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side story

【絶対★高貴!ラブワンくん】



「マスターちゃんっ♪」
作戦の資料と睨めっこをしつつ、左腕にしがみついて甘えたモードのきゅるちゅと会話をしながら、城内の廊下を歩いていた昼下がり。
「なにラブワン」資料から目を離さず、背後から響くご機嫌な呼び声に応える。
刹那、伸ばされた彼の左手が、さわさわと彼女のお尻を撫でていた。
「う〜ん、やっぱ美尻★」ラブワンは要らぬ感想を漏らす。
「…………」
彼女の思考が停止する。
処理能力が著しく低下していた。
現状を正しく認識することができず、黙り込む。
「サイッッッテー!!」きゅるちゅが呆然とした彼女の左腕を引っ張り、ラブワンの魔の手から救出した。
「おねーちゃんにセクハラするとか、ほんっとおまえあり得ない!!」
「んじゃ、俺っちはライたんと作戦会議してくっからさ! まったね〜ん★」
今しがた彼女にセクハラをした左手を振り、金髪の青年は機嫌よく廊下を駆けてゆく。
「二度とおねーちゃんに近寄るな」
珍しくドスのきいた声できゅるちゅが言った。恐ろしい形相で花火柄のスーツの後ろ姿を睨め付けている。そのまま射殺さんとする気迫が漂っていた。
「おねーちゃん、大丈夫……?」
鬼の形相からころりと心配そうな表情へと一変し、鈴を張ったような瞳できゅるちゅは彼女の顔を覗き込む。あまりにショックが大きかったのか、先程から我を失っているようだ。
「えらいもん見てもうたわ……」
何処からともなく現れたゴーストが、彼女の背後で腕組みをして呟いている。
「なにゴースト。おまえいたの?」
「噂には聞いとったが、まさかここまでとは……。さすがはイギリス銃やな」
「え〜、イギリス銃ってそんなイメージ?」きゅるちゅは顎に人差し指を当てて、うーんと思案した。「イギリスって紳士の国なんでしょ? あいつのどこがイギリスっぽいわけ?」
「なんやこう、変な方向に変態ゆうか……」
「ゴースト」
今まで黙り込んでいた彼女に急に呼ばれて、「ふお?」とゴーストは驚いた声を上げる。なんやマスター、意識戻ったんかいな。
「今からラブワンを追いかけて、奴の尻を揉みしだきなさい」
「何でそうなんねん」ゴーストの手刀が彼女の肩をとん、と叩く。
「目には目を、歯には歯を。尻には尻を!」
「あんさん、ちょっと落ち着こか」
彼女の瞳はめらめらと怒りに燃えている。
「ラブワンの! 尻を!! 揉みなさいっ!!」
「あー、あかんわこれ。マスター完全にぶちギレとるわ」
「おねーちゃん、可愛くないよぉ……」
悟りの境地に至るゴーストとは対照的に、きゅるちゅは戸惑いを隠しきれずうるうるとその瞳に涙を溜めた。


「影の薄い貴方ならラブワンの背後をとることなんて容易でしょう? 後ろをとったら勢いで尻を揉み返しなさい」
彼女にそう命令を下されたゴーストは、仕方なくラブワンの後を付けていた。先程からぴったりと至近距離で尾行しているのだが、全く気づかれる気配がない。さすがはワイ、とことん影薄っすいわぁ、とゴーストは自画自賛する。自分で言っていて虚しくなった。
揉めと言っても要は触って逃げればいいのだ。スキンシップでもとるようにさらりと触れて、さっさと帰ろう。
と、ゴーストがそう決意を固めた時だった。
「トゥッス!!」
謎の掛け声とともに、ラブワンがぐるんと勢い良く振り向いた。
「っうおお!?」びくりとゴーストの肩が震える。
「なんだゴスちんか〜!」驚いた様子のゴーストを認めると、ラブワンはあははと陽気に笑い出した。「怒ったマスターが背後から不意打ちかけてくんのかと思って、ひやひやしてたんだよね〜」
「あんさん、ワイの気配を察知して……? っちゆうか、ケツ触んのやめろや!!」
「う〜ん。小振りで引き締まったお尻……★」
またもや要らぬ感想を漏らしながら、黄金の左手でゴーストの小振りな尻を揉むラブワン。
「現行犯逮捕!!」
ゴーストがそう叫び、マスターから預かった発信機のボタンをぽちりと押すと、ラブワンの米神をダァンと一つの銃弾が撃ち抜いた。


沈む夕陽を眺めながら、真紅に染まったテラスルームで、彼女は優雅にハーブティーを味わっている。
「ファル。尋問部屋プレイルームへ向かいなさい」
『対象の無力化に成功』というアインスからの伝達を受けた彼女は、ティーカップから口を離して、背後に控える男に告げる。
「御意」
ティーポットを片手に持って佇むファルは、彼女の指示に恭しく返事をした。
「アインスには、彼を貴方の尋問部屋まで連れて行くよう指示を出します」
「マスター。本当によろしいので?」
「もちろん」彼女はティーカップを置き、抑揚の無い声で告げる。
「ラブワンに必要なのは教育ではなく、調教です。貴方の好きにして構いません」
「有り難きお言葉」ファルは心底嬉しそうな笑みを浮かべる。「では、私はこれにて失礼いたします。色々と準備がありますので」
男はティーポットをテーブルに置き、一礼してテラスルームを音もなく去った。
「長い夜になりそうね……」
夕焼けを気怠げに見つめる瞳。
呟いた彼女の唇が、重い溜息を一つ、落とした。


「ありゃ? マスターのかと思ったらアイちんのおケツだった〜!!」
米俵のようにアインスの肩に担がれたラブワンの開口一番が、それだった。両手でアインスの尻を鷲掴みにしている。
「割れ目に指を挟むな」アインスは動じることもなく、低い声音で注意する。
「いや〜、さっすがアイちん。適度に硬くて雄々しいお尻だね★」
「そうか」
「てゆーか、ここどこ?」
ラブワンはきょろきょろと周囲を見回す。ここはひどく暗くて、何やら湿っぽい。城内の地下だろうか、と思った。
ギイイイ、と重い扉の開く不気味な音がした。
「いって!」どさりと乱暴に床に落とされ、ラブワンは非難の目を向ける。「っも〜、アイちんってば雑!」
「ここがテメェの豚小屋だ」アインスはぎろりと鋭い眼光でラブワンを見下ろし、扉のドアノブに手をかける。「じゃあなファル。あとは任せた」
「はい。お任せあれ」ファルの清々しい返答。
「え……ファルちん??」
部屋の真ん中に静かに佇む眼鏡の男。彼を見上げたラブワンの背後で、何も告げずに部屋を出て行くアインス。
バタンと重厚な扉が閉ざされた時、ラブワンは部屋の全景を初めて認識した。
真っ赤な革の壁。中央に置かれた電気椅子。その周りを囲むように、さまざまな道具が整然と並べられている。まるでインテリアのようだ。ただ、とても良い趣味だとは思えない。
「…………」
何気なく視線を宙に向けると、天井が鏡張りになっていて、自分の戸惑った顔がよく見えた。
(えーっと、ここって、つまり……?)
「我が楽園へようこそ」
茨の拘束具を漂わせたファルが、眼鏡の奥の瞳を愉しげに歪ませる。
赤い部屋の僅かな明かりに照らされた端正な顔が、不敵に笑った。
「今宵は私とパーリィ★ナイトですよ。ラブワンさん?」


その夜、ファルとラブワンの間にどのような遊戯が行われたのかは、杳として知れない。




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