リトの英傑短編まとめ
【ゲルドと苺】
―――ハイラル城、英傑の間。
「――ウルボザ、これは一体何の真似だい?」
英傑の間の長椅子で仮眠を取っていた筈の僕の頭は、いつの間にかゲルドの族長の膝の上に置かれていた。
「何って……ライネルを二匹も討伐してきたリトの英傑サマを労ってるんだよ」
「……冗談にしちゃキツ過ぎじゃない? 起きた瞬間、ローストチキンにされるんじゃないかとすごく肝が冷えたよ」
「はっ、起き抜けにしちゃ頭が回るじゃないか」
「フン、あんただって僕に気取らせずにこんなコトしてよく言う」
さっさと女傑の膝から退こうしたが、胸元をトンと押し戻されて引き止められた。
「……ちょっと」
「まだ十分仮眠取れてないだろ? このまま寝ておきな」
「……」
「この部屋は会合がある日はそれが終わるまで御ひぃ様と私らしか入れないよう取り決めがなされてる」
誰かに見られて変な噂になることはないから安心しろとでも言うのだろうか。
「……僕は自分より背が高いのは守備範囲外なんだけど」
「私にも選ぶ権利ってもんがあるんだが?」
「……」
冗談半分で投げた言葉を雷のような速さで返される。こっちも本気で言った訳ではないが……こうもバッサリ即答されるとなんだか不愉快だ。
「ふふっ、そんな傷付いた顔しなさんな」
「こ、こんなコトで一々傷付くかっ。ったく、一体どんな風の吹き回しだ」
「――左肩……。いつの傷か知らないけど、出血してたから簡単に止血しといたよ」
「……っ?!」
慌てて左肩に触れるといつも身に付けている肩当ては無く、代わりに包帯の感触があった。
知らぬ間に介抱されていたらしい。
「気づいてなかったみたいだね」
おそらく今朝ライネル達を叩きのめした時にもらってしまったものだろう。
確かに今日のライネルはいつもよりしぶとくて少しだけ倒すのに手間取ってしまってはいたのだが……。今の今まで気付かなかった。
「アンタを膝に乗せてるのはここの椅子を血で汚されると英傑の長である御ひぃ様が困るからさ」
それ以上の意味はないと……ようやっと本当の話を聞かされた。初めからそう言ってくれればよかったのに、やはりこの女傑は僕より遥かに意地が悪い。
(でもそれより……)
リトの戦士として、己が負った怪我を他人に知られるのは本来とてつもなく恥ずべき事由だ。
あまつさえ自分の寝てる間に傷の手当を受けるだなんて。羞恥と己の不注意に自然、眉間に深く皺が寄っていく。
「ほらまたそこで嫌そうな顔をする」
「う、うるさいよ」
「他人に甘える事を覚えるのも強くなるには必要だと私は思うけどね」
「……一応、礼だけは言っておく」
「相変わらず素直じゃないね、アンタは」
「ほっといてくれ」
「はいはい……」
◇ ◇
しばらく不本意ながらウルボザの膝の上で大人しくしていると、ふいに彼女の長い指が僕の額に触れた。
「ちょ、ちょっと…っ…!」
膝はまだ良いがそれ以上触れていいとは言ってない……!
