ゼノブレ2会話パロ短編

【抜き身の剣】


「見事だよ。美しい剣さばきだね、リンク」

 いつかの魔物討伐の折、リンクの太刀筋を間近で初めて見たウルボザは任務の終わり際に賞賛の言葉を送る。

「……無駄を省いた結果だと思う」

  退魔の剣を鞘に納めつつ、リンクは朴訥に返す。
 その物言いまでが、どこか彼の剣技に似て無駄がない。

「――ははっ、参ったねぇ。物言いまで無駄がないなんてさ」
「そ、そう……かな」

 豪快に笑って背中を軽く叩いてやれば、最年少で近衛の騎士となった天才剣士は自分の頬をぽりと指でかく。
 無表情ではあるが彼も中身はまだまだ年若いヴォーイそのもののようで、照れ臭そうな仕草にウルボザは好感をもった。

「初めて顔合わせた時は少し近寄り難くて、抜き身の剣みたいだと思ったけど……。今のあんたを見ていたら、なんだか安心したよ」
「――抜き身の、剣……」

 退魔の剣の主は言われた言葉を噛み締めるように繰り返しながらゲルドの女傑を見る。

「今みたいな素のあんたを御ひぃ様にも見せてやりなよ。そうすりゃ、もう少し打ち解けられるんじゃないのかい?」

 叙任式の終わった後、自分の無力を彼に蔑まされてるかもしれないと不安げにしていた王家の姫の苦しげな顔をウルボザは思い出す。
 少々お節介かもしれないが、物事が円滑に進むなら越したことはない。
 そう思っての言葉だった。

「俺は……一振りの剣のようにあの方を護れれば良いと、そう思ってる」

 だから見せる必要はないと、リンクは女傑の言を半ば退けるような言葉を返す。
 彼なりの騎士としての矜恃なのだろうが、それは既に二人の信頼関係が築かれている上で成立する話だ。

「己を護ってくれる剣がどんなやつなのか分かった方が、護られる側も安心すると思うんだが?」
「…………」

 ウルボザの言葉にリンクはどこか怯えたように微かに肩をビクつかせ、顔を俯かせる。
 何か……人に言えない苦悩を抱えてるような、そんな仕草。
 退魔の剣に選ばれた天才剣士と言えど、若い故に抱えるものも多いのかもしれない。

「―――」

 涼しい風が会話の止まった二人の髪をさわりと揺らす。
  空は青から茜に変わり、彼の背中の退魔の剣の柄が朱色の光を帯びていた。
 そろそろ、城に戻らねばならない時間だ。

「――そんな畏れ多いこと、俺には考えられない」

 しばらくしてリンクはぽつりとそれだけ呟き、待機させている愛馬の方に駆けて行った。

「……はっ、まだまだ青いねぇ」

 ウルボザは彼の騎士の背中を見送りながら、少し苦笑気味に笑う。
 だがその顔は、何か懐かしいものを見た風な柔らかさに満ちていた。

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