マスターちゃんの好男子辞典
【高貴なる戦場のピアニスト】
「ご機嫌よう。ミカエル」
「マスターかな。怪我はもういいのかい?」
「足はまだ動かないから、車椅子で来たの」
ミカエルの自室を訪ねた彼女がそう微笑む。すると後ろのエフが彼女の車椅子をほっぽり出して、「ミカちゃ〜ん♡」と猫撫で声でミカエルに抱きついた。
「……エフも一緒なの」彼女の声が低くなる。
「やあ、エフさんまで。これは一体どういう組み合わせかな」
ミカエルは、自分の頰にキスをするエフも気にかけぬ様子で、至極穏やかに問いかける。それどころか、抱きついてくるエフの腰に優しく手を添えて支えている。生粋の紳士だ、と彼女は脱帽した。
「どうぞ、中へお入り」
ミカエルに快く招待され、彼女は車椅子で彼の部屋に脚を踏み入れる。ミカエルは、未だに抱きついて離れないエフを引き寄せながら、一緒にソファーに腰掛けた。エフには早く離れてほしい。車椅子を押してほしい。
「ミカエル、これを」
彼女は例の半紙を取り出して、両端を持ちながら彼に差し出す。
「何だい? 墨の匂いがするね」
「受け取って」
ミカエルは、半紙の感触を興味深そうに確かめている。これは習字というやつだね、と見事に言い当ててみせた。
「なんて書いてあるのかな」
「『優男』よ」彼女は微笑む。「私が貴方をそう評価しました」
「マスターからそう思われているなんて、嬉しいね。光栄だ」
「ミカちゃん、この子、貴方に対価を求めてるのよ? いやだわぁ、強欲よねぇ」
ミカエルに身を寄せたまま、彼の耳元で悪魔の囁きをするエフは、酷く意地の悪い笑みで彼女を見つめる。彼女は鋭くエフを睨み、「黙りなさい」とアイコンタクト。エフのそれは、アインスの件の仕返しだと言わんばかりの暴挙だ。
「対価か……。僕もマスターの容姿を言い表してみたいものだけれど、生憎この目で見たことは無いからね。それが出来なくて残念だ」
「いいのよ、ミカ。気にしないで」
「気安くミカとか呼ぶんじゃないわよ」
「私はマスターよ? 貴銃士たちを好きに呼んだって構わないでしょう」
女同士(?)の火花がバチバチと激しく散る中で、そうだとミカエルが立ち上がった。
「君の姿形は見えないけれど、君の心の美しさは十分に見えているよ。だから、その気高い心を表現した曲を奏でよう。ちょうど良い旋律が浮かんだところだ」
そう喋りながら取り憑かれたようにピアノを弾き始めるミカエル。
優雅な旋律を聴きながら、彼女はほうっと溜息を漏らした。
「心まで美しいだなんて。私、こんなに魅力的でいいのかしら」
「いい加減殴るわよ。アンタ」
【優男】
姿かたちが上品ですらりとしている男。
風流、芸術を理解する男。
「ご機嫌よう。ミカエル」
「マスターかな。怪我はもういいのかい?」
「足はまだ動かないから、車椅子で来たの」
ミカエルの自室を訪ねた彼女がそう微笑む。すると後ろのエフが彼女の車椅子をほっぽり出して、「ミカちゃ〜ん♡」と猫撫で声でミカエルに抱きついた。
「……エフも一緒なの」彼女の声が低くなる。
「やあ、エフさんまで。これは一体どういう組み合わせかな」
ミカエルは、自分の頰にキスをするエフも気にかけぬ様子で、至極穏やかに問いかける。それどころか、抱きついてくるエフの腰に優しく手を添えて支えている。生粋の紳士だ、と彼女は脱帽した。
「どうぞ、中へお入り」
ミカエルに快く招待され、彼女は車椅子で彼の部屋に脚を踏み入れる。ミカエルは、未だに抱きついて離れないエフを引き寄せながら、一緒にソファーに腰掛けた。エフには早く離れてほしい。車椅子を押してほしい。
「ミカエル、これを」
彼女は例の半紙を取り出して、両端を持ちながら彼に差し出す。
「何だい? 墨の匂いがするね」
「受け取って」
ミカエルは、半紙の感触を興味深そうに確かめている。これは習字というやつだね、と見事に言い当ててみせた。
「なんて書いてあるのかな」
「『優男』よ」彼女は微笑む。「私が貴方をそう評価しました」
「マスターからそう思われているなんて、嬉しいね。光栄だ」
「ミカちゃん、この子、貴方に対価を求めてるのよ? いやだわぁ、強欲よねぇ」
ミカエルに身を寄せたまま、彼の耳元で悪魔の囁きをするエフは、酷く意地の悪い笑みで彼女を見つめる。彼女は鋭くエフを睨み、「黙りなさい」とアイコンタクト。エフのそれは、アインスの件の仕返しだと言わんばかりの暴挙だ。
「対価か……。僕もマスターの容姿を言い表してみたいものだけれど、生憎この目で見たことは無いからね。それが出来なくて残念だ」
「いいのよ、ミカ。気にしないで」
「気安くミカとか呼ぶんじゃないわよ」
「私はマスターよ? 貴銃士たちを好きに呼んだって構わないでしょう」
女同士(?)の火花がバチバチと激しく散る中で、そうだとミカエルが立ち上がった。
「君の姿形は見えないけれど、君の心の美しさは十分に見えているよ。だから、その気高い心を表現した曲を奏でよう。ちょうど良い旋律が浮かんだところだ」
そう喋りながら取り憑かれたようにピアノを弾き始めるミカエル。
優雅な旋律を聴きながら、彼女はほうっと溜息を漏らした。
「心まで美しいだなんて。私、こんなに魅力的でいいのかしら」
「いい加減殴るわよ。アンタ」
【優男】
姿かたちが上品ですらりとしている男。
風流、芸術を理解する男。