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side story

【冷凍庫前の攻防】



給湯室は味覚鬩ぎ合う戦場だ。
ドアを開けると、出会い頭に火蓋が切られた。
「来よったな。チョコミン党員」
不適な笑みをたたえたゴーストが、右手にスプーン、左手にカップアイスを持って佇んでいる。
「いかにも。わたくしは次期チョコミン党首」ゴーストの放つ異様な雰囲気に調子を合わせて、私は問うた。「入党をご希望ですか?」
「マスターの澄ました顔、ワイの推しバニラでトロントロンにしたる」
「あら残念。バニラー構成員というわけですね」冷凍庫の前に立ち塞がるゴーストに歩み寄り、睨みをきかせた。「お退き。わたくしはチョコミント以外に興味はございませんの」
「ふん。あんな歯磨き粉みたいなんの何がええねん」
「歯磨き粉!」彼の幼稚な発想は嘲笑ものだ。私は大仰に肩をすくめて、やれやれと首を横に振った。
「あの美味しさを歯磨き粉と形容するなんて。お里が知れますわね」
「ククッ……このバニラアイスを食うても同じ口が叩けるか?」アイスをすくったスプーンを構えてゴーストは私を挑発している。
「その茶番いつまで続くんだ」ラーメン用のお湯を沸かしている89が、シンクに寄りかかりながら口出しした。
「89はチョコミント派?」この際彼を巻き添えにして多数決に持ち込もう、と私は尋ねる。「それともバニラ派?」
「俺は味噌一択だ」
「それラーメンの話でしょ!?」アイスのミソ味のことだったら、それはそれで許しがたい。
「このおたんこなす!」ゴーストが罵り文句を被せた。
凄まじい存在感を放っているゴーストに、89は圧倒されている。





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