このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ホクサイくんの心臓は落ちやすい

【ホクサイなら有り得ると思った】



「っんだとテメェ! やってみろや!!」
「ああっ!? 上等だコラァ!!」
城内の何の変哲も無い廊下に、青臭い怒鳴り声が響いている。
「あ〜あ。ベルガークンと89クンはま〜た喧嘩してるのかい? 飽きないね〜」
任務帰りで迷彩服を血みどろに汚したホクサイは、取っ組み合いの喧嘩をしている二人の貴銃士に道を塞がれていた。退いてくれよ〜ボクちゃんが通れないでしょ、と訴えても二人は全く聞き耳を持たない。互いの胸倉を締め上げるように掴み、うぐぐと苦しそうな顔で睨み合っていた。
「二人とも元気で良いよね〜。ボクちゃんなんか、いっぱい殺して疲れちゃった。ね〜二人とも、ボクちゃんのことおんぶして! マスターのとこまで連れてってよ〜」
「うるっせぇぞホクサイ!」ベルガーがカッと目を見開いて、唾を飛ばしながら叫んだ。「芋でも食ってろドイツ野郎!!」
「科学者のくせに無駄に良いガタイしやがって!」悔しそうに歯軋りをして、89はぎらぎらとホクサイを睨みつける。「疲れただと? 丁度良いからそのままくたばれ!!」
「二人とも、アドレナリン出まくりだね〜」
理不尽なとばっちりを食らったが、ホクサイに応戦するほどの気力はない。彼はアハハと力無く笑い、二人を強引に壁際に押しやり、自ら道を切り開く。
「ホクサイてめえええ」
「体力残ってんじゃねーかあああ」
「っま、キミたちくらいの重量なら余裕だね」
額に青筋を浮かべるベルガーと89にひらりと手を振り、じゃあね〜とホクサイは廊下を駆けて行こうとした。直後、足がもつれてバランスを崩し、何もないところで躓いた。

ドベシャッ

気味の悪い音がする。
躓いた拍子に、彼の血みどろ迷彩服から、赤黒い肉塊が落下していた。
肉塊は床に打ちつけられ、死にかけの魚のようにビクビクと小さく震えている。
「あっ……」その落し物に、ホクサイが小さく声を上げた。
「お前それ心臓じゃねーか!?」ぎゃっとベルガーが青白い顔で悲鳴を上げて、掴んでいた89の胸倉を突き飛ばした。「何でそんなモン持ち歩いてんだ!?」
「てめぇ、やっぱり裏で汚い仕事してやがったな?」ベルガーと同じく真っ青な顔色の89が、ひぎっと頰を引きつらせる。「今日も任務だとか言って、本当は臓器売買でもしてたんだろ……まじで引くわ」
「そんな、誤解だよ〜! びっくりさせちゃってごめ〜ん」後頭部に片手を当てて、ホクサイは恥ずかしそうにヘラヘラと微笑む。
「これ、ボクちゃんの心臓だよ。躓いた拍子にぽろっと出てきちゃった〜」
「なんだお前のかよ」
「早くしまえ」
心臓がホクサイのものだと分かり、ベルガーと89は安堵する。今ではもう、喧嘩の発端でさえ思い出せない。自然と仲直りをしてしまった。
「えへへ。ボクちゃんうっかり☆」
ホクサイは跪き、いそいそと肉塊もとい自身の心臓を拾い上げた。
「それじゃ〜ね〜」片手に心臓を乗せながら、ホクサイは反対の手を上げて挨拶する。
「シンゾーは大事にしろよ」ベルガーが言った。
「無闇に落とすんじゃねーぞ」89は片手を上げて、応える。
二人がホクサイの後ろ姿を見送っていると、彼は血相を変えて振り向き、こう叫んだ。
「何で二人ともスルーなんだいっ!!?」

どうして自分の身体から心臓が溢れ落ちるのか、ツッコミが欲しいようだった。





1/3ページ