ホームズ家の姉妹
レストレードとワトソンは別々の場所に拘留されることになった。かなりのスキモノだと判断されたらしい。
ワイルドもかくやという扱いだ。ワトソンの胸毛はたしかにワイルドだったが、その意味ではない。
「レストレード……かわいそうに。私が君の出んぼの具合も診てやるといったばかりに」
痔の治療に一番効果的なのが、問題の箇所を直接指でマッサージすることだというのはよく知られていた。痛みが強いときは触ってはいけないが、辛抱できそうなら中をいじるほうが血行がよくなる。
ただしこれを医者でないものがやるのはなかなかに勇気と危険をともなうため、ワトソンは親切心から提案したのだった。医師としての免許は剥奪されているが、指圧に関しては任せてくれと。
「まさかあんなに乱れるとはな……」ワトソンは唾を呑み込んだ。「実は、以前から私のことを……?」
きゃっと両手を口元にやる。ワトソンはどうしよう、と焦った。一度気になり出すとおさまらない。次に会ったら普通の顔ができるだろうか?
「アンアン言っちゃって。前なんて触ってはいないが、体格に似合わず立派な息子さんだった。うん。あれなら大丈夫。次のおめこちゃんもすぐ見つかる」
私と一緒で、とワトソンはエイミーの顔を思い出そうとしたが、難しかった。
「……あれ?」
山火事の衝撃がおさまらなかったのかもしれない。噴火だったか。
代わりに頭をよぎったのは――。
長女のメグは、ワトソンの部屋から出てこない末っ子のことで頭を悩ませていた。
「お兄さま。エイミーに何をおっしゃったのかしら」
まさかと思うが、出生の秘密とか――とそのことばかり心配になる。このタイミングでそれはないと思いたいが、兄のことだからわからない。
家族問題のほとんどはくだらないものだったが、今までに何度ご都合主義の解決をしてきたことか。女の考えていることは理解できないと突っぱねられたことも一度や二度ではない。
ホームズは今朝早くに家を出たきりだ。どこにいくのかさえ告げなかった。
「どうしましょう」扉をちらりと見て、メグは妹をそっとしておくことに決めた。「エイミー。下にいるわね」
返事はやはりなかった。
階段を数えながらおりると、不思議なことに気づいた。「あら、やだわ。十五段しかないじゃないの」
「そうなんですよ」
ハドソン夫人だった。ポットとカップののったお盆を持っている。
「外側とちがって、あちこちガタがきてるものだから。減らしたり増やしたり。おそらく地盤がゆるいんでしょう」
「……お兄さまが壊したとかではなくて?」
「まあ、それも多少はありますけどね。たいていそれ以前にぼろぼろなところを、ホームズ先生がわざと壊したりして。弁償するといっては下宿代を多めに支払ってくださりますから、心配いりませんわ」
メグはほっとした。「ハドソンさん。妹は気分がすぐれませんの。よろしければこちらで一緒にお茶にしませんこと?」
「いえ、わたくしは……お嬢さまとは緊張して……」一見してそうとわかるほど照れていた。
メグは上目遣いでハドソン夫人を見上げた。
「お願いしても――?」
「あの……はい」ハドソン夫人は無意識に答えた。「えっ。あの。……えっ?」
メグはお盆を取り上げ、スカートの端をひらひらとさせながら優雅に歩いていった。
ハドスン夫人は自分の身に起きたことが理解できなかった。一瞬のちに、首まで真っ赤になる。心臓の音だけはバクバクととてもうるさかった。
ワイルドもかくやという扱いだ。ワトソンの胸毛はたしかにワイルドだったが、その意味ではない。
「レストレード……かわいそうに。私が君の出んぼの具合も診てやるといったばかりに」
痔の治療に一番効果的なのが、問題の箇所を直接指でマッサージすることだというのはよく知られていた。痛みが強いときは触ってはいけないが、辛抱できそうなら中をいじるほうが血行がよくなる。
ただしこれを医者でないものがやるのはなかなかに勇気と危険をともなうため、ワトソンは親切心から提案したのだった。医師としての免許は剥奪されているが、指圧に関しては任せてくれと。
「まさかあんなに乱れるとはな……」ワトソンは唾を呑み込んだ。「実は、以前から私のことを……?」
きゃっと両手を口元にやる。ワトソンはどうしよう、と焦った。一度気になり出すとおさまらない。次に会ったら普通の顔ができるだろうか?
「アンアン言っちゃって。前なんて触ってはいないが、体格に似合わず立派な息子さんだった。うん。あれなら大丈夫。次のおめこちゃんもすぐ見つかる」
私と一緒で、とワトソンはエイミーの顔を思い出そうとしたが、難しかった。
「……あれ?」
山火事の衝撃がおさまらなかったのかもしれない。噴火だったか。
代わりに頭をよぎったのは――。
長女のメグは、ワトソンの部屋から出てこない末っ子のことで頭を悩ませていた。
「お兄さま。エイミーに何をおっしゃったのかしら」
まさかと思うが、出生の秘密とか――とそのことばかり心配になる。このタイミングでそれはないと思いたいが、兄のことだからわからない。
家族問題のほとんどはくだらないものだったが、今までに何度ご都合主義の解決をしてきたことか。女の考えていることは理解できないと突っぱねられたことも一度や二度ではない。
ホームズは今朝早くに家を出たきりだ。どこにいくのかさえ告げなかった。
「どうしましょう」扉をちらりと見て、メグは妹をそっとしておくことに決めた。「エイミー。下にいるわね」
返事はやはりなかった。
階段を数えながらおりると、不思議なことに気づいた。「あら、やだわ。十五段しかないじゃないの」
「そうなんですよ」
ハドソン夫人だった。ポットとカップののったお盆を持っている。
「外側とちがって、あちこちガタがきてるものだから。減らしたり増やしたり。おそらく地盤がゆるいんでしょう」
「……お兄さまが壊したとかではなくて?」
「まあ、それも多少はありますけどね。たいていそれ以前にぼろぼろなところを、ホームズ先生がわざと壊したりして。弁償するといっては下宿代を多めに支払ってくださりますから、心配いりませんわ」
メグはほっとした。「ハドソンさん。妹は気分がすぐれませんの。よろしければこちらで一緒にお茶にしませんこと?」
「いえ、わたくしは……お嬢さまとは緊張して……」一見してそうとわかるほど照れていた。
メグは上目遣いでハドソン夫人を見上げた。
「お願いしても――?」
「あの……はい」ハドソン夫人は無意識に答えた。「えっ。あの。……えっ?」
メグはお盆を取り上げ、スカートの端をひらひらとさせながら優雅に歩いていった。
ハドスン夫人は自分の身に起きたことが理解できなかった。一瞬のちに、首まで真っ赤になる。心臓の音だけはバクバクととてもうるさかった。