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side story

【真面目に有能に】



「脱がしてもいーい?」彼女の動揺を誘うため、わざと目的語を省いた。
「もう脱がしているでしょう」先の台詞の意図を見透かすように、彼女は答えた。
冷血な仮面を剥がす企みが失敗して、なぁんだとラブワンは嘆息する。
女子供が寒さと恐怖に震えながら、下着姿で穴を掘る。これから銃殺されようという自分たちの、墓穴を掘らされている。そんな家族を目の前にして何もできないで佇む男は、帝軍に潜んでいた裏切り者だ。
「下着姿じゃなくってさ、裸にしたいんだよね。女どもは特に」
その言葉で、男の顔色が紫になる。憤りの赤と、恐怖の青、その二つが混じり合った色だった。彼の驚愕を映した瞳を横目に捉え、ラブワンの口の端が歪む。
「その方が、兵士ちゃんたちも楽しめるからね〜★」
星型のサングラスの下で、青い瞳が嘲った。
「だめよ」
女としてのものではなく、軍人としての侮蔑の視線が向けられる。
「兵士に裸を見せるのは良くない」
「そ〜お??」
「まともな男をおかしくするだけ。彼らは惨めな下着姿のまま始末なさい」
「りょうか〜い★」
軽い返事で答えるラブワンを一瞥し、彼女はくるりと踵を返す。
「あれれ?」翻る黒髪の毛先を目で追う。「マスター、もう行くの? 見てけばいいじゃん」
「そこの兵士が絶望する様を?」振り返る横顔。アーモンド色の瞳は暗く、闇深い。「興味無いわね」
そんなものを見届けるくらいなら、次の軍議にでも参加する。彼女はそう言って歩き去った。
「つれないな〜」あっはっは、と愉快に笑った。
マスターが居ないんじゃあ、あいつらは裸にしてやろうかな。でも、下着姿のまま殺せって命令されたし、バレたらオイラ、嫌われるよな。
「ちょっと君たち〜。悪いけど裸になってくんない?」ラブワンは、兵士の目を楽しませることに決めた。「は〜い。そんじゃ、脱いで脱いで!」
命令を無視することになるが、次は彼女を悦ばせるようなシチュエーションで、公開処刑を行えばいい。
また裏切り者をあぶり出さないといけないなぁ、とほくそ笑んだ。
そのためならオイラ、今回も真面目に有能に、お仕事するよん。
「早くしろよ。ドブネズミども!」
恐れと戸惑いで立ち竦む穴掘り隊に、銃を振りかざして怒声を飛ばした。彼らは持っていたシャベルを投げ捨て、弾かれるように下着を脱ぎ出す。
どうかお許しくださいと、顔面蒼白な裏切り者が、今更請い願った。私の家族にこんな、こんな仕打ちだけは……。
「はあ?」鈍器と名高い自身の本体で、ラブワンは男を殴りつける。
「観客が上演中に喋るなっての……。マナー違反だって、ママに教わらなかったか?」
鼻から伝う熱い液体が唇を濡らし、ぺろりと舌舐めずりをした。





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