すぐに叩き落とそうと腕を反射的に振り上げる。
――が、ウルボザのらしくない寂しげな顔に気まずくなって振り上げた腕を静かに降ろすしかなかった。
「アンタの羽毛……エリザベスちゃん並に心地良いね」
「えりざべす……?」
『エリザベス』と言うのはゲルドの王宮で飼われているウルボザの青い愛砂ザラシのことらしい。
「まだあの子が小さかった時はこんな風に膝に乗せて頭を撫でてあげたものさ」
「僕はそのエリザベスとかいう砂ザラシの代わりかい? 仮にも同じ英傑に対して酷い言い様じゃないか」
「エリザベス"ちゃん"だ」
「……」
――"ちゃん"までが名前らしい。
やはりというか、他種族の文化は本当によく分からない。
「好物もあんたと同じ苺でさ。好みもうるさくて
ヘブラで採れたものしか食べないんだよ」
「へぇ、スナザラシのクセに違いが分かるなんてね」
「…………」
「あぁいやその、言い方悪かった」
「分かればよろしい」
何か剣呑な空気を感じて即座に謝る。
この至近距離で雷を浴びせられれば流石の僕も避けられない。
今は余計なコト言わないようにしておかないと……。
「でも最近、魔物が増えだしてヘブラの苺も中々手に入りにくくてねぇ。世話係が餌を食べないって困ってるんだよ」
そこまで言って、ウルボザはふと何かに気づいたように期待の込めた目で僕をジッと見てくる。
――嫌な予感しかしない。
「……まさかと思うけど、この僕にそのエリザベスちゃんとやらが食べる苺を大量に集めさせる気?」
「なんだ、話が早くて助かるよ」
仮にもリト族一の戦士になんてコト頼む気だこの族長は……!
「拒否だ、拒否する……っ…!」
「良いのかいリーバル、今の状況でそんなコト言って」
「まさか、今のコレを皆にバラすとか言う気じゃないだろうね」
「さてねぇ……あんたの心がけ次第さ」
「…………」
「…………」
しばし二人の間で睨み合いのようなものが続く。
だが今のコレが他の連中にバラされるのだけは困る。
仕方なく、本当に仕方なく白旗をあげることにした。
「…………分かったよ、今度の会合の時にでも持ってきてやる」
「ふふっ、交渉成立だ」
「何調子良いコト言ってんの。これは交渉じゃなくて脅迫だろ」
「ははっ、違いない」
話が一応まとまった所でウルボザの膝から起き上がって立ち上がる。
もうすぐ他の連中もやってくる頃合だ。
それがあちらも分かってるからか、今度は引き止められなった。
「その……エリザベスちゃんって、そんなに今エサ食べてないの?」
「ん? あぁ、そうなんだ」
今のところは大丈夫だが長く続くとマズイようだ。
「あーその、一つ教えておくけど」
「なんだい唐突に」
「あの苺……特にヘブラでよく生えてる品種、割と暑さにも強いらしくてね」
涼しい場所で土を整えればゲルドの街でも栽培できるかもしれないと説明してやる。
「あの姫にでも相談してみれば?」
らしくもないお節介を焼いてしまう。
「……ぷっ」
しばらく面食らった顔をしていたゲルドの英傑が僕を見ながら吹き出した。
「な、なんだよ! 人が折角アドバイスしてやったのに!」
「いや、すまないね、ふふっ……。有益な話ありがとうな」
「あ、あぁ」
御ひぃ様も喜んでくれそうだと、ウルボザは顔を綻ばせる。
「乗りかかった船だし、もし何か僕にやれるコトがあれば、協力するってあの姫にも伝えておいてくれ」
「ああ、御ひぃ様も喜ぶ筈さ」
そこに姫と他の英傑達が部屋に入ってきて、僕とウルボザの話はお開きになった。
◇ ◇ ◇ ◇
―――それから百年と一年過ぎたゲルドの街。
「ここに苺が育ったのにはちゃんと理由があったんですね」
淑女の服に身を包んだ勇者は、以前ゲルドの子どもと一緒に植えた苺の木を感心するように見つめていた。
「えぇ、およそ百年前ウルボザから相談を受けまして……」
かつて、お付の騎士を撒いてゲルドの街に赴いた時、この地でも苺が育つようにここの一角を使って土壌改良を行ったのだと亡国の姫は懐かしそうに語る。
「ここの地下深くにリト族から提供されたへブラの永久凍土を埋めたり、苺の栽培に適した肥料をここの土に混ぜ込んだり……大変でしたけど楽しい一時でした」
「俺を撒いた裏でそんなことしていたなんて……」
「それは……ごめんなさい。でもリーバルにも貴方には絶対内緒にしてほしいとお願いされたもので……」
「えっ、じゃあ、あの時リーバルもゲルドに……?」
「そうなんです。私が貴方を撒けたのも彼が逐一教えてくれていたからなんですよ」
「で、でもそれって、まさか、あいつも……」
勇者は自分のように女装したリトの英傑の姿を想像し、思わず吹き出しそうになる。
