リトの英傑短編まとめ
【パートナーとジェラシー】
―――タバンタ辺境、神獣メドー背面。
「ミ、ファ…ミ、ファ……」
メドーの頭の上、お城で聞かされたゾーラの英傑の為に作られた詩を口ずさむ。
「あのシーカー族の詩人クン……姫が言うだけあって中々センスあるじゃないか」
清らかな水のせせらぎを思わせる優美な旋律に、"彼女"もどこか喜んでいるようだった。
「君もこの曲が気に入ったのかい? ……メドー」
僕の問いに、風の神獣ははにかむように柔らかく囀る。
「――僕の曲はないのかって? 英傑リーバルを讃える詩はとても難産らしくて、まだ出来上がってないんだってさ」
楽しみにしてたのに酷いよねと、同意を求めればキュルと苦笑するようにメドーは鳴く。
《――……、……?》
「――え? ゾーラの英傑はこの曲を聴いてどうだったって?」
《――》
「とても気に入ったみたいで、目を潤ませて詩人クンにお礼言ってたよ。あのお姫様、どうも涙脆いみたい」
《――、――》
「…………」
僕の答えに満足そうに囀るメドーに、なんとなく最近気になっていたことをぶつけてみた。
「ねぇメドー、最近僕よりあのゾーラのお姫様のことばかり気にしてない?」
《…………。―――? ―――》
数秒の沈黙の後、"彼女"はそんなことないと若干焦ったように言い募ってくる。
どう考えても嘘としか思えない。
メドーは嘘をつくのが下手だ。
こういう所もどこか、ミファーに似てるような気もしなくはない。
(そういえば……)
一度だけ、"この世界"のリト族はゾーラ族とあまり繋がりがないようだと、寂しそうに呟いたことがあったっけ。
お伽噺地味た話を信じるタチではないが、もしかして、この今のハイラルと"彼女"が言うハイラルでは全く違う風景が広がっているのかもしれない。
メドーがゾーラの英傑に殊更興味を持つのも、その辺りに秘密がありそうだ。けどそれを馬鹿正直に聞く程、僕も野暮ではなかったが。
「君が今までどんな風に吹かれて、どんな色の空を翔けてきたのかなんて、野次馬根性はたらかせる気はサラサラないけど……」
《…………?》
コホンと咳払いをして、前置きする。
メドーも僕の真面目な声音にいずまいを正すように短く返事をする。
「君が誰に興味を持とうが干渉はしないし、何か気になることがあるなら分かる範囲で答えてあげる。まぁ、僕にとっては当然の対応だ。ここまでは分かるかな」
《…………、……?》
僕が言わんとしていることが分かりかねているのか、メドーは首を傾げるように囀る。
いつもはとても物分かりの良い"彼女"だが、たまにひどく鈍感だ。
だからこそ大事なことは改めてしっかり言っておく必要がある。
「だけどさ……君の繰り手 はミファーじゃなくてこの僕だって事、忘れてもらっちゃ困るよ?」
《――――――》
先程よりも長い沈黙が二人の間に流れる。
《……っ……、…………! ……………っ!》
しばらくして、メドーが突然コロコロと唄うように囀り出す。これは僕らで言う所の笑い声に極めて近い"彼女"独特の囀りの一つなのだが……。
先程の会話、笑うべきところなんて特段あっただろうか?
