探偵の衝動的月曜日
寝室での語らいは調査の合間に行われたのだが、探偵のほうは全く集中力を欠いていた。唯一得意とする睦言を囁きかけても上の空だ。ううむと唸ったきり自分の腕を枕に天井を見ていた。
「秘密の障壁が事件に風穴を開けているとは思わないかね。依頼人は嘘をついている」
私は反応の薄い股間から指を離して、憮然として答えた。「君の障壁に風穴を開けようと待ち構えてる依頼人もここにいるのだが」
「そっちの依頼には嘘がつけない。残念だが核心に迫るにはもう少し情報が必要だな。言葉ではなく直接的なほうの」
了解したと手の代わりに顔を伏せたが、ようやく伸びてきた片手が私の髪を撫でるばかりで、まだ遠くを見ていた。
「息子について聞いたときの、あの目が気になるな……彼女がどこを向いていたのか、覚えているかい。ワトスン」
もごもごと言えば痛いと髪を引っ張られる。尊大な態度にさすがの私も腹を立て、半分しか持ち上がらない下はそのままにして服のボタンを外し始めた。上着もベストもシャツも邪魔だ。
外気に晒される胸の突起を弾いたが、舐めようとしゃぶろうと一向に反応が返らない。焦れて横抱きに後ろから抱え、優しさなしに扱いたときだけ少し呻いたが、隆起は中途半端だった。私は自分のものを取り出した。
「メモは取ってある。だが後にしてくれ」
「急いてるわけではない。……っ」
ろくにほぐしてない中に少し出した精の力だけで無理やり押し込めば、苦しいのか痛いのかシーツの端を掴んだ。屹立もわずかに大きくなる。広い背中にしがみついて首筋を噛んだ。繋がりは浅かったが、骨盤付近をぐっと引き寄せて小刻みに動いた。
「こっちの探偵は急いてる」
「痛い、待て」
悶絶してベッドを叩く。痛くしているのだから当然だ。揺れながらピクピクと震える怒張を撫でると、締まったままの後控がわずかに弛む。悩ましい息を吐いたので痛みばかりではないらしい。内腿を強くさすりながら奥へ進んだ。
「名、探偵。もう少し、優しく……っ」
「優しくしてただろう。三十分だか一時間だか。協力しないからだ――よく堪えたと褒めてもらいたいね」
抽挿の間にも余裕をなくした呼吸を後ろから捕らえる。合わしづらいせいではずれた唇の隙間から、抗議でなく名前が漏れた。甘い響きだ。少し乱れただけの髪を片手で戻してやるついでに、額の汗も手のひらで拭う。
仰いでこちらを見た灰色の目が、情欲に潤んでいた。
下腹部を弄り続けていた手の動きを止め、ホームズの手を取る。おとなしく自分のものを一度は握ったが、逆に私の手を取るとその上から扱き始めた。後ろのすぼまりも律動の動きに合わせて上下する。
「ぁ……いい……」
素直な囁きに少し笑う。彼を取り戻した優越感に浸り、慣れ親しんで蕩ける外壁を雁で擦る。突き動かすうちに完全にほぐれ、次第にこちらが何もせずとも彼のほうから腰を使い始めた。
「……! ……っ」
ほら核心に近づいた、と崩れる背中を抱き上げて起こす。首の後ろに皺を寄せて頭を巡らせた。堪える表情が見たいがこの角度では難しい。頂点を目指して駆ける膝を振りながら奥だけ突けば、わりと呆気なく弾けた。
だらしなく弛緩している時間を逃さず、顔だけ見ようと抜かないように身体を割り込ませて長い上半身を支えた。朦朧として私の唇をねだってくる。珍しいこともあるものだ。逝った後の余韻など男同士のそれにはないため、私は高鳴る胸でそれに応えようと唇を寄せた。
頬に添えられていた手にぱしんと叩かれる。
まだ逝ってない私を引き抜き、ベッドの上で反転。恐ろしいほど猛った怒張の裏筋に足の裏を感じ、背筋をぞくっと悪寒が走った。
「踏み潰されたくなければ、手帳をとってきたほうが賢明だと思われるがね」
冷静な口調だった。ついさきほどまで男の身体に組しかれていた人間とも思えない。
「もちろん、ただとは言わない」ホームズの足の指が、鈴口を軽く弄って私は呻いた。「風穴を埋め終えたら、こちらの事件にもすぐ取りかかると約束しよう」
私がよたよたと裸のまま手帳を取って戻ると、彼は示した部分を見てすぐ服を着始めた。「犯人がわかった。ヤード宛てに電報だ。なに、五分で済むさ――」
「もういい。こっちは自供したがってる」
ベッドに寝転んで自分で慰めようとした手を、ホームズが掴んだ。
「吐き出させるのが僕の仕事だ」
結びかけていた長めのタイで、私の両手とベッドを縛る。焦ってはずそうとしたがびくともしなかった。「……ホームズ」
探偵帰宅後に起こった拳銃乱射事件について記すのは、私のプライドが許さないため想像にお任せしよう。
探偵の衝動的月曜日。
End.
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