ゼノブレ2会話パロ短編

【戦いが終わった後のエトセトラ】


「よし、今回も僕の一人勝ちだね!」

 魔物の集団を全て倒し終えた時、リトの英傑が高らかに宣言しながら空から舞い降りてきた。

「おいおい待てよリーバル! あいつら追い込んで一箇所に集めたのは俺とリンクなのに、その言い方はねぇだろ……?」

 得意顔で言い切るリーバルにダルケルさんが素早く突っ込みを入れる。

 確かに今回の討伐で魔物を倒した数が多いのはおそらくリーバルが一番だ。
 けどそれは、ウルボザさんが魔物の拠点に大きめの雷を見舞って彼らの出鼻をくじいたおかげであり、その後魔物達を一匹も逃さず拠点の高台に集めたリンクとダルケルさんの息のあったコンビネーションがあってこそだったのだ。
 ついでに言えば、私も皆の殿しんがりとして魔物達を追い詰めるのに貢献出来たと思う。

 この勝利は皆の協力あってこそのものなのに、それをリーバル一人だけの手柄みたいに言われれば面白くないのは当然だ。
 正直、私だってあまりいい気はしていない。

(あれ……?)

 よく見れば、リンクも少々不服そうにダルケルさんの言い分に頷いていた。
 ちょっと珍しいものを見た気がする。

「はあ? 何言ってんのさ」

 リーバルも目敏くそれに気付いたのか、更に二人を煽るように目を細めて自身の活躍を大袈裟に語り出す。

「拠点の高台に集まってた魔物共のど真ん中に、この僕がバクダン矢を華麗かつド派手に決めて奴ら瞬殺だったじゃないか」
「――だから、奴らがまとまってたのは俺らが一匹逃さず集めたからなんだけどよォ……」
「ふん、自分が活躍出来なかったからって見苦しい言い訳は止めてもらいたいね」
「「――――」」

 ダルケルさんとリンクは困ったように顔を見合わせる。

「僕、あんた達が倒した魔物の数もそれぞれちゃあんと数えてたんだぜ? 今回は皆が一桁程度の魔物しか倒せていない中で、なんとこの僕だけが二桁だ!」
「……本当にオメェって、細けぇよなァ」
「誰かさんみたいに大雑把なのが嫌いなんだよ、僕は」
「…………」

 それって俺のことか?とダルケルさんがリンクに目で訴える。だけどリンクは困ったように目をそらすばかりだった。

「――兎に角、今回の討伐で僕が一番に活躍してないなんて、誰にも言わせないからね?」
「………はあ…。分かった、分かったよ。今回の一番はリーバルだ。それでいいよな、相棒?」
「……あぁ」
「フン、最初から僕が一番だって認めていれば、あんた達に懇切丁寧に説明する手間も省けたのにさ。すぐ負けを認められないって大人げないよねぇ」
「「…………」」

 己の活躍をしつこく言い募る戦士に、二人は何を言っても無駄みたいだと顔を見合わせて肩を竦めていた。
 遠目からでも、二人が心底げんなりしているのが見てとれた。

 それにしても……倒した敵の数ではしゃぐなんて、リーバルってちょっと子どもっぽいと思う。
 本人に直接言ったらその三倍くらい文句が返ってきそうだから黙ってるけど……。

「はぁ、戦いはもう終わったのに」
「ホント、やれやれだねぇ」

 思わず呟くと、私の隣にいたゲルドの族長も呆れたようにため息を吐く。

「リーバルも大概だけど、ダルケルもリンクもあいつにガツンと言ってやりゃいいのにさ」

 言いながら、ウルボザさんはさっきまで黒モリブリン相手に斬り結んでいた煌びやかな宝剣を鞘に納める。
 色とりどりの宝石で飾られた鞘と盾は、彼女の豪奢な赤毛にも英傑の衣の青にもよく似合っていた。

「どうやら、私らヴァーイがしっかりしないとダメみたいだ」

 神妙に呟くウルボザさんは、反抗期の我が子に手を焼く母親のようにも見えて微笑ましい。

「ふふっ、そうだね。私も協力するよ、ウルボザさん」

 にっこり微笑んでみせれば、彼女も艶やかな赤で彩られた目元を緩ませて穏やかに微笑む。
 王様と謁見した際や魔物と対峙している時には見ることのないウルボザさんの優しい微笑はすごく綺麗だと思う。

「ああ、助かるよミファー。私一人じゃあいつらの世話は酷く骨が折れそうだからね」
「でも丸投げは嫌だよ? 私でもすごく手を焼きそうだもの」
「ははっ、分かってるって」

