ブレワイ&厄黙二次小説
【そよ風/盾サーフィン】
「――風が微笑んでる。今日は絶好の盾サーフィン日和だ」
晴天のヘブラ山の山頂付近にて、白銀の斜面を勢いよく滑り出す。
愛用の風凪の盾が羽飾りを激しく揺らしながら、新雪の上に一筋の曲線を描いていく。
空を飛ぶ時とはまた違う加速感、雪を滑っていく盾のこすれる音、脚から伝わってくる振動…。
どれも心地よくて、自然と頬が緩む。
雪原をなめるように這う風も悪くない。
「♪ ♫ ♪」
楽しくて思わずハミングする。
本日の喉の調子は良好だ。
我ながら素晴らしい美声だと自賛した。
今日の目的地はクムの地だ。
帰りにあそこの秘湯に寄れば、それで僕の、僕の為の、僕による最高の休日が完成するのである。
ヘブラツンドラをあっという間に通り過ぎ、一つ目の急カーブも難なく突破した。
盾さばきも絶好調だ。
開けた場所まで滑り下りてきた時、バクダン矢と似た匂いが鼻腔をかすめる。
ここまで来れば目的の温泉はもう目と鼻の先。
すぐそこである。
――善は急げ。
盾の前方に体重をかけ、更に速度を上げていく。
最後のカーブもトップスピードを保ったまま進み、降り積もった雪を派手に巻き上げながらクムの地 へと滑り下りていった。
【禍つ風/厄災復活の日】
「――風が汚れてる。気持ちの悪い匂いがするよ」
吐き捨てるように呟いて、ハイラル城の方角を睨みつける。
遂に厄災が目覚め、おそろしい密度の邪気が空を満たしつつあった。
奴を速やかに討つ為、出来るだけ早くメドーのもとへ向かわなければならない。
――現在の時刻は大体日没一時間前だ。
僕の翼であれば確実に日の入り前には戻れるだろう。
(――オオワシの弓はどうしようか)
長距離を飛行するには重過ぎる為、あの弓は飛行訓練場に置いてきたのだが…一旦取りに戻るべきか。
メドーがリトの村の上空を飛んでいるとはいえ、一度地上まで降りると到着までどうしても時間がかかる。
――今は一刻を争う。
そもそも僕らはあいつの援護でしかない。直接戦うわけでもないのに武器が要るだろうか?
「わざわざ戻る必要はない…か」
メドーの強烈な一撃を厄災ガノンに食らわせて、それからどうするか考えよう。
そうと決まればうかうかしていられない。
いつもより強いつむじ風を翼に纏わせ、不穏な色を帯びた空へと飛び立った。
◇ ◇ ◇
――今でも、思うことがある。
もしあの時、多少遠回りしてでもメドーに向かう前にオオワシの弓を飛行訓練場まで取りに行っていたら、果たしてどうなっていたんだろうかと……。
【凪/■■■■■■】
――風が死んだ。
戦いに敗れ、魂だけが神獣内に取り残されて……風の匂いも感触も何もかも分からなくなった。
――すまない……メドー……
――すまない…………みんな……
僕にはもう、ただひたすらあいつの目覚めを待つことしか許されていないようだ。
【無風のち黒風/メドーの暴走】
――あいつはまだ……目覚めない。
気が遠くなる程長い間、真っ暗闇の中を漂っている気がする。
一体どれだけの時が経ったのだろう。
メドーの中枢内部に意識を伸ばして必要な情報を探す。
魂だけになって覚えたやり方だ。
厄災に侵されてもなお、神獣の中枢は正確に制動し、時を刻んでいる。
むしろこれだけ頑強だったからこそ厄災に目をつけられたのかもしれない。
ガノンもあんなナリで意外と頭が良い……。
そこは褒めてあげようじゃないかと皮肉をこぼしながら、探していた情報をようやく見つけ出す。
古代の永久機関が示した日付けは、僕が斃れた年からおおよそ百年経っていた。
(―――百、年……)
これまで敢えて調べようとしなかった具体的な数字に、魂が急激に渇いていく心地がした。
きっともう、誰もいない。
自分を覚えてくれているリト族なんて、誰も……。
(――――)
今までずっと考えまいとしていた心の痛みが堰を切って溢れ出す。
――風がほしい。
――風を感じたい。
――風と歌いたい。
『 』
声にならない豪風が喉を通り過ぎていった。
渇望は次第に虚しさや怒りに変わっていく。
こんなに待ったのに、耐えてきたのに……。
僕は相変わらず時間さえ淀んだ闇の中で、風の温もりすら感じることは許されない。
何も無い 全て無い 風も無い 空も無い…
どうして どうして どうして どうして……
悔しい 苦しい 悔しい 悔しい 苦しい……!
