Aの火傷


 熟れた肉襞が棒を掴んで離さない。

「――ぁ……ふっ――……ひぃ……!」

 自ら後孔を嬲る淫らさに嗚咽が漏れた。冷たく無機質だったモノが馴染み、生暖かく押し拡げる。ワトスンが戻るまでにはやめようと扉を凝視するが、霞んで前が見えなかった。もどかしさばかりが募る。深々とした後ろの口で幾ら咀嚼しても、生きた熱には敵わない。あの脈打ちながら隆起したモノを味わい、白濁を注がれる想像にただ集中して、手を動かし続ける自分が辛いのだ。

 ――ホームズ?

 食い込むキューを押し潰す。啜り啼く誰かの声が近づき、それが自分の口から出てるので唇を噛んだ。駆け巡る熱が癒えない。滲ませた勃起に手を触れることはしなかった。

 ホームズ。

 一人で遊んで渇きを満たすことができるなら、当の昔にそうしてただろう。触ったことがないも同じの場所を露に曝け出して求める相手は、ワトスンだけだった。

「ホームズ! 血が出てる。離せ」
「あ……」
「拳を開けるんだ」
「外に、聞こえる」
「彼は帰った。ドアには鍵をしてある。指を」

 彼に――見られた。ひとり貪欲になっている所を。

 それまで微塵も感じなかった感情が押し寄せ、下肢を閉じた。突き挿すモノの痛みに叫びかけるが堪える。嬌声を抑える訓練を好んでしたことはないが、傷に対する痛感を逃がす方法はわかっていた。呼吸を短くした。

「離すんだ」

 キューから手を無理矢理引き剥がされ、状況を醒めた頭で把握した。体をゆっくり開くのは容易ではなく、自分の侵した馬鹿な行いに激しく後悔する。

「これ以上変な遊びを教えないでくれ。嵌まってしまう」

 急に落ち着いた低い声を出すと、ワトスンが安堵の息を吐いた。なるべく弛緩するんだと前を柔らかく揉まれ、猛る芯に刺激を受ける。雫を滲ませる以上には放出せず、自分でもどうすることもできない。

「ホームズ。顔を上げてくれ」

 これ以上辱めるのかと歯を食い縛り、欲求に負けたのは自分だと顎を上向きにする。すまない、とワトスンが呟いた。

 その目に苦しげな色を見つけて、私は責める言葉をすぐに捨てしまった。こうなる前から負けている。私は彼なしではいられない。いっそ逃げられぬほど縛り上げ、絶え間無く弄り続け、虐めるだけ虐め抜いて、後は無関心に放り棄ててくれさえすれば。

 横抱きにされながら双丘を割られ、キューのジョイントを外す音がした。

「う……ぁ」

 抜こうとすると引き攣れて、背筋に悪寒が走る。気づかれぬよう呼吸を整えていると、唇を合わせてくる。葉巻の香りと口腔を優しく撫でる舌を感じて蕩ける快感が俄かに戻ってきた。

 欲しいのは君だ。
 君の愛情と関心を独り占めしたい。
 僕にあるのはそれだけだ。

 体を巡るゾクゾクとした気持ちが、吐息と共に流れて滴り落ちる。

「ぁ……はぁっ……あ! あぁ!」

 絡めた指からでなく唇の感触と満たされた感情の発露で大きく弾けた。海老反りになった背中をワトスンの手が押さえ、私の唇を追いかけて僅かに乗り上げる。しっかり捕らえられた顎にある手の力が強まり、内壁を滑りながら抜け出る感覚。

「ッ――……ッ!」

 精液がどこに向かって発射されているかを見ることはできず、そっと目を開けるとワトスンの顔があり、安心して残りを放つ。 頬に当てた掌に顔を預け、零れた涙を擦る親指に目を閉じる。絶頂が余韻に変わるまで、キスは続いた。

 感覚の失せた内部と、カランという音が響き渡る。私の肩を押さえて離れようとする唇を追って抱きしめた。

「ワトスン。待ちくたびれてるんだが」
「――駄目だ、切れてる。それに君はもう」
「感じたい」

 君を中に感じたいと懇願した。動脈がどくどくと浮き出した猛りを捕らえ、自制心のある性器が辛そうに悶えるのがわかる。

「僕は大丈夫だ。そこまでやわな肉体じゃないのは、知ってるだろう?」
「無茶をさせてしまった。これ以上は――医者の言うことは聞いた方がいい。危険が」
「消毒せず人の体に色々と挿入れただろう」

 ちゃんとアルコールを使ったさ、とポケットに手を入れる。小さな酒瓶を出した。動作にも香りにすら気づかなかったのが悔しい。ワトスンの次の行為を予測することだけに夢中になっていたのだ。

 私が唯一知らない未知の謎を、彼だけが教え体感させてくれる。その膨張を受け入れたくて仕方なかった。中に溜まった欲望のすべてを、自分の体内で穿ち果てて欲しい。まだ顔の周りをさ迷っていた指に指を絡める。太くて無骨な長い指を口に含んだ。「ッ――駄目だ!」

 怪我をしたときのようにしゃぶる。粘った唾液が透明な糸を引き、涎れの滴りが唇からラシャの上に落ちた。再度目を合わせると、理性に綻びを見せて眉を寄せているワトスンが映る。

「ホームズ……ッ」

 耳朶に噛みつかれ一瞬怯んだ隙に、台の上で俯伏せにされた。成功した企みにほくそ笑む暇も与えられず、ワトスンの灼熱を入口に感じて。

「待っ、ワトス……――!」

 一気に貫かれた。

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