった。
◇ ◇
「――今、リンクはどこらへんにいるんだろうね」
「海の向こうか、砂漠の先か……あるいは北の高原の可能性も十分有り得ます」
「実は早々にハイラルが恋しくなって帰ってきてる最中だったりして」
「そうだったら……嬉しいんだけどな」
リーバルの冗談に、ミファーがポツリと呟く。
「ミファーは相棒と幼馴染だもんな。やっぱり寂しいか?」
「寂しくないって言ったら嘘になるかな。早く会いたいなって思うよ」
「そうか。俺もまた相棒と一緒にロース岩を食べてぇなぁ」
言いながら、ダルケルの腹がグキュルと大きな音を立てて鳴る。
「――いかんいかん、ロース岩のこと考えてたら腹減ってきちまった」
「相変わらず食いしん坊だねダルケルは」
舌を出して笑うダルケルに、ウルボザはやれやれと肩を竦める。
「あ、今日のお昼の会食にはロース岩も用意させてますので沢山食べていってくださいね」
「おっ、流石姫さん気が利くじゃねぇか!」
ゼルダの言葉にダルケルが目を輝かせれば、それを見ていたリーバルがゼルダに苦言を呈す。
「姫、あんまりダルケルを甘やかしちゃだめだぜ? ゴロン族は他の食べ物だって食べられるんだからさ」
「はっ、そんなこと言って後で欲しくなってもやらねぇからな!」
「だからいらないって……。リト族には消化の為に小石を飲み込む習慣はあっても岩を食べることはないって何度言ったら……」
「よし、そうと決まれば食堂まで競争だ! へへっ、ロース岩が無くなってても後悔するなよ?」
そう言って、ダルケルは丸まって城に向けて高速で転がり始める。
「あっ、こら! まだ話は終わってないよダルケル!」
それを見たリーバルが慌てて空に飛び上がり、ダルケルの後を追っていた。
「全く、あの二人は大砲の玉か何かかい?」
呆れ顔でそう言いながらウルボザは二人の後を追っていった。
「……私達も、行きましょうか」
「そうだね。行こう、姫様」
そう言って、ゼルダとミファーは静かにその場を後にした。
彼らが去った後、墓前に供えられた姫しずかの花と梅の花はそよ風に吹かれて厳かに揺れていた。
◇ ◇
―――厄災再封印から??後。ゲルド地方、イーガ団のアジト。
「はぁ〜〜、折角厄災が蘇ったのにまさかまた封印されるとはな〜」
イーガ団の頭領、コーガ様はツルギバナナにかぶりつきながら愚痴をこぼしていた。
「面目次第もござらぬ……。やはり拙者も念の為ハイラル城へ出向いていれば……!」
その隣に控えていたイーガの筆頭幹部であるスッパが悔しげな声音をもらす。
「それを止めていたのは他でもない俺様だ。スッパは何も悪くねぇよ」
「しかし……」
「これ以上自分を責めたら、バナナ抜きにするぞ」
「……承知」
そう言ってコーガ様はツルギバナナを完食し、満足そうに腹を叩いた。
「して、あの計画に関わった者達への処断は如何にするでござるか?」
「処断? しないしない。するわけねぇじゃん」
「と言うと……?」
「あいつらは曲がりなりにも厄災を復活させた。その功績を褒めなくてどうするよ」
「それはそうですが……」
「あいつらにはいつもより良いバナナを沢山見繕ってやれ。それでこの件はチャラだ」
「はっ!」
「……今度は勇者の助け無しに厄災を復活させなきゃなぁ、スッパ」
スッパに呼びかけながらコーガ様は立ち上がり、何処かへと歩いていく。
「はい、いつか必ずや」
スッパもそれに倣い、コーガ様の後ろをついて行く。
「俺らには時間がたっぷりとある。寿命の話じゃねぇ、俺らの志を受け継いでくれる奴らがいるからな」
「左様。我らの志は脈々と後世に受け継がれていくもの。何人にもそれを止めることは不可能にござる」
「――行くぞスッパ」
「御意……!」
二人は印を結んで何処かに瞬間移動した。
後に残った術符達はパラパラと舞い散り、それらはまるで暗闇に散った桜の花びらのようであった。
―――厄災再封印から一年後。中央ハイラル、森林公園。
タダスズメやアオナミスズメが木々の間で楽しそうに囀るうららかな昼前、ハイラル城近くの森林公園の片隅に一人の人影が現れた。
木漏れ日が静かにこぼれるその場所には名前も書かれていない小さなお墓がポツリと置いてあり、どうやらその人影は墓参りに来たようだった。
「やぁ、また遊びに来てあげたよ」
小さなお墓の前にやってきた人影はリト族一の戦士であり、英傑の一人であるリーバルだった。
墓石にはシーカー族がよく使う小刀が突き刺さっており、この墓の主がシーカー族であることが伺えた。
「これ、インパから。丁度今、カカリコ村は梅の花が見頃なんだって」
そう言って、リーバルはインパから預かってきたであろう梅の花がいくつか咲いている小枝を墓に供える。
