ホームズの続編
――メアリーが出て行った、と。
私の前に来てワトソン君が言うので、ほら見ろやっぱり続くわけがない! と高笑いをする。ワトソン君は怒り狂うかと思ったが、無言で私の目を見て、上着に手を入れた。
「なぜ端まで逃げるんだ、ホームズ?」
拳銃かなにかで撃たれるかと思ってついと言い訳をして、抱き着いた花瓶の重さに倒れそうになる。ワトソン君の胸ポケットから出てきたのはただの手紙で、私は安堵の息を吐いた。
やれやれ。てっきり痴話喧嘩のついでにテムズ川にでも落とされるかと……
「読んでくれ」
任せたまえっと馬鹿な声をあげそうになり、その端正な顔が酷く沈んで、辛そうなことに気をやった。
可哀相なワトソン君。
きっとあの美しく清楚で可憐な女は、私のワトソン君をここまで悲しませるためだけに結婚を約束したにちがいない。
「『あなたとはこれっきりです。愛しの名探偵と仲良くなさったら?私はジェームズのところへ行きます。メアリー』――ジェームズって誰だね?」
「――私だ」
「君の名前はジョンだろう、ワトソン君」
「私だ!」
ワトソン君は長椅子に寝転がり、叫んだ。そういえばワトソン君は、伝記の中で自分の名前を書き間違えていたな、と思う。私は立ち上がり、ジェームズの項目のあるファイルを探そうとした。
「ファミリーネームで分けてるんだ。Mの項目のジェームズだ!」
「この項目はたしか悪党が豊富で――ジェームズ・モリアーティ?」
「メアリーは教授の所へ行ったんだ。私と君に対する意趣返しのつもりなんだ」
救出して欲しいと言いにきただけか。私はすっかり臍を曲げて、窓辺に立った。くりんと曲がった無骨なパイプに火をつけた。
「ホームズ。アイリーンも教授の毒牙にかかってる」
「はん。スリだか泥棒だかに身を落とした本物か、イサドラ・クライン並に奔放な女と。君の書いた淑女で美女で心優しいが探偵を騙した女のどっちだ」
「――ホームズ。私が言いたいのは」
「うるさい。銃でも持って一人で行ってくれ。皆まとめてぶっ放してやれ」
私は行く気はない、とはっきり言って、ワトソンが立ち上がる。思わず取り置としかけたパイプで火傷をした。行かない。行かないのか?
「ホームズ。私が今日ここに来たのは……」
自分の気持ちを確かめるためだ、と上着を脱ぎ、タイを外し、シャツの襟を開けて。
――抱きしめられた途端にパイプは床を転がった。
「ワ、ワトソン君?」
「ベッドは遠いな。東洋風にクッションを敷くのはどうだろう」
「あ。ま。待て。落ち着いてくれ。私はそういうことは」
「何故だ。散々邪魔をしただろう――忘れたとは言わせないぞ」
唇を奪われて、まさか、そんな。よし来たまえっではなく、理性を総動員して突き放した。「き。君の気持ちもわかるが、私は1に痛いことが嫌い。2に血が出ることが嫌い。3、4はなくても5に女が好きだ!」
「男は嫌いだったのかね?」
「お。おと――試したことがない」
じゃあいけるかもしれないだろう、と再度キスを受けた。
「あっ……ふぅ」
「ふぁ……」
「ぁ!……はぁん」
ちょっと感じて反応したかもしれない部分に、ワトソン君の手がかかる。ワトソン君は小首を傾げて、ニヤリと笑った。「試そうじゃないか」
「よ」
よろしく頼むよと言ってしまったのは、濡れた唇がなまめかしかったからだ。
――都合上ことは省くが一時間格闘した。
私はワトソン君の下ですっかり泣かされている。彼は想像以上に鬼畜だった。私の好みだ!
「あっ、アッ。……ぅん。うご、動くんだもっと!」
「初めてにしたらなかなか上手じゃないか――い」
「ああん、ぁっ。いいからもっと動け、早くっ」
「うっ……そんなに急かされると……イッてしまう」
――カチリと音がして、クッションの間から拳銃が出てきた。
「先に……イッたら撃つぞ」
「――冗談かい?」
本気だ、とワトソン君が笑った。思わず硬くした股間に、上からワトソン君が尻を押し付ける。
私はあまりに苛酷な状態を体験していた。痛い、血はやだ、女に慰めて欲しいと注文をつけたせいで、ワトソン君の後ろの穴を使うことになったはいいのだが。ひょろっと大きくて優男の彼は、一見普通の英国紳士に見えないこともないが――そっちの方はプロだった。
恐ろしい。この可愛い尻を使って、若かりしころの軍隊生活の間、何人の相手をしてきたのだろう。
「あふぅ。あっ、くそ。こら寝るな――どうなるのかわかっているだろうな」
拳銃でペチといかれて、す、すまないと謝った。なんてことだ。男相手でも勃つ私の下半身も節操なしだが、ワトソン君のソコときたら……。
「鼻血の意味は知りたくないな。ホームズ。早く!」
「……イイのか?」
「何がいいって? ――あっ、あぁぁ!」
私は体を素早く入れ替え、挿入してるモノを限界まで引き抜いた。ぐっと押し込むと先程の比ではない声でワトソン君が鳴く。
私はこう見えて、と。
「遅漏だから朝までかかる!」
「ホ、ホームズ。撃つぞ――ふぁっアア」
「打つのは私だ」
肩に長い足をかけると、ワトソン君は微笑んで、早く来ていいと言ったろ……と腰を使った。
――たまらんね。
「ぁッ……ッ……あああ!……ホ、ムズ」
「あっ、うぁっ……や、やめっ。こら、締め付けないでくれ! ああ、なんて――熱いんだ?」
「なかなか、イケないん、だろ。私がやってあげよう」
「ぅああっ……、だ、駄目だ、待て。くっ、煽るな、ワトソン。はぁっ、イイ!」
「ホームズ、ホー……ムズ!ああ――イ……く――……!」
「ワトソン!」
二人で弾け飛び、桃源郷を見た。
あるいは天使。
あるいは妖精?
ほら、偽造写真の方じゃなくて……
ばしんと頬を叩かれて、夢から覚める。まさか夢オチ?
いや、私の下敷きにされたワトソン君はまだいるし、そのナカにも私はちゃんといた。
「気絶するな……君は女か」
「いや――君の中があんまりヨかったからだよ」
「早く抜け。不衛生だ。私は病気になりたくない」
「君とだったら本望だ! 最高だ君は。マイハニー・ジョン・エッチすぎる・ワトソン!」
もう一度撃鉄を上げる音に、下も小さくなった。
「――ッぁはあん」
ずぽっと抜けば、大きな声こそ出さないが背を反らしてワトソン君は反応した。この涙ぐんだ顔に落ちない男がいるのか? いや、いるものか! ツンデレ襲い受けだ!
「ふぅっ……ん。はぁっ。ホ、ホームズ」
「キスが上手いのには腹を立てていいかい、ワトソン君」
「君はかなり下手だ。私で練習したまえ」
ワトソン君が笑い、私の頬に手を当てる。――ずっと好きだった、と聞いた途端に、また硬くなり強く抱きしめた。
君は私だけの愛棒だ――。
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――――fin――――
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