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マスターちゃんの好男子辞典

【プロローグ/妖しく優美な毒花】



「退屈」
右足を負傷してベッドに伏せっていた彼女は、代わり映えのない天上を眺めては空虚に呟く。
「ファルの顔でも見に行きましょうよ」
話し相手としてベッドの脇の椅子に腰掛けているエフに、彼女はそう話しかける。
「急に何言い出すわけ」
「いいじゃない、見に行くだけ。私、あの人の端整な顔立ちを見たら足も治るような気がするの」
「アンタどんだけよ」すっかり平生の調子を取り戻した様子に安堵しつつ、エフは呆れて溜息を吐いた。
「まったく、ファルちゃんの弟であるこのアタシが側にいるってのに。アタシの顔じゃ不満なわけ?」
「まさか」彼女は左右に首を振り、ふふと優雅に微笑んだ。
「エフは綺麗よ。ファルと違って艶っぽくて、女性的だわ。美形よね」
「あら。嬉しい事言ってくれるじゃない」
エフは、珍しく彼女の前で口元を緩める。「綺麗」と形容されたことが素直に嬉しかったようだ。
「美形といえば。この前ネットの記事で見たのだけど、かっこいい男性、いわゆる好男子はその特徴から分類できるそうよ」
「さすが面食いお嬢様。よくご存知で」
「それで、私の可愛い貴銃士たちも分類できないかしらと今、思いついたの」
「思いつきで物を言うのは良くないわよ」
嫌な予感がしたエフは、彼女を即座に窘める。しかし、暇を持て余したお嬢様は、留まることを知らないらしい。
「エフ。習字道具と車椅子を持っていらっしゃい」
彼女は上体をむくりと起こし、楽しそうに微笑んだ。





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