「ちょっとメドー? 僕は今とても真面目な話をしてるんだけど」
余程ツボにハマってしまったのか、メドーの笑いは中々止まず、ヘブラの空に可愛らしい囀りを響かせる。
そうしてしばらくしてようやく落ち着いてきたかと思ったら、今度は『リーバルさんは意地っ張りなだけじゃなくてヤキモチ焼きなんですね』という主旨の言葉を返された。
――それも、酷く微笑ましそうに。
「む……」
どうも、メドーがミファーのことばかり気にするから僕がヤキモチを妬いているのだと思われていまったらしい。
――誤解も甚だしくて呆れる。
そういえばさん付けは止めてくれって前からずっと言ってるのに相変わらずちっとも直っちゃいないし。
あと誰が意地っ張りだ、誰が。ひどく腹が立つ。
「ほら、いつまで笑ってんのさ。リトの塔への着地訓練、もう一度やるから早く準備してくれよ」
未だに笑っているメドーを窘め、僕はメイン制御端末に触れた。
―――タバンタ辺境、神獣メドー背面。
「ミ、ファ…ミ、ファ……」
メドーの頭の上、お城で聞かされたゾーラの英傑の為に作られた詩を口ずさむ。
「あのシーカー族の詩人クン……姫が言うだけあって中々センスあるじゃないか」
清らかな水のせせらぎを思わせる優美な旋律に、"彼女"もどこか喜んでいるようだった。
「君もこの曲が気に入ったのかい? ……メドー」
僕の問いに、風の神獣ははにかむように柔らかく囀る。
「――僕の曲はないのかって? 英傑リーバルを讃える詩はとても難産らしくて、まだ出来上がってないんだってさ」
楽しみにしてたのに酷いよねと、同意を求めればキュルと苦笑するようにメドーは鳴く。
《――……、……?》
「――え? ゾーラの英傑はこの曲を聴いてどうだったって?」
《――》
「とても気に入ったみたいで、目を潤ませて詩人クンにお礼言ってたよ。あのお姫様、どうも涙脆いみたい」
《――、――》
「…………」
僕の答えに満足そうに囀るメドーに、なんとなく最近気になっていたことをぶつけてみた。
「ねぇメドー、最近僕よりあのゾーラのお姫様のことばかり気にしてない?」
《…………。―――? ―――》
数秒の沈黙の後、"彼女"はそんなことないと若干焦ったように言い募ってくる。
どう考えても嘘としか思えない。
メドーは嘘をつくのが下手だ。
こういう所もどこか、ミファーに似てるような気もしなくはない。
(そういえば……)
一度だけ、"この世界"のリト族はゾーラ族とあまり繋がりがないようだと、寂しそうに呟いたことがあったっけ。
お伽噺地味た話を信じるタチではないが、もしかして、この今のハイラルと"彼女"が言うハイラルでは全く違う風景が広がっているのかもしれない。
メドーがゾーラの英傑に殊更興味を持つのも、その辺りに秘密がありそうだ。けどそれを馬鹿正直に聞く程、僕も野暮ではなかったが。
「君が今までどんな風に吹かれて、どんな色の空を翔けてきたのかなんて、野次馬根性はたらかせる気はサラサラないけど……」
《…………?》
コホンと咳払いをして、前置きする。
メドーも僕の真面目な声音にいずまいを正すように短く返事をする。
「君が誰に興味を持とうが干渉はしないし、何か気になることがあるなら分かる範囲で答えてあげる。まぁ、僕にとっては当然の対応だ。ここまでは分かるかな」
《…………、……?》
僕が言わんとしていることが分かりかねているのか、メドーは首を傾げるように囀る。
いつもはとても物分かりの良い"彼女"だが、たまにひどく鈍感だ。
だからこそ大事なことは改めてしっかり言っておく必要がある。
「だけどさ……君の
《――――――》
先程よりも長い沈黙が二人の間に流れる。
《……っ……、…………! ……………っ!》
しばらくして、メドーが突然コロコロと唄うように囀り出す。これは僕らで言う所の笑い声に極めて近い"彼女"独特の囀りの一つなのだが……。
先程の会話、笑うべきところなんて特段あっただろうか?
「ちょっとメドー? 僕は今とても真面目な話をしてるんだけど」
余程ツボにハマってしまったのか、メドーの笑いは中々止まず、ヘブラの空に可愛らしい囀りを響かせる。
そうしてしばらくしてようやく落ち着いてきたかと思ったら、今度は『リーバルさんは意地っ張りなだけじゃなくてヤキモチ焼きなんですね』という主旨の言葉を返された。
――それも、酷く微笑ましそうに。
「む……」
どうも、メドーがミファーのことばかり気にするから僕がヤキモチを妬いているのだと思われていまったらしい。
――誤解も甚だしくて呆れる。
そういえばさん付けは止めてくれって前からずっと言ってるのに相変わらずちっとも直っちゃいないし。
あと誰が意地っ張りだ、誰が。ひどく腹が立つ。
「ほら、いつまで笑ってんのさ。リトの塔への着地訓練、もう一度やるから早く準備してくれよ」
未だに笑っているメドーを窘め、僕はメイン制御端末に触れた。