マスターちゃんの好男子辞典
【闇に揺らめく紺青の危険人物】
ぱしん、と軽く背中を叩かれる。
芝生に座り込んでいたホクサイは、んん?と怪訝な顔で振り向く。
そこには、車椅子に腰掛けた彼女がご機嫌な様子で微笑んでいた。
「おやおや〜、マスターちゃん。怪我はもういいのかい?」
「ええ」
庭園で珍しくホクサイと遭遇する。聞けば、青く染められる草花がないか観察しているのだそうだ。
「いいわけないでしょう。だからアタシが車椅子なんて押してるんじゃない」
「エフ、意外と腕力強いわね。男前」
「誰が男前だって?」
珍しく低い声で凄まれて、冗談なのにと彼女は肩をすくめた。
「いきなりだけど、ホクサイは私のことをどう思ってる?」
「本当にいきなりだね、ボクちゃん困惑だよ。う〜ん、それはマスターとして? それとも女の子として?」
「どっちもよ」
なに無茶なこと言ってんだ、とエフは口の中で舌打ちをかます。先ほどのアインスの件もあってか機嫌が悪い。
「マスターちゃん欲張りだ〜」
あははとへらへら笑い出した彼は、しかし次の台詞で一変。
「どっちにしろマスターちゃんは俺のだよね」
「待って無理」彼女はサッと両手で顔を覆って、行き場の無い感情をこの身体に押し留めようと努力した。
「急に口調が『俺』になるとか、その容貌で『キリッ』とか、もう止して」
「アンタ十分元気じゃない」車椅子の上で身悶える彼女をエフは冷たく見下ろした。
「あはは。マスターちゃん耳真っ赤。真っ青だったらもっと可愛いのに〜」
「ナチュラルに口説いてんじゃないわよ」
ホクサイの背中では、「美男子」と墨で書かれた半紙が揺れている。
【美男子】
容姿の美しい男。(容姿……顔つきとからだつき、すがたかたち)
ぱしん、と軽く背中を叩かれる。
芝生に座り込んでいたホクサイは、んん?と怪訝な顔で振り向く。
そこには、車椅子に腰掛けた彼女がご機嫌な様子で微笑んでいた。
「おやおや〜、マスターちゃん。怪我はもういいのかい?」
「ええ」
庭園で珍しくホクサイと遭遇する。聞けば、青く染められる草花がないか観察しているのだそうだ。
「いいわけないでしょう。だからアタシが車椅子なんて押してるんじゃない」
「エフ、意外と腕力強いわね。男前」
「誰が男前だって?」
珍しく低い声で凄まれて、冗談なのにと彼女は肩をすくめた。
「いきなりだけど、ホクサイは私のことをどう思ってる?」
「本当にいきなりだね、ボクちゃん困惑だよ。う〜ん、それはマスターとして? それとも女の子として?」
「どっちもよ」
なに無茶なこと言ってんだ、とエフは口の中で舌打ちをかます。先ほどのアインスの件もあってか機嫌が悪い。
「マスターちゃん欲張りだ〜」
あははとへらへら笑い出した彼は、しかし次の台詞で一変。
「どっちにしろマスターちゃんは俺のだよね」
「待って無理」彼女はサッと両手で顔を覆って、行き場の無い感情をこの身体に押し留めようと努力した。
「急に口調が『俺』になるとか、その容貌で『キリッ』とか、もう止して」
「アンタ十分元気じゃない」車椅子の上で身悶える彼女をエフは冷たく見下ろした。
「あはは。マスターちゃん耳真っ赤。真っ青だったらもっと可愛いのに〜」
「ナチュラルに口説いてんじゃないわよ」
ホクサイの背中では、「美男子」と墨で書かれた半紙が揺れている。
【美男子】
容姿の美しい男。(容姿……顔つきとからだつき、すがたかたち)