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マスターちゃんの好男子辞典

【戦場に君臨する真紅の威容】



「アインスお兄様は男前一択」
車椅子を押したエフは、真顔でそう呟く。
「でしょうね」
彼女は一枚の半紙を取り出し、ばっとそれを広げて見せる。墨で書かれた「男前」という達筆な二文字が、アインスの目に飛び込んだ。
「……お前ら、一体何の真似だ」
さっぱり分からん、と花壇の草毟りをしていたアインスは顔を顰める。
「だいたい、マスターは怪我が治ってねぇんだから、安静にしないと駄目だろう」
「もう十分です」安静に、という言葉に辟易したように彼女は眉を顰め、男前半紙をくるくる丸めると、「あげる」とそれをアインスに差し出した。彼は軍手をはめた片手で、それを受け取る。
「お兄様。ご多忙の折悪いのだけど、この子を褒めてやってくれないかしら?」
「褒める? 何をだ」
「例えばこの子の容姿とか…、性格とか?」
「私がおまえを『男前』と評価したのだから、おまえも私を評価する必要があります」
「ずっとこんな調子なの」エフは困ったように微笑んだ。
「何だそれは。横暴過ぎるだろう」
言いながら、アインスは暫し考え込んだ。そして草毟りを再開して、「そうだな」と徐に口を開いた。
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。……と言ったところか」
「いきなり全力で褒めちぎるのね」
嬉しいわ、と彼女は笑った。
「調子乗ってんじゃないわよ」
彼女に激しく嫉妬の炎を燃やし、忌々しそうにエフは呟いた。



【男前】
男としての容姿。性格や態度が男らしいさま。

【立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花】
美しい女性の容姿や立ち居振る舞いを、花にたとえて形容する言葉。





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