「……リーバルの名誉の為に言っておきますが、彼は女装はしていませんよ?」
空から密かに貴方の所在を見張っていたんですと姫が言えば、リンクは心底がっかりしたように嘆息する。
「なんだ……残念」
「もう、そんなこと言っていたらまたリーバルに夢枕で怒られますよ?」
酷く残念がる彼をゼルダは苦笑しながらたしなめる。
「街での用事を済ませてナボリスに向かう際、気分が悪くなるもの見たからって帰ってしまったんですよね」
もしかして貴方の女装姿を見てしまったのかもしれませんね、とゼルダはその当時を懐かしむ。
「げ、見られてたのか」
「それ、一般男性から性別を偽って貴重なブーツを巻き上げた貴方が言って良いことじゃありませんよね?」
「……うぐっ。で、でもあれは勝手にあっちが勘違いしただけで」
「サンドブーツはまだ理解出来ますが、もう一つは言い訳出来ますか?」
「……はい、騙した俺が悪かったです」
がっくりと肩を落とすリンクを見ながら、ゼルダは一つ息を吐き出した。
そうして何かを探すように周囲を見回した。
「まだその方がゲルドにいるならと思って二種のブーツを揃えて持ってきましたけど……いませんでしたね」
出来ればゲルドの八人目の英雄の話を詳しく聞きたかったのに……と、ゼルダが残念そうに零すとリンクは途端に渋い顔をしていた。
「……」
「えっと、リンク……?」
「それはダメです。他の人ならまだいいけど、そいつは絶対ダメです」
「なっ!? どうしてです?!」
「どうしても何もないです! ダメなものはダメなんです!」
「リンク、待ってください、リンク!」
リンクが怒ったようにその場から去るのをゼルダは慌てて追いかける。
街の片隅に実った苺はそんな彼らを見守るように揺れていた。
―――ハイラル城、英傑の間。
「――ウルボザ、これは一体何の真似だい?」
英傑の間の長椅子で仮眠を取っていた筈の僕の頭は、いつの間にかゲルドの族長の膝の上に置かれていた。
「何って……ライネルを二匹も討伐してきたリトの英傑サマを労ってるんだよ」
「……冗談にしちゃキツ過ぎじゃない? 起きた瞬間、ローストチキンにされるんじゃないかとすごく肝が冷えたよ」
「はっ、起き抜けにしちゃ頭が回るじゃないか」
「フン、あんただって僕に気取らせずにこんなコトしてよく言う」
さっさと女傑の膝から退こうしたが、胸元をトンと押し戻されて引き止められた。
「……ちょっと」
「まだ十分仮眠取れてないだろ? このまま寝ておきな」
「……」
「この部屋は会合がある日はそれが終わるまで御ひぃ様と私らしか入れないよう取り決めがなされてる」
誰かに見られて変な噂になることはないから安心しろとでも言うのだろうか。
「……僕は自分より背が高いのは守備範囲外なんだけど」
「私にも選ぶ権利ってもんがあるんだが?」
「……」
冗談半分で投げた言葉を雷のような速さで返される。こっちも本気で言った訳ではないが……こうもバッサリ即答されるとなんだか不愉快だ。
「ふふっ、そんな傷付いた顔しなさんな」
「こ、こんなコトで一々傷付くかっ。ったく、一体どんな風の吹き回しだ」
「――左肩……。いつの傷か知らないけど、出血してたから簡単に止血しといたよ」
「……っ?!」
慌てて左肩に触れるといつも身に付けている肩当ては無く、代わりに包帯の感触があった。
知らぬ間に介抱されていたらしい。
「気づいてなかったみたいだね」
おそらく今朝ライネル達を叩きのめした時にもらってしまったものだろう。
確かに今日のライネルはいつもよりしぶとくて少しだけ倒すのに手間取ってしまってはいたのだが……。今の今まで気付かなかった。
「アンタを膝に乗せてるのはここの椅子を血で汚されると英傑の長である御ひぃ様が困るからさ」
それ以上の意味はないと……ようやっと本当の話を聞かされた。初めからそう言ってくれればよかったのに、やはりこの女傑は僕より遥かに意地が悪い。
(でもそれより……)
リトの戦士として、己が負った怪我を他人に知られるのは本来とてつもなく恥ずべき事由だ。
あまつさえ自分の寝てる間に傷の手当を受けるだなんて。羞恥と己の不注意に自然、眉間に深く皺が寄っていく。
「ほらまたそこで嫌そうな顔をする」
「う、うるさいよ」
「他人に甘える事を覚えるのも強くなるには必要だと私は思うけどね」
「……一応、礼だけは言っておく」
「相変わらず素直じゃないね、アンタは」
「ほっといてくれ」
「はいはい……」
◇ ◇
しばらく不本意ながらウルボザの膝の上で大人しくしていると、ふいに彼女の長い指が僕の額に触れた。
「ちょ、ちょっと…っ…!」
膝はまだ良いがそれ以上触れていいとは言ってない……!