「プルアとロベリーは今スペシャルな花を作ってるらしくて、しばらくは来れないってさ」
花が完成したら真っ先に供えに行くから待ってなさいよ!と意気込んでいたプルアの姿を思い出して、リーバルはクスリと笑みをこぼしていた。
「――僕の方は、まぁ元気にやってるよ」
少しだけ目元を緩めさせて、リーバルは穏やかな声音で近況を墓前に報告する。
「ま、君としてはあの姫の近況が気になるかもしれないけど、それは本人から直接聞くといい」
今度は若干いたずらっぽく笑みを浮かべて、リーバルはそんな言葉を付け加えていた。
「それにしても……」
少し俯いて、リーバルは軽く溜め息を吐く。
その溜め息は墓の主の死を偲ぶ想いで満ちていた。
「……君のあの美しい音色が恋しいよ」
うららかな空を見上げながら、リーバルは寂しげにポツリと呟く。それに墓の主に代わって返事をするかのように小鳥達がどこか厳かに囀っていた。
◇ ◇
「おっ、やっぱり先に来てやがったか。おーーい、リーバル!」
「おっ、ようやく来たね」
リーバルが墓前に来てしばらくして、彼を呼ぶ大きな声が聞こえてきた。
「ダルケル、ここには詩人さんが眠ってるんだから大きな声はご法度だよ」
「わ、悪ぃ悪ぃ……」
「ふふっ、ダルケルさんったら」
いつもの癖で大声を出すダルケルにウルボザが注意すれば、ミファーがそれを見て微笑んでいた。
「抜けがけとは感心しませんね、リーバル」
その後ろからやってきたゼルダがリーバルに珍しく苦言を呈す。
「私だって彼と沢山話がしたいんですよ」
ゼルダが少しだけ口を尖らせれば、リーバルも少しだけ申し訳なさそうな顔をしていた。
「すまない姫、インパからなるべく早く梅の花を供えて欲しいって頼まれたものでさ」
「確かに、梅は今が花の盛りですものね。インパも彼に故郷の今を伝えたかったのでしょう」
仕方ないですねとゼルダがクスリと微笑めば、リーバルもまた穏やかに微笑んでいた。
「あら、私としたことがお喋りし過ぎてしまいましたね」
そう言ってゼルダは持ってきた姫しずかの花束を梅の花の横にそっと供え、跪いて祈りを捧げる。
「貴方は私の大切な友人であり、命の恩人です。どうか、安らかに……」
「――――」
四英傑もそれに倣い、厄災再復活の際にゼルダを庇って命を落とした元宮廷詩人に黙祷を捧げる。
一時、静かな時が訪れる。喧騒もない森林公園の片隅には小鳥達の囀りと川のせせらぎだけが響いていた。
「――あれからもう一年経ったなんてなんだか信じられないよ」
黙祷を終えた後、ウルボザが一年前のことを懐かしむ。
「私も同じ気持ちです。生き返った後はずっと忙しかったので……」
生き返ったゼルダは厄災を再封印した後が大変だった。死んだ筈の姫が生き返ったのだ。混乱する大臣や貴族達への説明も難儀したが、なにより民への説明にハイラル王も英傑達も相当苦労した。
最終的には大臣や貴族達も民もゼルダが生き返ったことを受け入れて祝福してくれたが、その道のりは簡単なものではなかったのだ。
「今こうやって私が穏やかに暮らせるのも、皆に熱心に説明してくれたお父様や貴方達のおかげです」
「へへっ、良いってことよ」
「ダルケルは殆ど役に立たなかったけどね」
「お、おいおいそりゃないぜ!」
得意気になるダルケルにリーバルが水を差す。
どうも生き返ったゼルダのことを皆に説明する際、ダルケルはあまり役に立たなかったようだ。
「こらこら、リーバルもそのことでダルケルを虐めるんじゃないよ。そっとしておいておやり」
「そうだよ、リーバル。ダルケルさんだってあれでも一生懸命だったんだからそんなこと言っちゃだめだよ」
「あれでも……うぅっ、悪意ない一言がここまで心にくるとは思わなかったぜ……」
「? ダルケルさん?」
「ミファーはある意味、僕より毒舌なのかも……」
知らぬ間にダルケルに言葉でトドメを刺したミファーにウルボザとゼルダはクスリと微笑み、リーバルはやれやれと肩を竦めていた。
「そういえば……」
話が一息ついたところで、ダルケルが改まった顔で口を開く。
「相棒のやつ、元気にしてっかな」
「ダルケルさん……。そうだね、きっと元気にしてる筈だよ」
リンクは今、一人で他国に旅に出ている。
ゼルダに赦されたとは言え、リンクと戦って傷つけられた兵士達や騎士達が大量にいる現状ではほとぼりが冷めるまで国外に出ることが最も妥当であるとハイラル王とゼルダが判断した為でもあった。
◇ ◇
―――一年前。
「国外への旅……ですか」
「はい」
厄災の再封印後、カカリコ村に身柄を預けられていたリンクのもとに訪れたゼルダは彼に静かにそう告げた。
「ゼルダ様の決定であれば俺は何でも従いますが……」
どこか不思議そうに呟くリンクにゼルダはゆっくりと首を横に振る。
