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side story

【マリオネット】



「あんたは俺達に利用されてる」
「ええ」
手向けの花は白い花。
百合の花束を墓石に添えて、彼女は囁く。
「それは、お父様が殺された時から、感じていたわ」
「俺は止めたんだ」
「お願い」
彼女は悲痛な声を上げ、俺の言葉を遮った。
「89……それ以上は言わないで」
「あんたは全部知っていて、俺達に加担するってのか」
「貴方たちは賢いわ」
十字架を見つめたまま、彼女は振り返りもせずに、静かに語りかける。
「お父様がこんな目にあっても、私はレジスタンスに屈しない。そう判断しての選択でしょう」
死人は、口がきけない。
だが、彼女の口を借りて、あの男が俺に語りかけているような気がした。
「貴方たちはその力を使うために、より若く強いマスターを求めた。貴銃士は、人間のマスターがいなければ存在できない。私は、貴方たちの依り代ということよ」
彼女の黒髪が風に吹かれる。
乱れた髪を整えるその左手に薔薇の傷痕。
百合の強い香りが漂う。
「一人一人が糸を持って、その糸で私を操っている。マリオネットね」
くつくつと揺れる小さな肩は、笑っているのか泣いているのか、判然としない。
「89。よく話してくれたわ」
ようやく振り向いた彼女は、笑っていた。
「貴方の誠意に感謝します」
「別にあんたのためじゃねーよ」
痛々しさから視線を逸らした。
笑い顔もかえって泣き顔に思えてくるほど、その強がりは目に見えていた。
「ダチに嘘つくのは、気持ち悪ぃからな」
「私は貴方のマスターです」
右手で薔薇の傷を摩りながら、彼女は寂しそうに呟いた。
「もう友達にはなれない」



それでもマスターは歩みを止めない。
俺たち貴銃士を束ねる存在として、世界に君臨し続ける。
それが彼女自身の意志なら、
彼女はマリオネットなんかじゃない。





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