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マスターちゃんとホクサイくん

【手段なんて選ばない】



基地内で、兵士が愛し合っているところを見た。特段珍しい事ではない。それでも、初めて目撃した時の衝撃は凄まじいものだ。なぜって、それが男同士で行われていたからだ。男なんて、ごつごつしていて趣味じゃない。おっと、でも、この基地内にはエフという男好きの貴銃士がいるんだった。迂闊な事は言えないね。
人間は、交尾に愛という付加価値を付けた。
まず、大概はキスから始まる。それが合図であり、愛情表現でもある。女性相手だと、始めにこれが無いと満足されない。男性相手だと、そういった煩わしさが無いのだろうか。だから男を選ぶのだろうか……
「ホクサイ」彼女の鋭い囁き声。
「止しなさい!」
倉庫のドアの隙間から兵たちを覗いていたホクサイは、彼女に思いっきり腕を引っ張られ、強制的にその場から引き離される。
「覗き見るなんて、はしたない」
彼女はそう言って顔を顰める。倉庫内での出来事を把握しているようだった。
だって、「ご自由に覗いてください」と言わんばかりに、ドアが数センチ開いていたのだ。これは明らかに彼らのチェックミスであって、決してボクだけのせいではない。
せっかく観察していたのに、と唇を尖らせる。
「ねえマスター。彼らはなぜ、男同士であんなことをするんだろう」
「それは、彼らがそう望んだからでしょう。双方同意の上での事なら、軍の規律でも認められているわ」
「子供も出来ないのに?」
「子供は目的ではないの。その行為自体が、彼らの欲求よ。つまり性欲」
「じゃあさっきの彼らは、性欲を満たすための利害関係ってこと?」
「詮索しないの」彼女は溜息をつき、呆れた様子で忠告する。「それは彼らの問題。私たちには無関係」
彼女は、こうして世界と自分を切り離す作業が上手くなった。これは自分には関係ない、と簡単に目を瞑ることができる。ホクサイには、それがまだまだ難しい。目の前に飛び込む事象について、つい思考したくなる。
「どうせ性欲を発散させるなら、相手は女の子の方が良いと思うけどね」
選択肢なんて、幾らでもあるではないか。
軍にはそれ相応の、専門の施設がある。帝都の繁華街にも、似たような娯楽施設は山程ある。そういった場所には、そういった事を生業とする女性がいて、彼女たちは寛容で強かでサッパリしている。何よりお金が大好きで、金の為なら何でもしてくれた。
狡猾で、利用価値が明確。
マスターには口が裂けても言えないが、重宝している。
「まるで知ったような口振りね。どこで覚えて来たのかしら」
ひやりと刺すような視線を投げかけられて、お喋りが過ぎたかな、と反省した。
軽蔑の表情に曖昧に微笑み返す。
彼女には解らないだろう。
キミを守るためなら、幾らでも汚くなれる。





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