「リンク、自身を解き放つのです。そして世界を渡るのです。その時初めて、貴方は真に自由を手にするでしょう」
「真の自由……」
「確かに、貴方がハイラルからいなくなることは私にとってもひどく寂しいことです。ですが、それ以上に貴方が騎士としての自分に縛られて心から自由になれないことが私は我慢ならないのです」
「………………」
「今まで貴方には頼りきりでしたから、これから私は自分の足で立って歩くべきなのです」
「強く……なられましたね、ゼルダ様」
「それも貴方のおかげです」
誇らしげに、ゼルダは力強く微笑んでいた。
「だからもし、ハイラルが恋しくなったらその時は戻ってきてください。ハイラルの王女として貴方を歓迎します」
「……分かりました」
――結果として王国を二度救った勇者は『ゼルダ様を頼む』と皆に強く念を押してハイラルを旅立ったのだった。
◇ ◇
「――今、リンクはどこらへんにいるんだろうね」
「海の向こうか、砂漠の先か……あるいは北の高原の可能性も十分有り得ます」
「実は早々にハイラルが恋しくなって帰ってきてる最中だったりして」
「そうだったら……嬉しいんだけどな」
リーバルの冗談に、ミファーがポツリと呟く。
「ミファーは相棒と幼馴染だもんな。やっぱり寂しいか?」
「寂しくないって言ったら嘘になるかな。早く会いたいなって思うよ」
「そうか。俺もまた相棒と一緒にロース岩を食べてぇなぁ」
言いながら、ダルケルの腹がグキュルと大きな音を立てて鳴る。
「――いかんいかん、ロース岩のこと考えてたら腹減ってきちまった」
「相変わらず食いしん坊だねダルケルは」
舌を出して笑うダルケルに、ウルボザはやれやれと肩を竦める。
「あ、今日のお昼の会食にはロース岩も用意させてますので沢山食べていってくださいね」
「おっ、流石姫さん気が利くじゃねぇか!」
ゼルダの言葉にダルケルが目を輝かせれば、それを見ていたリーバルがゼルダに苦言を呈す。
「姫、あんまりダルケルを甘やかしちゃだめだぜ? ゴロン族は他の食べ物だって食べられるんだからさ」
「はっ、そんなこと言って後で欲しくなってもやらねぇからな!」
「だからいらないって……。リト族には消化の為に小石を飲み込む習慣はあっても岩を食べることはないって何度言ったら……」
「よし、そうと決まれば食堂まで競争だ! へへっ、ロース岩が無くなってても後悔するなよ?」
そう言って、ダルケルは丸まって城に向けて高速で転がり始める。
「あっ、こら! まだ話は終わってないよダルケル!」
それを見たリーバルが慌てて空に飛び上がり、ダルケルの後を追っていた。
「全く、あの二人は大砲の玉か何かかい?」
呆れ顔でそう言いながらウルボザは二人の後を追っていった。
「……私達も、行きましょうか」
「そうだね。行こう、姫様」
そう言って、ゼルダとミファーは静かにその場を後にした。
彼らが去った後、墓前に供えられた姫しずかの花と梅の花はそよ風に吹かれて厳かに揺れていた。
◇ ◇
―――厄災再封印から??後。ゲルド地方、イーガ団のアジト。
「はぁ〜〜、折角厄災が蘇ったのにまさかまた封印されるとはな〜」
イーガ団の頭領、コーガ様はツルギバナナにかぶりつきながら愚痴をこぼしていた。
「面目次第もござらぬ……。やはり拙者も念の為ハイラル城へ出向いていれば……!」
その隣に控えていたイーガの筆頭幹部であるスッパが悔しげな声音をもらす。
「それを止めていたのは他でもない俺様だ。スッパは何も悪くねぇよ」
「しかし……」
「これ以上自分を責めたら、バナナ抜きにするぞ」
「……承知」
そう言ってコーガ様はツルギバナナを完食し、満足そうに腹を叩いた。
「して、あの計画に関わった者達への処断は如何にするでござるか?」
「処断? しないしない。するわけねぇじゃん」
「と言うと……?」
「あいつらは曲がりなりにも厄災を復活させた。その功績を褒めなくてどうするよ」
「それはそうですが……」
「あいつらにはいつもより良いバナナを沢山見繕ってやれ。それでこの件はチャラだ」
「はっ!」
「……今度は勇者の助け無しに厄災を復活させなきゃなぁ、スッパ」
スッパに呼びかけながらコーガ様は立ち上がり、何処かへと歩いていく。
「はい、いつか必ずや」
スッパもそれに倣い、コーガ様の後ろをついて行く。
「俺らには時間がたっぷりとある。寿命の話じゃねぇ、俺らの志を受け継いでくれる奴らがいるからな」
「左様。我らの志は脈々と後世に受け継がれていくもの。何人にもそれを止めることは不可能にござる」
「――行くぞスッパ」
「御意……!」
二人は印を結んで何処かに瞬間移動した。
後に残った術符達はパラパラと舞い散り、それらはまるで暗闇に散った桜の花びらのようであった。
6/6ページ