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可愛い子には旅をさせよ

【木曜日】



「アインス。私と喧嘩しない?」
「お嬢とタイマンなんて張れるか」
「誰が物理で喧嘩しろと言ったの」
昨日、ホクサイによって大事な花壇を真っ青にされたアインスは、自身の顔色まで真っ青にして酷く落ち込んだ。あまりのショックで叱る気力も湧かないらしい。どうして良いか分からず、ただ花壇の縁に座って呆然とする彼を見ていられず、気づけば彼女は声をかけていた。
「口喧嘩しましょう。私、ファルがいなくて詰まらないの。思いっきり貶しあえる相手が欲しい」
「きゅるちゅが適任じゃないのか」
「あの子は私を悪く言わないから」
元気付けるつもりでそうは言ってみたものの、すっかり意気消沈してしまったアインスと、喧嘩など出来るわけもない。
「いいから放っておいてくれ……」
兵士の間では無慈悲な狙撃手として畏れられている彼が、これほどまで憔悴してしまっては、軍の士気に関わる一大事ではないのか。
「あまり自分を責めないでね」
珍しく弱気な彼の頭を撫でてやる。
「ああ……」
小娘に頭を撫でられたのに、彼は怒らない。
彼女は、本気でアインスが心配になった。



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