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side story


「お嬢。花は好きか?」
花壇にホワイトデイジーが咲いた。小さく愛らしい菊と形容され、日本では雛菊と名付けられている。それらを数本摘み取って、彼女の部屋を訪れる。
「うん。好きよ」
きれいだもの、と彼女は笑う。変な質問だと思われたのだろう。彼女が花を愛するのは当然だ。そう育てたのは、この俺だ。
でもね、と彼女は声を小さくして、満面の笑みを浮かべて言った。
「チョコレートはもっと好き」



【チョコと雛菊】



「………チョコレートか」
「毎日食べたい」
彼の気持ちも露知らず、10歳を迎えた彼女は嘘のない感想を口にした。
自分が男の子で、毎日がバレンタインだったら良いのにと願うほど、彼女はチョコが大好きだ。チョコだけでなく、スイーツは和洋問わず何でも好きでよく食べる。おそらく、きゅるちゅとナインティと三人で夜な夜なお菓子パーティーを開いていたことが原因だ。
このお嬢様は、すっかり花より団子である。明らかに食育を間違えた。
「チョコばっか食べてると虫歯になるぞ。程々にな」
「えー」
「えーじゃねぇ」
そう言って、アインスは彼女の前にそれを差し出す。
「………」
きょとんと彼女が目を丸くして、雛菊とアインスを交互に見やると、「チョコじゃなくて悪かったな」ときまり悪そうに呟いた。
「プレゼントだ。誕生日の」
「……!」
彼女は、そのアーモンド色の瞳を輝かせて、わっと弾けるような笑みを浮かべる。嬉しい、覚えていてくれたのね、と言わんばかりだ。
「私はアインスが一番好き!」
雛菊の花束には目もくれず、彼女は思いっきり跳ね上がり、彼の首に両手を回してぶら下がるように抱きついた。
「おい。急に危ねぇぞ」
「花もチョコも好きだけど、やっぱりおまえが一番好きよ!」ぶら下がったまま機嫌よく足を揺らして、鈴が鳴るような愛らしい声を響かせる。
「だっておまえは、einsだもの」


一番強くて、一番大きくて、
一番優しい貴方が大好き。



「来年はチョコを頂戴ね」
雛菊の花束を受け取った彼女は、もう来年の誕生日プレゼントをおねだりしている。
「チョコか…」
一口にチョコと言っても、色々あるのだろう。おそらく。
甘い物にそれほど興味の無いアインスは、彼女の好みを探ることにした。
「お嬢がよく食べるチョコは、どんなだ?」
「ラグジュアリーセレクション」
「……冗談だろ」
三ヶ月前から予約必須の、最高級品ではないか。
このお嬢様、どこでそんなもん食ってんだ。





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