すぐに叩き落とそうと腕を反射的に振り上げる。
――が、ウルボザのらしくない寂しげな顔に気まずくなって振り上げた腕を静かに降ろすしかなかった。
「アンタの羽毛……エリザベスちゃん並に心地良いね」
「えりざべす……?」
『エリザベス』と言うのはゲルドの王宮で飼われているウルボザの青い愛砂ザラシのことらしい。
「まだあの子が小さかった時はこんな風に膝に乗せて頭を撫でてあげたものさ」
「僕はそのエリザベスとかいう砂ザラシの代わりかい? 仮にも同じ英傑に対して酷い言い様じゃないか」
「エリザベス"ちゃん"だ」
「……」
――"ちゃん"までが名前らしい。
やはりというか、他種族の文化は本当によく分からない。
「好物もあんたと同じ苺でさ。好みもうるさくて
ヘブラで採れたものしか食べないんだよ」
「へぇ、スナザラシのクセに違いが分かるなんてね」
「…………」
「あぁいやその、言い方悪かった」
「分かればよろしい」
何か剣呑な空気を感じて即座に謝る。
この至近距離で雷を浴びせられれば流石の僕も避けられない。
今は余計なコト言わないようにしておかないと……。
「でも最近、魔物が増えだしてヘブラの苺も中々手に入りにくくてねぇ。世話係が餌を食べないって困ってるんだよ」
そこまで言って、ウルボザはふと何かに気づいたように期待の込めた目で僕をジッと見てくる。
――嫌な予感しかしない。
「……まさかと思うけど、この僕にそのエリザベスちゃんとやらが食べる苺を大量に集めさせる気?」
「なんだ、話が早くて助かるよ」
仮にもリト族一の戦士になんてコト頼む気だこの族長は……!