百年前の無念が今……雷雨となり矢の嵐となり、厄災の分身によって封じ込められた魂を容赦なく斬り刻む。
吹き上がる戦士の心の悲鳴は姫巫女の力によって異空に封じられ眠っていた彼の神獣と、力を抑え込まれた化け物を叩き起こすに充分だった。
◇ ◇ ◇
突如悲鳴のようないななきがリトの巨塔上空に響き渡る。
赤く……怒りに染まった神鳥が百年の時を越えて再びヘブラの空に現れた。
リトの守り神だった筈のソレは、翼を持つ者共を容赦なく撃ち落としながら蒼穹を翔ける。
ただただ繰り手の渇きと悔恨を癒やさんが為に。
――ハイリアの英傑が、回生の祠で目覚める数週間前の出来事であった。
「――風が微笑んでる。今日は絶好の盾サーフィン日和だ」
晴天のヘブラ山の山頂付近にて、白銀の斜面を勢いよく滑り出す。
愛用の風凪の盾が羽飾りを激しく揺らしながら、新雪の上に一筋の曲線を描いていく。
空を飛ぶ時とはまた違う加速感、雪を滑っていく盾のこすれる音、脚から伝わってくる振動…。
どれも心地よくて、自然と頬が緩む。
雪原をなめるように這う風も悪くない。
「♪ ♫ ♪」
楽しくて思わずハミングする。
本日の喉の調子は良好だ。
我ながら素晴らしい美声だと自賛した。
今日の目的地はクムの地だ。
帰りにあそこの秘湯に寄れば、それで僕の、僕の為の、僕による最高の休日が完成するのである。
ヘブラツンドラをあっという間に通り過ぎ、一つ目の急カーブも難なく突破した。
盾さばきも絶好調だ。
開けた場所まで滑り下りてきた時、バクダン矢と似た匂いが鼻腔をかすめる。
ここまで来れば目的の温泉はもう目と鼻の先。
すぐそこである。
――善は急げ。
盾の前方に体重をかけ、更に速度を上げていく。
最後のカーブもトップスピードを保ったまま進み、降り積もった雪を派手に巻き上げながら
【禍つ風/厄災復活の日】
「――風が汚れてる。気持ちの悪い匂いがするよ」
吐き捨てるように呟いて、ハイラル城の方角を睨みつける。
遂に厄災が目覚め、おそろしい密度の邪気が空を満たしつつあった。
奴を速やかに討つ為、出来るだけ早くメドーのもとへ向かわなければならない。
――現在の時刻は大体日没一時間前だ。
僕の翼であれば確実に日の入り前には戻れるだろう。
(――オオワシの弓はどうしようか)
長距離を飛行するには重過ぎる為、あの弓は飛行訓練場に置いてきたのだが…一旦取りに戻るべきか。
メドーがリトの村の上空を飛んでいるとはいえ、一度地上まで降りると到着までどうしても時間がかかる。
――今は一刻を争う。
そもそも僕らはあいつの援護でしかない。直接戦うわけでもないのに武器が要るだろうか?
「わざわざ戻る必要はない…か」
メドーの強烈な一撃を厄災ガノンに食らわせて、それからどうするか考えよう。
そうと決まればうかうかしていられない。
いつもより強いつむじ風を翼に纏わせ、不穏な色を帯びた空へと飛び立った。
◇ ◇ ◇
――今でも、思うことがある。
もしあの時、多少遠回りしてでもメドーに向かう前にオオワシの弓を飛行訓練場まで取りに行っていたら、果たしてどうなっていたんだろうかと……。
【凪/■■■■■■】
――風が死んだ。
戦いに敗れ、魂だけが神獣内に取り残されて……風の匂いも感触も何もかも分からなくなった。
――すまない……メドー……
――すまない…………みんな……
僕にはもう、ただひたすらあいつの目覚めを待つことしか許されていないようだ。
【無風のち黒風/メドーの暴走】
――あいつはまだ……目覚めない。
気が遠くなる程長い間、真っ暗闇の中を漂っている気がする。
一体どれだけの時が経ったのだろう。
メドーの中枢内部に意識を伸ばして必要な情報を探す。
魂だけになって覚えたやり方だ。
厄災に侵されてもなお、神獣の中枢は正確に制動し、時を刻んでいる。
むしろこれだけ頑強だったからこそ厄災に目をつけられたのかもしれない。
ガノンもあんなナリで意外と頭が良い……。
そこは褒めてあげようじゃないかと皮肉をこぼしながら、探していた情報をようやく見つけ出す。
古代の永久機関が示した日付けは、僕が斃れた年からおおよそ百年経っていた。
(―――百、年……)
これまで敢えて調べようとしなかった具体的な数字に、魂が急激に渇いていく心地がした。
きっともう、誰もいない。
自分を覚えてくれているリト族なんて、誰も……。
(――――)
今までずっと考えまいとしていた心の痛みが堰を切って溢れ出す。
――風がほしい。
――風を感じたい。
――風と歌いたい。
『 』
声にならない豪風が喉を通り過ぎていった。
渇望は次第に虚しさや怒りに変わっていく。
こんなに待ったのに、耐えてきたのに……。
僕は相変わらず時間さえ淀んだ闇の中で、風の温もりすら感じることは許されない。
何も無い 全て無い 風も無い 空も無い…
どうして どうして どうして どうして……
悔しい 苦しい 悔しい 悔しい 苦しい……!
百年前の無念が今……雷雨となり矢の嵐となり、厄災の分身によって封じ込められた魂を容赦なく斬り刻む。
吹き上がる戦士の心の悲鳴は姫巫女の力によって異空に封じられ眠っていた彼の神獣と、力を抑え込まれた化け物を叩き起こすに充分だった。
◇ ◇ ◇
突如悲鳴のようないななきがリトの巨塔上空に響き渡る。
赤く……怒りに染まった神鳥が百年の時を越えて再びヘブラの空に現れた。
リトの守り神だった筈のソレは、翼を持つ者共を容赦なく撃ち落としながら蒼穹を翔ける。
ただただ繰り手の渇きと悔恨を癒やさんが為に。
――ハイリアの英傑が、回生の祠で目覚める数週間前の出来事であった。