ゼノブレ2会話パロ短編

【曇天のポラリス】


「――もっと、技をみがいていかないと」

 曇天の中、ぬかるみに捨て置かれた魔物達の死骸を近くの岩場から座したまま睨みつけて、己に言い聞かせるように呟く。

 今日の討伐内容は満足いくものではなかった。
 拠点の高台に固まっていたボコブリン達の高所を取ったまでは良かったのだが、突然の雨で番えたバクダン矢が湿気て一気に殲滅する絶好のチャンスを無駄にしてしまったのだ。

 討伐自体はウルボザやダルケルの力もあってすぐに終わったが……。
 降って湧いた不運に狼狽えた僕は奴らから矢傷を負わされるハメになった。

 もっと手早く上昇気流を起こせてさえいれば、バクダン矢が湿気ることも怪我を負うことも無く、もっと短い時間で討伐出来たはずだったのに。
 今日この場にあいつがいなくて本当に良かった。
 他の連中にだってこんな無様は晒したくはなかったが、それだけは不幸中の幸いだったと思う。


 ――あの技リーバルトルネードにはまだ改良の余地がある。

 風を溜める時間をもっと短縮出来ないか今度また色々試してみよう。
 最終的に片手でも上昇気流を起こせる位までなれば、更に強力な切り札になりえるはずだ。
 それまで、まだまだ修練を続けていかなければ……。

「バクダン矢が濡れてダメになっちゃったこと、まだ気にしてるの?」

 独り言を聞かれてしまったのか、隣に座って僕の腕の怪我を治癒していたミファーが話しかけてきた。

 正直、他人に自分のミスをほじくり返されるのは好きではない。
 けどそのせいで今まさに彼女の世話になってる手前、あまり邪険には出来なかった。

「……そんなトコロさ」

 肩を竦めて悔しさをおくびにも出さず、いつもの僕らしいだろう態度で返事をする。

「ま、終わったことをいつまでもこだわっていても仕方ないし、これも良い経験だと思って次に繋げていくよ」
「リーバルって前向きなんだね。貴方のそういう所、すごいと思う……けど」
「けど、なんだい?」

 治癒が終わり、僕の二の腕から離した手を静かに膝に下ろしてミファーは少し言いにくそうに口を開く。

「貴方が魔物を仕留め損ねてもウルボザさんがいるし、敵が急に飛び出してきてもダルケルさんなら貴方を庇える。今回みたいに怪我をしても私がいるし……」
「……何が言いたいのさ」

 珍しく長々と話す割りに結論を中々言わないお姫様に、少しだけ苛立ちを覚えながら先を促す。

「えっとね、私達もいるってコト……忘れないでほしいの」

 同じ英傑なんだからと、当然のように柔らかく微笑むお姫様の頭飾りがシャラリと揺れる。
 それがなぜだか眩しくて、『余計なお世話だ』という言葉は声にならぬまま喉元で消えていった。

「……フン、言ってくれるね」
「あっ、ちょっと……」

 曇り空でも厳かに瞬く星に目を焼かれぬよう、ミファーから顔を背けて立ち上がる。

「それなら君が魔物に取り囲まれたりした時は、この僕が一瞬で奴らを消し炭にでもしてやるよ」

 慌てて立ち上がったミファーにそれだけ言って、ダルケル達が先に戻った近くの駐屯地に向けて歩き出す。

 苦し紛れの返事に、彼女は『貴方って物騒な物言いするのね』と苦笑いしながら先を行く僕の後ろをゆっくりついてきた。

 決して追いついては来ないが、近くにいる気配は確かにある。

 ――この距離感が、なぜだかとても心地良い。

 隣合って喋りながら歩く程仲良くはないけど、背中を向けても安心だと言える位には信じられる。
 それをどこかむず痒くも『悪くない』と思い始めてる自分に驚きを隠せなかった。

(僕がほだされるなんて…いやまさか、そんなこと)

 何か腹立たしくなって空を仰ぎ見る。
 あれだけ分厚かった雲はいつの間にか消え、道のわだちに溜った雨水が陽の光を浴びてキラキラと煌めいていた。

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