「拒否だ、拒否する……っ…!」
「良いのかいリーバル、今の状況でそんなコト言って」
「まさか、今のコレを皆にバラすとか言う気じゃないだろうね」
「さてねぇ……あんたの心がけ次第さ」
「…………」
「…………」
しばし二人の間で睨み合いのようなものが続く。
だが今のコレが他の連中にバラされるのだけは困る。
仕方なく、本当に仕方なく白旗をあげることにした。
「…………分かったよ、今度の会合の時にでも持ってきてやる」
「ふふっ、交渉成立だ」
「何調子良いコト言ってんの。これは交渉じゃなくて脅迫だろ」
「ははっ、違いない」
話が一応まとまった所でウルボザの膝から起き上がって立ち上がる。
もうすぐ他の連中もやってくる頃合だ。
それがあちらも分かってるからか、今度は引き止められなった。
「その……エリザベスちゃんって、そんなに今エサ食べてないの?」
「ん? あぁ、そうなんだ」
今のところは大丈夫だが長く続くとマズイようだ。
「あーその、一つ教えておくけど」
「なんだい唐突に」
「あの苺……特にヘブラでよく生えてる品種、割と暑さにも強いらしくてね」
涼しい場所で土を整えればゲルドの街でも栽培できるかもしれないと説明してやる。
「あの姫にでも相談してみれば?」
らしくもないお節介を焼いてしまう。
「……ぷっ」
しばらく面食らった顔をしていたゲルドの英傑が僕を見ながら吹き出した。
「な、なんだよ! 人が折角アドバイスしてやったのに!」
「いや、すまないね、ふふっ……。有益な話ありがとうな」
「あ、あぁ」
御ひぃ様も喜んでくれそうだと、ウルボザは顔を綻ばせる。
「乗りかかった船だし、もし何か僕にやれるコトがあれば、協力するってあの姫にも伝えておいてくれ」
「ああ、御ひぃ様も喜ぶ筈さ」
そこに姫と他の英傑達が部屋に入ってきて、僕とウルボザの話はお開きになった。
◇ ◇ ◇ ◇
―――それから百年と一年過ぎたゲルドの街。
「ここに苺が育ったのにはちゃんと理由があったんですね」
淑女の服に身を包んだ勇者は、以前ゲルドの子どもと一緒に植えた苺の木を感心するように見つめていた。
「えぇ、およそ百年前ウルボザから相談を受けまして……」
かつて、お付の騎士を撒いてゲルドの街に赴いた時、この地でも苺が育つようにここの一角を使って土壌改良を行ったのだと亡国の姫は懐かしそうに語る。
「ここの地下深くにリト族から提供されたへブラの永久凍土を埋めたり、苺の栽培に適した肥料をここの土に混ぜ込んだり……大変でしたけど楽しい一時でした」
「俺を撒いた裏でそんなことしていたなんて……」
「それは……ごめんなさい。でもリーバルにも貴方には絶対内緒にしてほしいとお願いされたもので……」
「えっ、じゃあ、あの時リーバルもゲルドに……?」
「そうなんです。私が貴方を撒けたのも彼が逐一教えてくれていたからなんですよ」
「で、でもそれって、まさか、あいつも……」
勇者は自分のように女装したリトの英傑の姿を想像し、思わず吹き出しそうになる。
「……リーバルの名誉の為に言っておきますが、彼は女装はしていませんよ?」
空から密かに貴方の所在を見張っていたんですと姫が言えば、リンクは心底がっかりしたように嘆息する。
「なんだ……残念」
「もう、そんなこと言っていたらまたリーバルに夢枕で怒られますよ?」
酷く残念がる彼をゼルダは苦笑しながらたしなめる。
「街での用事を済ませてナボリスに向かう際、気分が悪くなるもの見たからって帰ってしまったんですよね」
もしかして貴方の女装姿を見てしまったのかもしれませんね、とゼルダはその当時を懐かしむ。
「げ、見られてたのか」
「それ、一般男性から性別を偽って貴重なブーツを巻き上げた貴方が言って良いことじゃありませんよね?」
「……うぐっ。で、でもあれは勝手にあっちが勘違いしただけで」
「サンドブーツはまだ理解出来ますが、もう一つは言い訳出来ますか?」
「……はい、騙した俺が悪かったです」
がっくりと肩を落とすリンクを見ながら、ゼルダは一つ息を吐き出した。
そうして何かを探すように周囲を見回した。
「まだその方がゲルドにいるならと思って二種のブーツを揃えて持ってきましたけど……いませんでしたね」
出来ればゲルドの八人目の英雄の話を詳しく聞きたかったのに……と、ゼルダが残念そうに零すとリンクは途端に渋い顔をしていた。
「……」
「えっと、リンク……?」
「それはダメです。他の人ならまだいいけど、そいつは絶対ダメです」
「なっ!? どうしてです?!」
「どうしても何もないです! ダメなものはダメなんです!」
「リンク、待ってください、リンク!」
リンクが怒ったようにその場から去るのをゼルダは慌てて追いかける。
街の片隅に実った苺はそんな彼らを見守るように揺れていた。