 ウルボザさんは豪快に笑って、私の肩をポンと叩く。
 彼女の首元から仄かに漂う花の香りは、大人の女性……もといヴァーイらしさを感じさせた。

「うら若いヴァーイにばかり苦労させる気はないよ。ドレファン王からも『娘をくれぐれも頼むゾヨ』って手紙をもらってることだしねぇ」
「えぇっ!」

 初耳だった。
 私の驚く声に、ゲルドの族長はいたずらが成功した子どものように笑う。

「元々族長同士だからね、今もたまに手紙をもらうのさ」
「お、御父様ったら…っ! 相変わらず心配性なんだから……」

 共に戦う為に集まった英傑の一人に、まさか王直々にそんな手紙を出すなんて…。
 恥ずかしくて顔から火が出てしまいそうだ。
 子ども扱いが過ぎるんじゃないかと、ちょっぴり腹立たしくさえ思う。
 最近は日記だって注意しておかないと普通に読もうとするから、置き場所に非常に困っているのだ。

「窮屈に感じることもあるかもしれないけど、あんたが里のゾーラ族から愛されてる証拠だよ。実際、魔物と戦うのは危険が伴うからね。心配するのは当然さ」

 頭をふんわり撫でられる。
 その感触が柔らかくて心地よくて……どこかくすぐったい。
 気恥ずかしくなって思わず俯いた。

「……ウルボザさんはお世辞が上手いんだね」
「ほら、そういう所がミファーは可愛いんだ。周りが色々とうるさくなるのも仕方がないってことさね」
「か、からかわないでってば」
「あっはっはっ、ごめんごめん。あんたの反応が初々しくて楽しいからさ。つい、ね」

 ウルボザさんはまた楽しそうにからからと笑う。

「もう、ウルボザさんったら」

 見上げた彼女の表情は砂漠に咲く艶やかな花のように眩しくて、それにつられて私も笑みがこぼれた。


 ◇ ◇


 背がうんと高くてちょっぴり近寄り難く感じていたゲルドの族長は、案外茶目っ気があって可愛らしい人なのだと気づいたのは叙任式の後だった。
 ウルボザさんとは彼女が族長として私達の里に訪問した際に何度か顔を合わせたことはあったけど、こんな風に直接話す機会はなかったのだ。

 初めてウルボザさんと出会ったのは、彼女が族長になった直後だったと思う。
 その時はゲルド族を見るのも初めてだったから、まず彼女の豪奢で艷やかな赤毛に目を奪われたし、屈強かつしなやかな褐色の肉体に少なくない憧れを抱いたものだ。
 それと同時に、彼女のようなカッコいい女の人達が水の殆どない砂漠で暮らしているという事実に驚いていたのが懐かしい。


 ◇ ◇


「――さて、それじゃあ」
「? ウルボザさん、どうしたの?」

 しばらく二人で笑い合っていたら、ウルボザさんが突然愉快そうに目を細めて前方に向き直った。
 その表情はどことなく獰猛な雷獣を思わせる。

 ――なんだか、少し怖い。

 彼女の視線の先には上機嫌のリーバルの姿があった。
 リンク達に自分の今までの武勇伝をまだ披露中のようで、こちらに目を向ける様子はない。

「早速、あいつにキツ目のお灸を据えてやろうかね」
「えっ」

 ニコニコしながらそう言って、ゲルドの族長は右手を構える。
 これはウルボザさんが雷を使う時にする構えだったはずだけど……。

 ――ものすごく嫌な予感がする。

 ウルボザさんはいつもとても優しい人だけど、たまに私達を酷く驚かせるようなイタズラをするのだ。

「火加減――もとい力加減はちゃんとするさ。治癒の準備、お願いしとくよ」
「ち、ちょっと待ってウルボザさんっ……きゃあっ!?」

 私が止めに入る間もなく、ゲルドの英傑はパチリと指を鳴らす。
 直後に空がチカチカ光り、続いて何かが弾けて裂けるような音がした。

 ダルケルさん達相手にまだ自慢話を続けていたリトの戦士の頭上に緑色の閃光が奔る。

「「!」」

 ダルケルさんもリンクもその光に即座に反応し、その場から反射的に飛び退く。
 二人とも流石だ。反応がすごく速い。

 ――ただ…………。

「ちょっと、二人ともまだ話は終わって………うわああぁ……っ!?」

 ただ一人――喋るのに夢中になっていたリーバルにだけは、ウルボザさんのいかりが直撃したのは予想するまでもない話だった。

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