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side story

【統べる魔物】



貴銃士よ、その高貴の前に服従せよ。



「マスター」
それは、冷徹な物言いだった。
彼の弾は周囲の敵を一瞬にして薙ぎ払う。
こんな芸当が出来るのは、現代銃の中でも唯一、アインスだけ。
「俺の傍を離れるな」
真に受ければ、「なんて優しいお言葉」と笑ってしまう。しかし彼の言うそれは、決して甘い台詞ではない。
傍を離れれば、弾が当たってお前も死ぬ。
そういう警告なのだ。
こんな時、私は黙って頷くしかない。

彼が羨ましくて堪らなかった。
雄偉な体躯、屈強な肉体、銃器を振りかざす強大な腕力。
まるで「強さ」を体現したような存在。
私が従えている貴銃士たちも、みな彼を慕い敬っている。
だから、時々思う。
貴銃士たちは、私に従っているのではない。私に従う彼に追随しているだけなのだ。私にないものを、彼は全て持っているから。
「マスター」地の底から響くような低い声。これも、凄みがあって良い。
「命令を」
その言葉で、ずっと背の高い彼を見上げた。
ガスマスク越しに覗く瞳は黄金色。瞳と同じ色を持つ彼の短髪。百獣の王の鬣のよう。
だが彼の双眸に、王に相応しい威厳は無い。
縋っている。
求めている。
祭り上げられることに苦悩している。
だからこそ彼は、私に服従する。
支配こそ安寧の活路と、その身をもって知るのだから。

腕を伸ばした私に、アインスは示し合わせたようにその身を屈める。
隆起した血管の走る太い首に手を回す。
顔を近づければ、その喉元に易々と口づける事ができた。
彼の望んだルーティン。
「おまえの弾で蹴散らして」彼の喉から口を離して、優しく囁く。「私に楯突くもの、すべて」
アインスの強さは完全だ。だけど、その強さは完璧ではない。
貴方と私で完璧になる。
これは、そのための支配。
「ああ」
籠もった声で返事をする彼の双眸は、畏れをなした獣の眼。
サーカスのライオンだ、と私は笑った。


ないものは補えばいいのだ。
彼を隷属させて、そのちからを手に入れた。
私は全て持っている。





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