Aの火傷
「ホームズ」
優しい声が耳を擽った。
「すぐ帰るって言ってただろう。――あ、待て」
「捜査に同行は口実だってことが、わかっていたからだよ。君はこの手の駆け引きが下手すぎる」
「レストレードが……いいのか? 僕より、警部の方が」
布越しの手擦りが与える何とも言えないまどろっこしい感覚に、思わず口をついて出た。ワトスンは一瞬手を止め、「何だって?」と言った。
触ってくれ。止めないでくれ。
腰がうごめき、股間の上にまだあるワトスンの手を掴む。それを使って手淫した。
「……っ」
淡い快楽が背筋をまた走り、ぎゅっと目を閉じた。服の上からでは限界があるが、自分で脱ぎたくてもワトスンの体があって動けない。
「邪――魔だ!」
「ホームズ?」
「ぁ……あぁ」
生地が擦れ、はち切れる寸前まで盛り上がるのがわかった。唾を飲み込む互いの音が被る。私は周囲に残った僅かな空気を吸い込み、一気に言った。
「間接的に唇を合わせるということの意味が、君にはわかっていないらしい。二度とあの男と二人で過ごすな!」
あぁと背中を前に屈める。欲望で神経が途切れ途切れになり、あろうことか頭に血が巡らない。理性を失えば、探偵は仕事にならないのだが。恋も愛も捨てたはずの身肉体に、ワトスンの不在がどれだけダメージを与えることか。肉欲でしか対処つかない事態に陥るまで、今回は放って置かれた。
――責任は取って貰わなければ。
「ワトス……」
「ああ」
小刻みに体を揺さ振ると、ワトスンの手が膨らんだ形を再度握る。円を書くように捏ね回され、もどかしさにその手に爪を当てた。
「違う。もっ……と。直に」
「レストレードのことは――」
「名前を呼ぶのはよせ」
「僕だけにしろとか言わないでくれよ。後で冷静になったときに後悔するから」
「僕は冷静だ。……やめるな」
ワトスンの体が一瞬離れ、引き止めようとおかしなことを口走った。手はしっかりと握っていたが、股間から離れる。膝をついたワトスンが見えて、全力で立つ努力をした。期待に大きくなる箇所が痛い。
早く楽に。
しかしワトスンは、私の骨盤辺りに手を添えて、動かなかった。てっきり望み通り事を済ませて貰えると思っていただけに、いきり立つ分身がおとなしくなる。
「ワトスン」
そんなに馬鹿なことを言ってしまったのか、と髪に手を伸ばした。すると彼は顔を上げて、ふっと笑った。「可愛いことを言った、そのご褒美は何がいい」
私は安堵の息をついて、問題を解決してくれときっぱり、直接的な言葉で頼んだ。きっとワトスンは頷き、服の中でそそり立つ屹立を取り出してから慰めてくれる。荒い呼吸を整えながら、そのときを待ったが、予想は見事に外れた。
「ひぃ……ぁ」
「――」
「なぜ」
もどかしく鳴いた声と共に、白い息が溢れ出す。ワトスンはズボンの上からむしゃぶりついてきた。外気に触れることもなく、すぐに放出することも叶えられなかったせいで、私は煽られるばかりだった。
「普段、は」
「ふだんは?」
声が聞き取りづらい。直接口内に入れて舐めしゃぶってほしいと言うのは、さすがにプライドが許さなかった。ワトスンの舌が服の上を這い纏わる。鼻先で押し潰されて押し返した。
「僕は君と違って物覚えが悪いんだ」
「っ……!」
我慢できずに上下すると、微かな刺激で遥かに卑猥な音が。ぺちゃぺちゃと周りを舐められ、一番苦しい場所を舌先で突かれた。痛いのだか快いのだかわからない喘ぎで、土壁を両手で掻いた。
「……ん!」
「いいかい?」
いいと答えたらやらない気だな、と役に立ちもしない推理力を発揮して、辛抱堪らずワトスンの頭を手で押さえ込んだ。
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