緋色の拳銃


 彼は冒険なしでは生きられない。長年同居している私にはよくわかる。

「事件はないのか?」彼は低い声で憂鬱そうにいった。「最近は女性も来ないじゃないか。つまらないったら」

 彼の女好きは意外と知られていない。

「よしてくれ」私はテーブルに新聞をたたきつけた。「また結婚詐欺で捕まりたいのか?」

「あれだってきみがなんとかしてくれたじゃないか」

「彼女はきみのプロポーズをちっとも疑っていなかったよ。おい、それはしまいたまえ!」

 退屈が度を越すと、彼は愛用の武器を持ち出し、手当たり次第に発砲する。壁のVRの字は彼の銃よるものに違いない。

 私は銃の手入れをする彼にいった。「コカインをやらないか。頭が冷静になると思うよ」

「いいのかい? この前はそれのおかげで手元が狂って依頼人を撃ったが」

 よくない。あれは口止め料に多額を使った。

「同じ武器で一瞬の快楽なら」彼は拳銃をしまい、私のかたわらに立った。「初歩だよ、ワトソン君」

「そんな呼び方はよせ」

 私はおびえて、逃げようとした。彼がおさえつける。私の上着の内側に手を這わせ、懐中時計を取り出す。

「以前これで殴られた」時計の鎖をもてあそび自分のと一緒にテーブルに置いた。「どちらが優勢かわかっているね?」

 彼はしゃがみこみ、私の脚を押し開いて前開きのボタンを全てはずした。浅ましく盛り上がるそれに、下着の上から手を這わす。揉まれるとたまらなかった! 刺激を欲っして彼の手を押さえつける。さすられ。摩擦で、もどかしくのどが上下した。

 形を成したものを引き出され、外気に震え。仕立てたばかりの服を汚すなと頼み。彼の舌が先端を掠めた。

「あア」私は囁いた。「くわえてくれ。早く、ア!だ、だめだ」私は馬車の音に耳をすませた。「依頼人だ! 違う。レストレードだ。ア、ああ、ほら、下で話している」

「仕事の話はなしだよ、きみ」彼は私の体を、逃げられないよう椅子に押しつけた。

「なんだい。勝手だ、ンっ、……ええ! 待たせてください、ハドスンさん」いまは開けてくれるな、と強く願った。

 拳銃の扱いに慣れた彼の指が、私を追いつめてしまう。

 この事件は、『緋色の拳銃』として私の覚書に記しておこう。






「めずらしいな、ホームズ。きみがペンをとっているとは」


 彼が手元を覗き込んだ。私は悪寒に震えて、手帳をさりげなく閉じた。真実を書けるのは私だけだが。飼ってるブルドックが狂犬とわかっていても。

 コカインとその快楽以上の愛撫をくれるのはワトスンだけだ。


 お互いが生きてる限り、この記録が世に出ることはないだろう。


End.
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