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可愛い子には旅をさせよ

【プロローグ】



「権威ある世界帝府の軍事施設が、私の不在によって貴女の王国と化してしまいます」
嘆かわしい、と彼は顔を歪める。
「何か?」
彼女は微笑み、優雅に小首を傾げてみせた。彼がこのような仕草を好むと知っての所業だろう。何とも狡猾な女性に成長したものだ。そちらも実に嘆かわしい。
「ご心配なく。私だって、もう大人ですもの。良い事と悪い事の区別くらい、ちゃんと付きます」
「貴女が大人? 冗談はよしてください」ファルは心の声まで口にする。
「パリが気に入ったら、そのまま居着いても結構よ。二度と帰ってこないでね」彼女も心の声を口にする。
ああ言えばこう言うとは、この娘の事を指すのだろう。
「今の、『行ってらっしゃい気をつけて』の意味だと受け取っておきますよ」
ファルは肩をすくめ、スーツケースを引きながらエントランスの自動ドアから出て行った。
彼女は小さく手を振りながら、清々しい笑顔で彼の後姿を見送る。


これから一週間、ファルのいない毎日を人生で初めて謳歌するのだ。





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