このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ホームズ家の姉妹

 妹のひとりは黒髪だった。「お兄さま」

 妹のひとりは金髪だった。「兄貴」

 妹のひとりは茶髪だった。「お兄ちゃん」

 妹のひとりは赤毛だった!「兄さん」

 ひしっと四人に抱きつかれ、ホームズは一瞬でれでれと顔を歪めた。

 ワトソンはそれを見逃さなかった。「ホームズ君」

 親愛のキスが飛び交うなかで、すべての声はまったくどこにも届かなかった。

 揃いもそろって可愛い。若い。全員十代というところだろう。

 ワトソンは居住まいをただして再度いった。

「ホームズ君!」

「ああ、なに? ……そうだった。すまない。忘れるところだった。こちらが私の」

 妹たちはいっせいに整列した。

「可愛い妹たちだよ。それからこちらはワトソン博士とその火掻き棒」

 まあ、と目を光らせて、長女が火掻き棒を見た。

 へえ、と耳をほじりながら、次女が顔をそらした。

 やだ、と口をおさえ、三女が顔を赤らめた。

 四女は鼻で笑っただけだった。

「タイプ! もろタイプ! 赤毛タイプ! わかったなホームズ」

「わかったから首をしめるな。赤毛連盟でもつくってやるから」

 妹たちはそれぞれマーガレット、ジョセフィーン、エリザベス、エイミーと名乗った。

 ワトソンは首を捻った。

「それってひょっとしてオルコット女史の……」

「母親がファンでね。長女が生まれたときに即決したのだ。マーガレットはメグ、ジョセフィーンはジョー、エリザベスはベスと呼んでいるよ」

「アメリカン素晴らしい。私はワトソン医学博士。傷病年金あり。妻は他界したことになってるけど、実はイギリスの法律上離婚もできなくて別居中。お兄さんとは腹心の友。お互い困ったときは財布の紐でかたく結ばれている。よろしくエイミー!」

「触んないでよ。この薄汚いブタ」

 ワトソンの股間は時計台より高くつき上がった。「もっと言って」

「これはジョン・H・ワトソン博士といってだね、まあ名前も凡人だが中身もこれまた凡人という、特殊な意味でかなり非凡なひとなんだ」

「お兄さまの、彼氏。なのですか」

 清楚な黒髪は大歓迎、とワトソンは思った。

「そう。いやいや馬鹿をいってはいけないよ、メグ」ホームズは通常では考えられないほど忍耐強く妹を扱った。「おませさんだね」

「男色関係にあるならヤードに通報する」次女のジョーはくるりと振り返り、扉から出ていこうとした。

 しかし出しっぱなしのワトソンのお花畑を見て顔を真っ赤にし、いやっ、不潔っ! と両手で顔を隠した。気が合いそうだ。

「ホームズ。金髪もいいものだね。うん、私のオールド・ビッグベンがそう言ってる」

「股間の黒薔薇をむしりとって食わせてやるから、少し黙ってくれないかね。ワトソン」

 三女のベスが一番おとなしかった。おずおずと髪の毛をいじりながら、視線はワトソンに向けたまま兄の後ろに隠れてしまう。

「あの……」

「目の前の変態は気にしなくてよろしい。カボチャくらいに思っておきなさい」ホームズは淡々といった。

「ズッキーニ……」

「その表現はいただけない。お兄ちゃんのズッキーニならいつでも見せてやるし味見くらいならさせてやるから、下を見るな」

 可憐な栗毛は対象外、とワトソンは思った。しかし名前は悪くなかった。

「エリザベス」うっとりと口ひげの端をたるませる。「なんていい響きだ。それにエキゾチック。ホームズのハゲ茶瓶とは大違い」

「何か言ったか」

 どちらかといえばつるっぱげに近かった。誰のせいかは明白である。伝記より地球半周ぶん思考回路が遅れた相棒のせいだ。

「通報。やっぱり通報だわ!」

「ズッキーニを食べさせるのですって」

「可愛いベスの上のおクチに? それとも下の」

 キャーと黄色い悲鳴があがる。

 妹など現実に持つものではない。可愛らしいのは見た目と声と、永遠の謎に包まれたスカートの膨らみだけである。そしてどれも兄弟では手が届かない領域だ。

「お兄ちゃん?」

 小首を傾げる妹など幻想だ。わかっていても、ホームズはひしっと彼女を抱きしめた。これぞ我が理想の妹。
2/18ページ
スキ