Aの火傷


 ワトスンは顔を股間に押しつけられても文句を言わなかった。歯で噛んだり布越しに吸い込んだりと、蹂躙の限りを尽くしてくる。責め苛まれる感覚に我を忘れて、叫び声をあげた。誰かに聞かれては、と思って自らの拳に噛みつく。

 食べてくれ、と囁いた。

 自分が何を言ったか理解する前に、ワトスンが素早く下を脱がせる。濡れた下着を膝の中途半端な位置までおろされた。限界に打ち震える赤らむ色をワトスンが鑑賞した。私は唸ってその横面を叩いた。

「よせ、見るな……」

 唐突に熱い粘膜に占領されて、喉の奥まで差し込んだ。ワトスンはやや苦しげに眉をひそめて、音をたてながら私を全部吸い付くす。口をすぼめられると、呆気ないほど簡単に馴染みの射精感がやってきた。

「ぁ、あ……」

 下がりきった体で壁に体を預けた。外套が摺れて駄目になる。それでも足が痙攣して言うことを聞かない。肝心の場所は、いまだワトスンがくわえ込んでいた。根元はしっかり手の輪の中だ。

「――ッ!」

 何かを口にする前に天を仰ぎ、ワトスンの口に放ってしまった。嚥下する音に耳を澄ますと、まだ私の顔を見上げているのに気づく。自分は下半身だけあられもない格好で立ち、彼はきちんと着込んでいることに腹が立った。

 寒さに震える。

「誰かに聞かれては、いないだろうね」

 自分の声があまりに掠れていて、頬が赤らむのがわかった。ワトスンは見ないふりをして、萎えた私から離した。

「今からなら――」
「ここでいい」
「風邪を引くじゃないか。床は痛いから帰ろう」
「君は楽になっただろうけどね」

 僕は違う、と壁向きに体を向けられた。壁に露出した下腹部が当たり、痛さにああと声を張り上げる。

「待ってくれ」
「まだ何もしてないよ」
「そうじゃない……、が」
「君のも硬い」

 達したばかりの敏感な竿を握られ、玉をやわやわと触られた。足の間に膨張しきった器官を感じ、痛みを伴う儀式を、最後まで味わいたい欲求が勝る。何度しても躊躇いがあった。

 ここ社会的に抹消される行為で、見つかれば互いにただではすまない。捕まえた犯人や冤罪の容疑者数名に、明らかな徴候を発見したことは幾度もある。歩き方や態度、趣味や持ち物で異質な者はすぐにわかってしまう能力のおかげか、他人に見破られたことはない。

 後ろを見ると、肩に顎を乗せてくる。欲しいと言う囁きに負けた。

「せめて外套は脱ごうじゃないか」
「風邪を引くんだろう?」
「立っていられそうに、……っ」
「君らしくもない。堪え性がないな」

 互いに脱ぎ捨てより存在感を増して当たるものを押し返すべく、尻を突き出して抵抗する。壁に当たるのを防ぐためだ。そうすると服の厚みを押さえて、ワトスンの存在がより増してしまう。

「大きい」
「君が――そうさせるんだ」

 馬鹿げた感想に生真面目に応えが返る。壁に手をついて緊張感に耐えようとした。後ろの穴には穿ちようがない。放った精液はワトスンの腹の中で、本来果たすべき種の役割を果たせず胃酸に溶けて死んだのだ。

 もう一度放ってしまえば、おそらく相手は出来ない。放つ精液のない状態で、気絶するまで続く反永久的なもどかしさに堪えるのと同じことだ。ワトスンは私自身から手を離し、前開きを外して自分の怒張を取り出す。幾度も擦りつけた。

「動いては駄目だ。慣らさないと」
「無茶を」

 繋がってもいないのに互いに限界が近かった。早めにと焦るが、体は言うことを利かない。狡い男だと睨むと、高い鼻の頭に口づけを受ける。完全に濡れそぼつころには、私も腹につくほど勃ち上がっていた。ワトスンの指が周囲を撫で、押し戻す力に逆らわず出たり入ったりした。

「……ぁ!」

 私の長い爪と違い、患者に傷を与えないよう綺麗に摘まれているワトスンの指が、執拗に中に捩り込んできた。レストレードが肛門の病気に掛かり、手袋越しではあるがドクターの指を飲み込んだ、と笑い話をしていたのを思い出す。きゅうと足を閉じた。

「締め付けると解れないよ」
「二本――に、増やせ……」
「まだ早い。ホームズ、今日はどうしたんだ」
「ぁ……いいから」

 何度もゆっくりと挿入されるがままになり、壁に体を預けた。指が三本になると自分でわかるほど収縮を始めた。動きが止まり、抱き上げられた。

 朦朧としてきた視界の隅で、部屋の中央に出たのだとわかる。台の上に上げられ、素早くタイもシャツも半ば剥ぎ取られると、ようやくそこがビリヤード台の上だと気づいた。

</bar>
3/7ページ
スキ